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Re: I 第一章〜幻想夢花火〜 第五話更新 コメ求む!! ( No.20 )
日時: 2011/05/04 21:46
名前: 風(元;秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: 4.ooa1lg)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode


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第一章:幻想夢花火

第5話「本当の始まり Part2」

———日曜日:東京渋谷区

十時になる一時間以上前に藍沢は待ち合わせ場所に到着していた。
初デートだと言うことに緊張しているのか念仏でも唱えるかの様に
Kから教わったらしい女性との付き合いの心得とやらを口にし続ける。
女性には優しく…女性の事を待っても女性を待たせてはいけない等と言う内容だ。
そんな逼迫した感じの藍沢を陰から見守る二人…条の内慎介と渡会愛螺だ。
実は,二人とも能登と藍沢の隠れて盗み見ていたらしい。
同じ事に手を染めた仲間として二人の恋が実って欲しいと言う意思が一致したらしく
二人はこのストーカー作戦を決行したらしい。


「何や…何時もの態度に反して落ち着きないやっちゃなぁ?」
「初めてはウキウキだろう…条の内さん?」
「せやけど…台無しやで男前が」


何時もなんて言ってもまだ二回しか顔合わせしていないだろうと言う
尤もらしい突込みを条の内にしようと思った渡会だが何だか面倒になりそうなので言葉を選ぶ。
そんな渡会の言葉に対し条の内は不満そうに愚痴る。
例に漏れず渡会は騒ぐ条の内を適当にかわしながらゲームをやっている。
待ち合わせの十時が過ぎる。藍沢は仕切りに時間を気にし貧乏揺すりを始める。
其れをチラリと見た渡会は内心思う。貧乏揺すりする男は嫌われるぞ…と。

『くそ…来ない!?まさか…事故にでも』

ダンダンダン

嫌な想像が脳内を駆け回り不安が増大していく。10分20分と刻々と時間が過ぎていく。
鼓動の音さえも不安を煽り藍沢は終いには歯軋りを始める。
30分後,心配で胃痛が始まった頃だった。


「ごめ〜ん,藍沢君!待たせちゃって…」
ムクッ!

「いや,待ってなんて無いぜ?此処までの道が面倒で電車乗り間違えてな?
遂さっき付いた所なんだよ」
「そっか♪何だか藍沢君って真面目で完璧そうだから私なんて釣合わないと思ってたけど…
電車の乗り換えミスとかする人だったんだね?少し気楽になったよ♪」

「………そっそうか,良かった」

ギュッ…

能登の声が藍沢の耳に入る。
安堵と胸躍る気持ちに胃痛など無かったかのように立ち上がり
心配させまいと嘘を付く。彼女は其の言葉を聞いて純粋そうな笑みで感動を口にする。
その能登の顔を見て藍沢は赤面する。其の瞬間に能登が藍沢の手を握る。


「じゃぁ,最初は何やろうか?」
『不味い…長年引篭もってたから何が何だか…地理が全く分らない!』
「う〜ん,じゃぁ…あの交差点曲って洋服店行こうか♪」

「あっ…あぁ」


先々日はあれほど手を握るのも余所余所しかったのに二人だからなのだろうか
キャラを造っているのだろうか控え目な彼女とは思えない臍だしミニスカの大胆な露出度の服装。
そして,積極性。藍沢は唯,引篭もり故に何があるのかも分らない事も相俟って流されるままだった。


「駄目や…完全に能登ちゃんペースや!」
「良いじゃないか先輩…だって,能登は楽しそうだし藍沢君も満更でもないようだし」

「駄目や!男として男を応援するのは男の義務や!!」
「勝負事じゃ無いんだから…」


二人の一挙手一投足にオーバーリアクションで応える変質者慎介に対し
遠くから見るような感じで二人を眺めながら適当に慎介をあしらう渡会だった。
藍沢達が動くと同時に二人も動き出し電柱などに隠れながら能登の言う服屋へと向う。

