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- Re: I 第二章 疾走愛虚ロ 第一話執筆中 参照数1000突破 ( No.109 )
- 日時: 2011/06/06 19:51
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)
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第二章:疾走愛虚ロ
第一話「藍沢竜牙」
八月三日火曜日、その日は、藍沢竜牙の通う高校 旭丘高校の夏休みの中の数少ない登校日だった。
五月以降、不登校児だった彼は、Kや渡会達の言葉に動かされ学校に通うようになっていた。
最初の頃は、戸惑う事も多かったし冷かしを受けたり馬鹿にされたりと、彼も苦労したようだ。
当然だろう。 長年、不登校だったものが突然、真面目に学校に通うようになったのだから。
寧ろ、不振がられても弾圧されても当然といえるだろう。
彼は、何せ一年間不登校状態だったのだから。 だが、それも昔の話だ。
運動も勉強もでき容姿も端麗な彼は、直ぐに女子の後ろ盾を得るようになる。
人気も有るし能力も高いゆえ多くの男子が嫉妬し羨望した。
中でも嫉妬する男子は、厄介だったらしいが、今では、それらの弾圧行為なども鎮火している。
「藍沢君! おっはよう!」
「おう……今日もテンション高いな。 御倉さん」
藍沢が、教室の扉を開け中に入ると、扉の近くの席に居た大らかそうな顔立ちのクラスメートの女子が、挨拶をしてくる。 朝に弱い彼には、彼女の溌剌とした挨拶は、堪えたらしい。 青年は、肩を落とす。
少し疲れた笑みを浮かべて元気なのが羨ましいという風情で挨拶を返す。 そんな、適当な藍沢の挨拶に対し御倉と呼ばれた少女は、膨れっ面を作り「そんなんじゃ一日もたないよ!」と彼に指摘した。 藍沢は最もだと一人ゴチる。
席に付くと多くの女子と藍沢に好意を抱く男子生徒が話しかけてくる。
この感覚が、最初は妙だった。 初めの頃は、何人もが一編に話しかけて来るのに慣れずに居た。
聖徳太子ではないのだから、そんなに一編に聞かれても無理だと冗談も言ったものだ。
この学校は、一年から二年に進級するときに一度だけクラス替えをする。 二年から三年に上がる時には、クラス替えされないのだ。
詰り、このクラスは、去年一年間ほとんど藍沢と言う存在を知りながら接すリ機会を持てずに居た事になる。
怪訝な目で見られるのも邪険にされるのもそれに伴って、質問攻めをされるのも当然と言うことだ。
「藍沢君! あったし、馬鹿でさぁ……数学の課題、終って無いんだけど教えてくんない?」
「あっ! ずるい! 僕が、藍沢君に、社会を教えてもらうのに!」
何とか、学級の雰囲気に夏休みに入るまでに努力して打ち解ける事に成功した彼は、今ではクラスの頼れる一員だ。
もっとも、未だ能力的に頼りにできるという意味での話だが。
良く、質問してくる学友に宿題の内容を教えたりしている。
余り、断る事もなく優しげな雰囲気が有りその点は信頼を勝ち得ている。
今の、高校生活は、兎に角、自分の賢さを売って信頼を得て仲間を得るための溜めの時間の様な物だった。
本当の友人と呼べる存在を高校卒業までに手に入れてみたいと思う藍沢だった。
自分が、所属している組織の活動は、一人では厳しい。
独りではないが出来得る限り協力者や理解者、抱擁してくれる存在が欲しいと、彼は悟った。
そして、もう一つ、悟った事が有る。
