ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: I 第一章〜幻想夢花火〜 第八話更新 コメ求む!! ( No.41 )
- 日時: 2011/05/04 21:47
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: 4.ooa1lg)
コメントして下さった方々本当に有難う御座います。
ひふみん様へ
これこれ♪こう言う奴が欲しかったんですよ^^
パトリシア姉ちゃん私より一つ年上でお姉さんって呼びたくなるぜ♪
良キャラサンクス!
葵へ
是で何度目のアリスとの邂逅だろう…神田ポジションを決めねば…見方って事は仙道さんかなぁ?
仙道「止してくれ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜I〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第一章:幻想夢花火
第8話「夫々の日常」
能登潤とデートをしてから三日が過ぎた。
巻き込まれた組織の新たなる戦士達,藍沢竜牙・条の内慎介・能登潤・度会愛螺達は
眠れぬ夜をすごしていた。
???ファンクラブの起こしたあの大量虐殺は今日もニュースのトップを飾りお茶の間を暗くした。
普通の人間にはロジックの力は可視出来ないため直下型の巨大地震という予想もされたが
震源が全く発見されなかった事と
???ファンクラブの力で顕現された植物が消えると同時に町の数箇所から大穴が発見され見解は直ぐに変わった。
人間達にとって不可視の何かが地面から突如噴出しその衝撃で地面が振動したのだと言う
真実を知る藍沢にとっては報道で伝えられる多くの意見は雲を掴む様だった。
「どう思う…こいつ等に対抗できるのは俺達だけだぜ?お前はああ言う悪党共を倒したいんだろう?」
「化物だ…俺じゃ勝てる筈が無い?」
自分の視界が……世界が崩壊していく様をPCの映像で藍沢は嘗め回すように何度も繰り返し見続ける。
自分は生き残った。生かされた……死の嵐が色褪せない。
悪党と戦うには力が必要ではないか。藍沢は震える手をふっと開いて見詰める。
血に塗れた手,それは後悔と罪の意識がそうさせている事は藍沢は理解していた。
そんな藍沢にモニター越しから見詰めていたKが甘言を浴びせる。
まるで藍沢を組織から逃さない様に,見た目や態度より遥に正義感のある藍沢を絡めとるように。
其れに対して藍沢は自分の無力を痛嘆しフラッと歩き出す。
そして,クローゼットの中にある黒いジャケットに手を伸ばし財布をポケットに入れる。
そんな藍沢に言葉を掛けることも無くKは唯見詰めていた。
藍沢は此処数年で久しぶりの自主的な外出をした……
________
近畿地方の有る市街のアパートの一角,其処に条の内慎介は居た。
完全犯罪組織という甘美な響きともし,仲間になるなら一流アーティストの自分が全ての生活資金を賄ってやろうと言う仙道の言葉に絆されて
辞職した条の内だが想像との大きなズレに悶々としていた。
————仲間————
まさか,自分が非情で人等支配し操る物だと思っていたのに皮肉だからとは言え仲間など言うとは…
そもそも殆ど面識も無かったような存在,一度二度しか会合をした訳でもない存在をだ。
「何でや?」
不意に声が漏れる。
言葉にしようとしても適当な言葉が出てこない。
条の内は自身の事をそれなりの口達者だと思っている。
その自分が全く言葉で表現できない。苛立ちは募る。
「それは……あれだよ。同族に————始めて同族と思える存在に接触したからさ」
「仙道……」
頬杖を付きギリギリと歯軋りをしていると突然,PCのモニターが入力され
仙道の声が響く。何時もの事なのでもう驚きはしないが少しは個人空間と言うのを護って欲しいものだと条の内は嘆息する。
然し,仙道の言葉は妙に心に響く。何時もだ。いつも此方の心を見透かされている様だ。
そうなのだ。藍沢達に条の内が微かに感じた自らの知らぬ感情…それは同族に出会えた歓喜。
「お前等は私達に擁護されている。この世は不平等だ。
お前達の様に世界を変える才能がある物は極僅か…後は唯の力なき悲しき命だ」
条の内の表情を逐一確認する様に要所要所で間を空けながら仙道は言葉を重ねていく。
条の内の今の心情を暗に掬い取る様なその言葉異様に条の内の胸に響く。
「世界を変革する力なんて俺は要らへん……俺は唯,圧倒的な財力と権力が欲しいだけや」
条の内は我欲に塗れた人間だと自己主張する。
金と力があれば他人なんてどうなろうが構わないと身振り手振りをして主張する。
それを聞いた仙道はそれなら安心したとばかりに愉悦に満ちた声で話し始める。
「お前が望めばロジックは無限の広がりを見せる。圧倒的な戦闘力を望めば軍すら圧倒し
圧倒的な潜伏技術を有すればあらゆる文明の利器の邪魔等軽々すり抜け財宝に至る」