コソコソ
「しっかし,藍沢の服…良く能登ちゃん突っ込まんかったな」
「……恋する乙女は盲目なのかな?」

説明が遅れたが今の藍沢の服装は相当酷いと言って良い。
Kに弄られたのか相当悪趣味な配色の服装だ。
上着は青紫と銀の縞模様,ズボンは白と言う奇抜さである。
藍沢に目の行ったらしい多くの男女が一瞬,変なものを見る目をするのが分る。
そんな藍沢と手を繋ぐ能登…有る意味精神力に優れているのかも知れない。

「おぉ……黒,似合うな」
「ありがとう♪藍沢君,メンズの方行こう♪」

「………?」
「其の服,はっきり言って悪趣味だよ?」


『Kェェェェェェェェェェェェェェ—————————!!!!』


能登の下着選びや服の試着などを藍沢は付き合う。
彼女の選ぶ服は存外に露出度が多い服が多く色っぽい下着が多かった。
藍沢は無論この様な場所には慣れておらず随分とぎこちない動きだった。
そんな藍沢に能登はニッコリと服装の事を指摘する。
藍沢は心の中でこの服を進めた畜生の名を叫ぶのだった。

「どっどうだ?」
「うん,中々格好良いんじゃ無い?」

ザワッ…


服装のセンスのまるで無い藍沢に変り能登が服を選ぶ。
藍沢は其れを試着し能登にお披露目する。
藍沢の服装が目に入った店の客達が一瞬噴出しそうになる…が,藍沢に其れを見る余裕は無い。
藍沢はまた違った意味でセンスの無い服を着て店を出る事となった。

「何でアイツはあんな間抜けな服装ばかりするんや?」
「呪いじゃない?」
「最悪の呪やな・・・」

藍沢のまるで映画の海賊が着て居るかのような服装に呆然とする慎介。
其れに対しもう,デートは成功しているという安堵に満ちた度会は適当に流す。
十一時半…藍沢は能登に引っ張られるままにカラオケボックスに入っていった。


「俺,カラオケ始めてなんだが…」


「大丈夫だって♪零点でもあたしは全然笑わないよ?」
「………」

能登の慰めになっていない慰めにそれは慰めじゃないだろうと思いながらも少し気が軽くなる。
藍沢は意を決して一歩を進める。そして,3時間分の料金を払い部屋へと進む。
少し遅れて渡会達も入室する。条の内が受付嬢に頼み込み藍沢達の部屋の近くにインする。

「さて…こんな事も有ろうかと用意した聴診装置だ」
「どんな準備や?」

「カラオケとか定番だろ?」
「っていうか…どうやって聴診器なんて!?」
「声荒げ過ぎだって…あれだよ,闇市♪」

「…サラッと言ったで…凄いワード」
「嘘だよ」
「じゃぁ,何や?」

「楢崎から貰ったんだ…あたしもあいつが何でこんなの持ってるかは分んない」

個室を隣り合わせにしたはしたが音漏れする様な造りになっている筈も無いことに思い当たる二人。
すると渡会がドラえもんの様にポケットから聴診機器を取り出すのだった。
この事をまるで見透かして居たかのような彼女の用意周到さに青褪める慎介だった。


一方,藍沢と能登は其の頃ランチを頼んで唄を楽しんでいた。

『何でだ…何で普段の声はあんなに滑舌良くて綺麗なのに…歌歌ってるとこう何だ!?』


47点………
能登の点数が表示される。
思ったより多少点数が良いが相当酷い点数である事は間違いないだろう。
能登は満足げな笑顔でマイクを藍沢に向ける。


「次,藍沢君」
「あぁ……じゃぁ,是で」


藍沢は能登に渡されたマイクを握り歌いたい歌を探す。
その様子を見て決めるのに時間が掛かりそうだと見た能登が話し始める。


「こう言う誰も人の話しなんて聞いてない所だから言うんだけど」
「何だ?」

能登の余所余所しい態度に藍沢は手を止め沈黙する。
そして,優しく喋って欲しいと促す

「本当はアレ……あのお茶会の時,全部君を振り向かせる為の演技だったんだ。
条の内さんの言葉を嫌って耳を塞いでた事…嘘なんだ」
「それで…」

「そんな私……好きになれる?」
「……人間は誰でも嘘を付くよ。誰でもだ…能登は俺を振り向かせる為にそんな嘘を付いたんだろ?」
「………」



「寂しくて…誰か,つながれる存在が欲しくて…そしたら似た匂いを持った俺が居た」


「藍沢……君」



条の内の言葉に対する反応は嘘だったと言う能登の声は凛としていた。
嘘だと言う事実を述べる覚悟と勇気が篭っていた。
藍沢は唯彼女の言葉を聞きそして,自らの解釈を口にする。
言葉を確かめるように彼女の潤む瞳を見ながら,彼女が自分の事を好きだと言う事を感じながら。
思わず能登が声を上げる。