どんなに尽くしても良い人を気取っても、妬む者は居る。 恨む物は居る。 生理的に、合わない者も存在する事を。
いな、大分、昔からそのような事は悟っていたがそれが、鮮明になりより諦めが付いた。
その分、分かち合える可能性の有る存在の事も見えるようになって来た。 今、学校生活は、藍沢の地獄の様な戦いの日々の中の、一つのオアシスと変貌していた。
『あんなに、無意味だ何だと思って居たのにな……』
ささやかな日常の風景に彼は、目を細める。 幸せがとは、こんな小さなことなのかと絶望のどん底の様のような、殺戮の世界から逃れられる手段を手に入れて思った。
だが、それと同時に、組織の求める平和とその世界にも大きな興味が有るのは事実だった。
そんな、二律背反する悶々とした思いを抱えながらも彼は、器用に生きていた。 器用に生きれるようになった。
少しは————
「是で、今日の日程は終了だ。 起立! 礼! 解散!」
八月三日の学校での日程が終了した。
何人かの生徒は、夏休みの課題を全て終らせる事が出来ず居残りとなった。
先生が、高校三年の八月にもなって夏休みの課題を今頃まで残しているとは! と、憤慨しているのが聞こえる。
藍沢が、教室を出るのを見た一人の女子生徒が涙を潤ませ助けを請うような瞳で彼を見詰る。
彼は、唯でさえ細い部類の双眸を更に細めて、彼女に旨を伝える。
先生に素直に従った方が得策だと彼女に諭す。
女子生徒は、盛大に嘆息して諦め居残りを受ける事にしたようだ。
彼は、憐れな少年少女を一瞥し憐憫の情を感じながらも、先生の行っている事は教師として正しく、そして、彼らも嫌な形とは言え学ぶ事が出来るのだから悪いことでは無いと、心に言い聞かせる。 高校の内申書は、人生の中で大きな物になる筈だ。
彼等が、自分から勉強しないのなら誰かに無理矢理にでも勉強を教わった方が良い。 今後の為として……藍沢は、そう、考えた。
そんなことを考えながら彼は、自分の目的のために自らの足で歩く。 先程の者達も自分で歩く足になる事を望んで。
無論、彼の今の目的は、Iの戦士としての実力の底上げのための殺戮行為ではない。
Iに所属する者達も大概は、現実世界で働きお金を稼いでいる。
能力を使えば金は容易く手に入るかも知れない。 しかし、彼等の思想は、危険思想ではない。
体裁上はだがあくまで、選定行為であり虐殺ではない。 故に、姿を消さなくても高い身体能力を発動する事も、身に着けた特殊能力を行使する事もできるが、使用はしない。 組織の本懐に触れるからだ。
彼の今日の目的、それは、学校生活の中で出来た多少なりとも理解してくれる存在たちと、勉強会をするために図書館へと足を運ぶ事だった。
少し後のこと。 彼は、黙々と仲間達の居る場所へと足を進める。
藍沢は、所用あって遅れて合流する事になった。
勉強会を始めると設定した時刻は、既に三十分ほど経過していた。
理由は明確だ。 彼のもう一つの顔。 Iの戦士としての任務。
三人ほどのクラスメート達と一緒に歩いていた時だ。
突然、何の脈絡もなく携帯のバイブレーションが鳴る。 彼は、幾つかの予測を瞬時に立て、一番高い可能性を導き出す。
組織としての活動、指定された人間の殺害。 彼は、嫌悪感の滲んだ顔で携帯の液晶画面を確認する。
その瞬間、可能性は確定へと移行する。 彼は、友人達に急用が入ったからと謝り、少ししたら戻ると付け足しその場を去った。
今回の殺害対象は、何れも中学生から高校生位の若い男女。 十数人だった。
緊急事態令が発令されてからと言うもの、毎日のように十数人の人間を屠る日々が続いた。
間断なく作業だと言うように。
