ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: I 第一章〜幻想夢花火〜 ( No.1 )
- 日時: 2011/01/27 14:55
- 名前: 風(元;秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: SI24yRUY)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜I〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第一章:幻想夢花火
第1話「初めてのお使い?」
妙なアンケートを終えて次の日,藍沢は何時も通り七時半に目を覚ましす。
父も母も彼が起きる頃には既に仕事場に向っている。何時も藍沢竜牙は1人で食事を取る。
食膳に置いてあるのは味噌汁にカップ麺…
男子高校生が食べるにしては少々,否かなり物足りない物だった。
何時も是かとばかりに嘆息しながらカップ麺の容器の上に置いてある割り箸を手に取る。
そして,お湯を注ぎ三分間待ち割り箸を割る。
ズルズル
『あれは本当だったのか?』
誰にもばれず社会的罰則を受けない殺人を行える組織…
そんな物がそもそも有るのか?考えて見ればアレは夢だったんじゃないのか。
ズルズルと音を立てて面を口に流し込む藍沢…何時も何時も同じ味で味わう気にもならない。
残ったスープをそのままにして機能の事が真実かどうかを確かめる為に自らの部屋へと直行する。
そして,PCの電源を立ち上げる。
「夢であって欲しい。でも,殺人はしたい♪」
「な!?」
立ち上げて数秒…突然男の声。
其れは確かに昨日の男の声だった。特徴的な低い渋みのある声…
昨日と違い感情が乗せられているが直ぐに分る。
「いやぁ,昨日は俺達の組織に入ってくれて有難な小僧」
「小僧じゃない…」
「知ってるよ…藍沢竜牙だろ?父親の名前は将星…母親の名前は篝…
不登校児で友達も居ない…家族関係も冷え切ってる。分ってるぜ?」
その男の紡ぐ言葉に竜牙は瞠目する。
何故,両親の名を知っている…不登校児だってことや家族関係まで…
そう一瞬当惑するが考えて見れば下に居る人間に聴こえない様に
自らの脳内に話しかける様な技術を持っている組織だ。
一般人の情報など集めるのは容易い事なのかも知れない。そう思い直し平常心を保つ。
言い知れぬ恐怖感を感じながら……顔には出さず言う。
「今日…から遣るってのか?」
「あぁ?今日からでも良いぜ…何時でも大歓迎だ。唯,人数制限が設けられてるがな」
「人数?」
「俺達は大量虐殺者じゃない…増えすぎた人間を選定してより良い社会を造るってのがコンセプトだ」
「成程,でその人数は?」
「お前等初心者クラスは一年間に100人だ…五年間初心者として扱われ
五年後からは中級者として五年…300人一年間に殺す事を許されるようになる。
因みにその五年を終えた者は上級者として扱われて…」
「もう良い…注意書きを読むさ」
今日から殺しに身を染めることになるのだろうか…
疑問を口にすると男は気軽に応えた。何時始めても良いと…
そして,人数制限の事を口走る。人数制限についてはその人のランクにより決まっているらしい。
初心者から中級者で三倍と言う事は単純に上級者でも三倍なのだろうか…
それとももう少し嵩増しして1000と言うキリの良い数字だったりするのだろうか?
一年でそれだけ殺せば充分な大量殺戮に思えた。然し,今世界は人口爆発を繰り返している。
事実,海の中や地底にも人が暮らすようになっているのだ。
その世界人口たるや50年前人口爆発が騒がれ始めた時の比ではない。
約60億人の人口が220億人まで膨れ上がっている。そんな事を脳内で考えながら注意書きを読む。
脱退や集会について…此方がどの様な保護を受けているかについて,
そしてランク付け,レベルと言う概念について…色々と事細かに記されていた。
一頻り読み終えた瞬間だった。
「どうやら読み終えたみたいだな?中々速読じゃないか…1分程度で読みきったぞ♪」
「アンタ…一体?」
「目の動きで分る」
『監視でもしてるのか?』
「どうする?引き返すなら今だぜ…今引き返せばこの瞬間止めれる。
今,殺人を行う事にすれば其の瞬間から一年間の契約が結ばれる」
「斧……武器は斧が良い」
男は藍沢が読み終えたことを直接確認したかのように言った。
藍沢は驚き本当は監視カメラでもあるのではと勘繰る。
然し,そんな物はない。
もっと高等な何かで此方の動き,目の動きまでも読み取っているのだと知る。
ルールを知った上でどうするかと言う男の問いかけに竜牙は冷然と言う。
其れはこの殺人クラブに手を貸すという表明…武器の入手だった。