「俺には…能登みたいな奴が必要だと思うんだ。」
「藍沢君…」







                    
二日前までは手を添えられる事さえ恥かしかった男とは思えない積極性で
能登の細い体を抱きこむ藍沢の姿が其処には有った。


「____一つ,リクエスト良いかな?私の好きな歌なんだ…」
「あぁ,良いぜ!」



「アリガトウ———」


能登のリクエストに藍沢は応える。
建前とか格好付けじゃなく唯そうしたい気分だった。
彼女のリクエストはラブソング等と言った恋人同士でのカラオケで歌うような物じゃなく
彼女の暗闇を強く現したような歌だった。
その歌の歌手は親に暴力され泣き叫びながら歌と言う世界に逃げたのだそうだ。
能登は歌が下手だが毎週三回はカラオケに行くほどに歌が好きらしい。
歌と言う世界に浸る事で家庭と言う地獄から逃れていた彼女。
藍沢は自分の手で護ってやりたいと思った———







                     『ペイン・オブ・セフィロト(罪の樹)降誕』





ズズズズズ…


「何や!?」
「地震………」




                              ズゥン!




藍沢の歌が聴診器を通じて慎介達の耳に入る。
無論,先程までの能登との会話も聞いている。安心した風情で藍沢の美声に聞き入る二人。
本の一時,時間が止ったかのように心が穏やかになった。
然し,幸福な時間は続かない。突然,大地が鳴動し地面から沸き立つ様な巨大な衝撃が奔る。
地震とは明らかに違う感覚と建物が崩壊する音に反応して渡会達が外へと飛び出す。
能登と藍沢も遅れながらも外へと出る。


外は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
藍沢たちの居た建物が捲込まれなかったのは単なる運だろうと思えた。
多くの建物が崩壊し街からは泣き叫ぶ人々の声…見上げると巨大な翠の物体。
まるで植物の蔓の様だがこんな巨大な植物の蔓など現実にある筈が無い。



「何が……何が起こっとるんや!?」

パトカーや救急車・消防車等がサイレンを鳴らし走る音が五月蝿い位に木霊する。


「見付けましたオーディン様,藍沢竜牙及び新たなる組織の戦士四名です」
「そうか……」


その様を遠く鉄塔の上で眺める幾つかの影。
一人はシュトゥルヒ…そして,サルコジも居る。
更に,露出度の高い服装のスタイルの良い目を包帯で隠した赤のロングストレートの女性
そして,その女にオーディンと呼ばれた緑色の軍服の様な服を着た
赤の細面長の色白で無表情ゆえかの妖艶さが有る長い瞳の男。


計四人…恐らくは彼等が事の首謀者だろう。
オーディンと呼ばれた男は儚げな双眸でシュトゥルヒを見詰め言う。


「ご苦労だったシュトゥルヒ…是だけの広範囲だと流石に疲れるだろう?」
「いえ,恐縮ですオーディン様!私は貴方と言う大樹の元に居るだけで幸せですので!」


「そう言って貰えると嬉しいよ…では,藍沢君達に挨拶をしに行こうか」


ザッ


肩で息をするシュトゥルヒを労うオーディン。
その労いの言葉に喜びながらオーディンへの忠誠を誓うシュトゥルヒ。
其の二人の良好な関係を嫌な目で見る女性…
更に其れを二人の関係の障害として憎悪の目で見るサルコジと言うのがこの四人の関係の構図だ。
後者,サルコジ及び女性は然し黙したまま,オーディンの言葉に従い鉄塔を降り立った。

そして,四人は疾風の如く速度で藍沢たちの居る場所へと向うのだった。

                         ∞END∞


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