嫌悪感を抱きながら罪悪感に苛まれながら日々、煩悶し震えながら……手を汚し続けた。
今や、彼は、通常の下級戦士の実力を逸脱した存在へと成りつつあった。 能登や条の内達もそうだ。
組織は、最後の決戦が近付いている事を悟り、制限を外しメンバーの実力の底上げに乗り出した。
長く壮大な計画の終焉が、見えてきたのだろうとKは嬉しそうに、だが、少し儚い表情を浮かべて言っていた。
『後味悪ぃ……』
藍沢は、友人達の居る図書館へと駆け足で移動する途中、今回の任務を思い出す。
携帯により呼び出され、人気の無い場所に移動し組織の装置により転送された場所は、廃墟だった。
彼は建物の中に転送されたが、煩雑する医薬品の入ったビンや設備から察するに病院だと知る事ができた。
藍沢は、先ず抹殺対象となる人間達を探すために移動を始めた。
本来ならKのオペレートが有るのだが今回は無い。
組織としての重大な仕事が有るらしかった。
誰からの援助も受けられない状況の中、彼は、進む。
初めてではない。 Kも何時も暇と言う訳では無い。
最初の時こそ、組織が、新人育成のために気を使っていたが、一ヶ月が経ち藍沢も組織の活動に慣れてきた。
そして、組織の活動は、転機を迎えていた。
組織の重鎮である彼の活動は、苛烈を増し彼も藍沢と時間を合わせるのが難しくなってきたのだろう。
最近は、一週間に一回から二回は、サポートなしの状態で彼は、任務を遂行していた。
『二階は、確認終了だな……一階に降りるか、それとも昇るか?』
顎に手を添えて彼は思案する。
彼が思案していると複数の若者の声が聞こえる。 下り階段の方からだった。
彼は、対象が下に居る事を察知し素早く階段を駆け下りる。 組織のバックアップのお陰か足音は他者の耳には届かない。
『居た——』
一階へと降りると更に下へ行く階段はなく、彼の左横に長い廊下が続いていた。
廊下の方へと出る。 見回すと階段へと向かい十数人の中学生位の男女のグループが歩いていた。
「ビビッてんのかよ? お化けなんざいねぇとか抜かしてた癖によ?」
「だってぇ……何か凄く雰囲気が、怖いんだけど」
彼等の話を聞く分には、心霊現象の心眼を確かめるという名目の肝試しに、此処に入ったようだ。
藍沢は、小さく謝罪の言葉を口にして斧をふるう。
先頭に立っていた恐らくは、少年達の先導役と思しき少年が、頭蓋骨を粉砕させ大量に血を噴出させ倒れこむ。
最初は、その突然の光景に、何が起ったのか皆理解できなかったようだ。
しかし、少年の遺体がドサリと音を立てた瞬間、周りの学生達の表情が変る。
皆、一瞬で理解した。 つい先程まで動いて喋っていた存在が、今は、誰かも分らないほどに顔面を損傷させ痙攣している。
誰もが、少年が即死の損傷を負っていることは理解できた。 不可視の何かを感じ一斉に彼らは、逃げ出した。
涙を流しながら、絶叫しながら。 しかし、そんな中、一人の少女が、死んだ少年へと歩み寄る。
痩せ型の栗毛の可憐な印象の少女だ。 目からは大粒の涙が、絶え間なく流れている。
横たわる命なき者の恋人か何かだろうか。
「うわあぁぁぁぁぁん! 何で……何で、克哉が!? 神様……」
「馬鹿! 凛! 何やって……凛!?」
骸に向かって少女は泣き叫ぶ。 どうやら、凜と言う名前らしい。 凜は、克哉の体を強く抱きしめ揺さ振る。
その場を離れようとしない彼女を助けるために、彼女の友人と思しき眼鏡をかけた少女が、駆け寄る。
藍沢は、良心と罪悪感を押し殺し武器をふるう。 凜と言う少女の首が吹き飛ぶ。
彼女を救いに来た少女の目の前に、その首は転がる。 首からは、絶え間なく血が流れる。