「斧?斧かぁ♪ジェイソンでも思い浮んだか?」
「ジェイソンはチェーンソーだろ」
「斧も有りだぜ♪」
男は藍沢竜牙のチョイスに心底楽しそうに応えた。
その瞬間,藍沢の座っている椅子の真後ろに巨大な斧が顕現された。
ゴトリ…
其れが落ちる音がする。
藍沢はゴクリと唾を飲み其の斧の柄に手を遣り持ち上げてみる。
「どだ?中々の重量感だろ?」
「………確かに是なら人を殺せるが安全に…」
「鏡見てみろ…」
「!?」
重量が体を伝う。
重みが体全体に圧し掛かるのを理解して竜牙は現実で有る事を理解する。
だが,其れと同時にこの武器を持った所で人は殺せても
自らが安全に殺人を出来るわけではないと言う疑問が生まれる。
男の言葉のままに鏡を覗く。自分の姿が見えない。無論斧の姿も。
そして,その鏡が熱源センサー機能を有している事から体温すら消している事を理解する。
「スゲェ…完全に姿を消して殺しが出来る!」
「そう言う事だ,スゲェだろ!」
「アンタがスゲェんじゃなくて組織がスゲェんだろ?」
「おいおい…酷いな。俺が造った機能も有るんだぜ?」
男の言葉に藍沢は目を見開く。
男の言葉が本当ならこの男は組織の中でも相当上の方に居る事になるからだ。
「さてと,準備も整ったし…行くか?」
「待て,幾ら姿が見えなくてもこの周辺で殺人を犯したら怪しまれないか?」
「心配ご無用…テレポーテーションがある」
何を言っているんだ…テレポーテーションなんて空想の産物だろう。
藍沢がそう思った瞬間だった。自らの体が透け始め唐突に消えた。
慣れない感覚に目を瞑っていた藍沢は恐る恐る目を開ける。
其処には見た事の無いビル群…行きかう人々。
その人の群れの中で何だかボンヤリと光り輝く若い女性が居た。
胸は大きくスタイルも良く色白…顔を見ても中々の美人だ。
周りの様子を見回しても自らが全く認識されていないのは明確だ。
何せこんな巨大な斧を持っているのに誰一人反応しない。
幾ら,仮装が普通に行われるようになったからと言って異常だ。
藍沢はその女に近寄る。女は携帯で誰かと話しているようだ。
「ゴメンな…後1分待ってくれ!」
「えぇ!?前もそんな事言ってなかったぁ?」
「でもよぉ,悪いとは思ってるんだ」
「分った分った…はぁ,あたしも随分丸くなったもんだよ」
ギラリ…
どうやら待ち合わせに彼氏が遅れたらしい。
藍沢はそんな会話は聴きたくも無いながら耳にしながら斧を振り上げる。
太陽光が反射しギラリと刃渡りが冴える。然し,誰も反応しない。
ズン…
両手で振り翳し思い切り振り下ろす。
斬撃は女の肩に命中し鮮血が舞う。肩の骨が陥没する感覚が分る。
女は携帯を落とし唐突に来た痛みに驚き肩を見遣る。
ボタボタ
「えっ?何……何であたしの肩!!?きゃっきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「おい…おい!?どうした玲奈!!玲奈!!」
苦痛が大きすぎて直ぐには理解できなかった痛み,
然しそれも遂には体に行き渡り彼女は悲鳴を漏らす。
彼女『玲奈』の悲鳴に反応して彼氏の男が大声を張り上げる。
玲奈は何かが自らを攻撃したのだと察知し走って逃げ出す。
方を庇いながら汗を流しながら…
「いやだ…死にたく無い」
ズン…
ドパァッ!!
出血多量で早く走れない彼女,何が何だか分らず
助けたくても助けるという行為を行う事に戸惑う人々。
そんな中,次の一撃が彼女の肩をまた襲う。彼女は痛苦に美しい顔を歪めて倒れ込んだ。
ドチャァ…
「ハッハッハッハッハッハッハ………そんな,何で」
何で…最後にそう言って彼女は息を引取った。
肉を斬る感覚が手を伝う。地の臭気が鼻を通る…回り一面に散る夥しい血痕。
頭がくらりとする。
是が,罪無く行われる事なのかと…藍沢竜牙は呆然と思った。
一方,その行為を遠くから見ていた男が呟く。
恐らくは藍沢と話していた先程の男だろう…黒尽くめで姿は分らない。
其の男は唯一言…
「初めてのお使い終了♪藍沢ちゃん……良く頑張りました」
そう言って男は現場から消えた。
===================================
成神玲奈死亡___確認
貴方はLv1になりました…よって組織の団員となる事を認めます
===================================
無機質な声が藍沢の脳内に響く。
放心状態の藍沢竜牙には響きはしなかったが…確かに其の声は脳内を巡った。
彼女が死んだ瞬間,彼女の死が藍沢の経験地として加算され
組織の団員としてのレベルが上がる。Lv1詰りは正式団員の最低限のレベル
この日,彼は抜けられない泥沼に嵌った。
∞END∞
NEXT⇒第一章 第二話「初めてのお茶会」へ