少女は、半狂乱になり倒れこみ失禁する。 そんな少女の左肩から右腰辺りまでを青年は、斧で切裂く。
彼女の体は、真っ二つに裂け臓物がずるりと姿を見せる。 そして、両方の切断部分から大量の血を噴出させる。
頭が、床に接触する音が、絶叫の中に、澄んだ音を響かせる。
彼は、逃げ出した者達を追い速力を上げる。 その速度は、最早人間の走るスピードをを超越していた。
情けない顔を見せ廃病院の入り口へと一目散に逃げる少女。 その少女に、彼は、転がっていた瓶を投げつける。
藍沢が持った瓶は、彼が触れている間は、姿を消すが彼が、投擲すれば彼の手から離れた瞬間、目視できるようになる。 どうせ、皆殺しにするのだから何の意味も無いが。
「お母さ————ん! 嫌だよぉ……ガバッ」
慟哭する彼女の後頭部に、瓶は命中し少女の頭蓋は、音を立て砕ける。 脳が、目が、頭蓋の破片が飛び散る。
彼女の頭蓋を破壊した瓶は、頭蓋と衝突した衝撃により砕け散った。
近くを走っていた少年の頬の辺りに、その瓶の破片が突き刺さる。 それは、彼の頬を完全に貫いていた。
「……神崎さん? えっ? 痛い……血? 俺の血!?」
少年は、恐怖に耐え切れなくなりその場に倒れこんだ。 仲間の少年が、生きたいなら走れと叱責する。
しかし、彼は、ガチガチと歯を鳴らし続け、その場から動こうとしない。
涙を浮べ髪へと祈りを捧げ始める彼の頭半分が突然、吹き飛ぶ。
べチョリと音を立てて、床へと少年の顔の上部が落ち、大量の血飛沫が舞う。
藍沢が通り抜け際に彼を切ったのだ。
上半身を立たせて倒れこんでいた少年の体は弛緩し上半身が沈む。 藍沢は人間を超えた俊足を生かし彼等の退路を絶とうと病院の入り口に陣取る。
既に五人が命を失った。 残るは、八人。 近くに居た二人の男女が、速く逃げようと駆け出す。
何とも形容しがたい表情で無理矢理に足を運べる様は、青年にとって悲嘆したくなるものだった。
しかし、彼は、立場を捨ててはいけなかった。 彼女等を見逃す訳には行かなかった。
速く強くなるため、世界の行末を見るため。 Iの計画を早急に終らせるためには強くなり話を速く進めるのが一番だと思えた。
神崎と呼ばれた少女の体液を構わず踏みつけ、女が先に出口付近へと辿り付いた。
瞬間、藍沢は、武器を横薙ぎに振り男女二名を切り捨てた。 少女は、腰から上が吹き飛ぶ。
一方、少年の方は、彼女より多少身長が高いゆえか、腰の辺りから真っ二つになる。
二人の体は、真正面へと折れるようにして倒れこみ、恐らくは、この二人より入り口から離れていた面子には切断面が直視出来たろう。 ほとんどの者達は、顔面を蒼白とさせ動くのを止める。 中には、嘔吐する者も居た。
「そんな、あはっははははは! どうせ、皆死んじゃうんだ! 言い出した奴、誰だっけぇ?」
倒れ込んだ少女が諦めた様子で言う。
「こんな……こんな事になるとは! そもそも、俺の予想じゃ信憑性の欠片もなかったし! ってか、こんな惨殺されるとか……」
「現に起ってるじゃない! 優輝! アンタ、言い訳すんな!」
少女の言葉に反応した提案者の男が、怯えた様子で言い訳をする。
罪悪感が有るのか、複雑な表情だ。 当然のことだろう。
人間は、いかなる状況でも自分が可愛い。 若い彼らはそれがより顕著なはずだ。
そして、少年の言うことは事実だろう。 細かく調べ安全性を確認した上で訪れた。 唯、運が悪かったのだ。
しかし、それで是から長いはずの命。 諦められる筈も無い。 少女は、名指しで優輝と言う少年を批判した。
「優輝、奈津美! 見苦しいから止めろ……起っちまった物は、仕方ねぇだろ? 何とか逃げ延びて生き残るんだ……」
メンバーの中で唯一、冷静さを保っている真面目そうな少年が二人を制する。
彼は、手信号で皆を一箇所に集中させる。 青年の攻撃が止んだ一瞬の間に、彼は、皆に指示を送る。
「琢磨? 失敗したら恨むからね?」
「どの道、失敗すれば全滅さ……全員生き残れる可能性はそもそも少ない……」
少年たちは一様に、鉄パイプなどを手にして居た。
恐らくは、敵が、入り口付近に陣取っている事を察知しての全員係の強行突破と言った所だろう。
考案者の名を呼び、奈津美が、言う。
それに対し、失敗したら恨まれる心配も無いと琢磨は、肝の据わった表情を見せる。
「俺から行く……責任、感じてんだよ」
「分った……皆の分まで生延びよう!」
優輝が、手を挙げ先兵を買って出る。
それに対し、琢磨は、瞑目し思考した上で了承する。
それと同時に全員が全力疾走を始める。
先ずは、提案者の少年が、鉄パイプを槍投げの要領で出入り口目掛けて全力で投げつける。
青年は、それを斧の一振りで弾く。 彼等は、その弾かれた鉄パイプを見て敵が、まだ入り口付近に居る事を確信する。
少し置いて、奈津美ともう一人の少女が瓶を投擲する。 藍沢は、斧でそれを防ぐ。
更に、琢磨が、鉄パイプを投げる。 青年は、斧で弾くことは間に合わないと計測し肩を後ろにそらし回避する。
それにより、作戦の考案者の少年は、相手の攻撃の隙を確認する。しかし、彼等の反撃は其処までだった。
「よし! やはり、隙が出来たぞ!」
琢磨が、読みは当ったと巧妙が見えたことに小さく笑みを浮かべる。
「悪足掻きは止せ」
しかし、儚げな声で青年は、吐き捨て一瞬にして全員を切り捨てた。
一閃目で奈津美と他の男女一名ずつを。 二振り目で、優輝と琢磨を。 最後の一撃でやや後方に居た少年を血の海に沈めた。
まだ、息の有る奈津美と優輝が、緩慢な動作で近付き合う。
「ハッハッハッハッ……皆死んじゃったね優輝?」
「俺達も……どうせ、死ぬよ。 ゴメン……」
二人は、他の四人よりは、傷が軽かった。 腹部を両断されない程度に斬られただけだった。
おびただしい血を流しはみ出る内臓を引きずりながら近付いた二人は、手を握り合った。
先程いがみ合っていた奈津美は、聖母の様な顔で少年を見詰てヒューヒューと喉を鳴らしながら惨状を見詰て言う。
それに対して、真摯な目付きで少年が謝る。 瞬間、彼の口腔から血が流れ出す。
「ねぇ、優輝? あの世って有るのかな?」
「有ったら……皆で遊びたいな。 絶対、天国に逝けるさ……」
確実なる死を悟り彼女は血涙を流し目を瞑る。
浮んでくるのは、家族との思い出や古くからの幼馴染である優輝達との記憶。
奈津美は、小さく唇を動かし疑問を口にする。 ずっと昔、彼女が夜を溜らなく怖がっていた頃に親に、言った疑問だ。
優輝もそのことを記憶に残している。 ここに来た、十三人は皆、幼稚園の頃からの知り合いだった。
辛い事も悲しい事も楽しい事も共有し有ってきた。
少年は、過去の走馬灯に思いを馳せ、昔言った事と同じ事を口にする。 そして、彼は、目を瞑り永遠の旅路へと旅立った。
「そうね。 でも、あたし達なら地獄だって……優輝? あはは、死んじゃったか? 短い人生だったなぁ」
全然、遊び足りない。
だったら、あの世でも遊び通してやろう。 天国だろうが地獄だろうが闊歩してやろう。
彼女は、そう、決意を口にする。 しかし、少年は何も堪えない。
既に、ほとんど見えない目を開いて彼女は、優輝を確認する。 良くは見えないが、全てを受け入れた穏やかそうな顔に見えた。
一人は、寂しいなと小さく思い短い人生を悔い、今まで命を養ってくれた家族に、感謝と謝罪を篭めて彼女は、人生の幕を下ろした。
おびただしい血の海。 自分より何歳か若い者達の肉塊。
藍沢は、せり上がる何かを無理矢理止め、逃げ出すようにその場を去った。
是が、今回の彼の任務の全貌だ。 此処、二ヶ月はいつも、こんな虐殺を繰り広げている。
組織の計画のためとは言え、精神的にとても辛かった。 血の臭いや内臓のグロテスクさ等には、慣れてきたのが、唯一の救いか。
藍沢は、若き犠牲者達に黙祷し忘れる事に専念した。 友人達の居る場所へと、少年達の面差しを忘れる事にだけ集中し歩く。
図書館へと到着する。
彼は、図書館の扉を開ける。 中は、エアコンが効いていて涼しくて、勉強するに相応しい静寂が包み込んでいた。
早速、友人の姿を探す。 友人達は、本を読んでいる人達の邪魔になら無いように離れたテーブルで勉強を始めていた。
待ち合わせに遅れたことを彼は、謝るが皆、笑顔で許してくれた。 その見返りと言うように図書館が、閉館するまで、勉強を教えることになったが。
夜七時半、藍沢は帰宅した。
母親は当然のようにまだ、帰ってきていない。 しかし、妙なことに見たことの有る靴が置かれていた。
彼の父、将星の革靴だ。 几帳面に、手入れされていて新品同様の光沢を出している。
彼は、父との内縁が、冷え切っている。 それと言うのも父との記憶が少ないと言うのが大きな要因だった。
父は、防衛省の要職についているらしく、家に帰る時間などほとんど無いのだ。
青年は、長い間、そんな家族から遠くへと離れて父親が生活をしてきたから関係が薄くなったのだと思ってきた。
思い込みは、脳内で大きなウェートを占め父という存在を嫌悪する原動力として鬱積し続ける。
父が帰ってきていることを察知した彼は、足早に二階に有る自分の部屋へと急いだ。
「竜牙か? Iに入っているそうだな?」
耳聡く足音を聞きつけた父は、藍沢を止めるかのように言う。
偶然とはとても、思えない言葉が、彼の耳に届いた。 聞き間違いではない。 確かに彼は、Iの名を口にしたのだ。
なぜ、一般人で有るはずの父が、あの裏の世界の底辺に位置するような組織の名を知っているのか。
尋常ではない疑念が、藍沢の脳内を巡った。
「なぜ、知っている!?」
「母さんから聞いたよ……血は、争えないな」
震える声で藍沢は、彼に問う。
彼は、平然とした声で母親から聞いたのだと答えた。
そして、最後の言葉に藍沢は、怪訝に眉根をひそめる。 言葉を鵜呑みにすれば、彼もまた、Iに所属して居たということだ。
更に、母から聞いたということから察するに、青年の母である篝もまた、組織に所属していたことになる。
「父さんは……Iに所属して居たのか?」
青年は、父の居ると思われる部屋の扉を勢い良く開く。
目を大きく見開いて将星を睥睨し問う。
「私は、篝とはIで巡りあった」
父は、愚直なまでにあっさりと組織に在籍していたことを認めたのだった。
それを聞いた彼は、苦虫を噛締めるような表情をした後で、この男には聞くべき事が沢山有ると感じ、父の正面の席に座る。
「アンタが、Iのメンバーだったことを知れて良かった」
藍沢の言葉を彼は、黙って聞く。
「聞きたい事が山ほど有るんだが、良いか?」
青年は、思案気な表情をして話を続ける。 彼の言葉に対して男は、真摯な眼差しで了承の念を飛ばす。
「私の答えられる範囲なら何でも」
将星は、抑揚の有る静かな声で言った。
END
NEXT⇒第二章 第二話「藍沢竜牙 Part2」