ロジック,それは顕現させた力によっては幾らでも使い様の有る力だ。
現にロジックの力の一部を見た条の内は圧巻された。人間の……個人の有するには大き過ぎる力。
考えなくても当然の事だ。其れを行使する者達と同じ組織に居るのだから自らにも行使できるときが来る。
「マジか……」
「現に居るよ……あんな圧倒的な力なんだ,幾らでも悪用できる」
驚愕し目を瞠る条の内に仙道はこの力を利己的な目的で行使している者は沢山居ると告げる。
そして,それは全く組織に罰せられないと言う事実も。
条の内の顔が歓喜に歪んでいく。その様を繁々と画面越しで見詰めながら仙道は言う。
————どうする?まだ,組織を続けるか?と……
条の内の答えは決まっていた。
この我欲に塗れた利己主義が組織として戦う内に大きな変化を見せる事など条の内は露ほども知らない。
___________
一方,藍沢竜牙は一人寂しく外を歩いていた。
周りが五月蝿い。笑い声が取分け五月蝿い。子供の楽しそうな遊ぶ声,普段なら心が洗い流される。
無邪気な正義を語っていた時が愛しいからだ。だが,今の藍沢にはそんな感受性は無かった。
唯,あのような万単位の人間が一瞬で消える事件があったのに何故こいつ等は嬉々としているのだと憤懣の念ばかりが込上げる。
『何故だ……何故,こいつ等はこんなに安穏としていられるんだ!?』
疑念,理解出来ない彼等の笑み。当事者となり首謀者と遭遇した藍沢だから余計に苦痛が大きいのだ。
今の思い悩む自分で一杯な藍沢に理解出来るはずも無い。
現場に居た人間の感情と遠くモニター越しで見る人間の感情の大きなズレ。
藍沢は怒りを吐き出す様に足が痛くなるほど強くアスファルトの床を蹴りながら歩いた。
歩いていると何時の間にか此処に行こうと思っていた訳でもないのにアニメイトに辿りつく。
良く此処で本を読んだ……始めて好きになった女の人は実は此処の店員だった。
正直,実家より藍沢にとっては愛しい場所だ。長い間,足も運べていなかった。
帰郷の感情が心の深奥に渦巻いていたのだろうか……入り口で少し立ち止まり藍沢は店内に入る。
相変わらず雑多なアニメや漫画,それに付随するキャラクタ用品等が軒を連ねる。
心が幾分か落ち着くのを藍沢は感じた。
そんな中,聞き覚えの有る声がレジの方から聞こえる。
「よっしゃぁ!このウサ耳欲しかったんだよなぁ♪」
ふと振り返るとその曖昧な記憶が形を成し顔見知りだという事を知らせる。
目を合わせまいと姿を見せまいと藍沢は声の主の視界から逃げようとキャラクタソングコーナーへと逃げ出す。
然し,一足遅く声の主,度会が藍沢の肩を叩く。藍沢はビクリと驚き背筋を伸ばす。
「何だ何だあぁ?やっぱ,藍沢じゃんか♪お前この辺出身だったの?」
「何でそうなるんだ?此処は品揃えが良いから少し遠くからでも来る奴は居る……」
驚いて硬直している間に渡会は藍沢の正面へと回り確認するように顔を見詰める。
そして,ニシシと屈託無い笑みを浮かべフランクに話しかける。
そんな渡会の質問に対して藍沢は至極ご尤もな反論をする。
実は此処は都内でも最高の品数を有するアニメイトなのだ。
それもそうだなと逡巡する素振りを一瞬見せる渡会だがだったらこっちの意見も聞けよと開き直った様な明るい顔で話しかけてくる。
「確かにそうかもだけどお前ってあんまり人間とか好きそうじゃ無いし
遠くからこう言う場所に来るタイプじゃねぇじゃん?」
図星を指された藍沢は嘆息して貴方こそこの辺の出身だったのかと問いかける。
すると渡会は昔は二百キロ以上も離れた場所で住んでいた事を伝える。
だから,品数の多いこのアニメイトがある此処,秋葉原に住みたいと兼ねてより思っていたらしい。
それで秋葉原の中にある大学に入学して近場のアパートで過ごしているという事だった。
「所で,そのウサ耳はまさか……」
一頻り彼女の言葉を聴いて成程なと理解を示して藍沢は最も気になっていた事を聞く。
それは彼女が購入していたウサ耳だ。普通のウサ耳バンドに見えるが色合いが普通とは違い,
変ったマークが施されている。是に藍沢は覚えがあった。
一応,仮にもオタクである藍沢にとってそれはとても素晴らしい物なのだ。
質問された渡会は自慢げにウサ耳を見せびらかしながらオホンと咳払いする。
「おっ♪良く気付いてくれました,このウサ耳はハイパーウサビッチさんⅣのヒロインの耳なのだ♪」
「ハイパーウサビッチシリーズは十八禁の筈!!」
藍沢の脳内の琴線が強く弾かれた。
今までの鬱屈した記憶が突然,ウサビッチさんの響きで破壊されたことを感じる。
ウサビッチさんシリーズはグロ&エロ&燃えの極地として多くのコアなファンが居るのだ。
その刺激的ながら美形かつ萌えるキャラクタ達の効果が相俟ってか女性人気も高い。
渡会は今にも此処で袋を破き捨てウサ耳を装着したいのだろうウズウズしている。
「それがどうしたよ?あたしは二十だぜ!それに,藍沢……
お前も年齢なんて無視してウサビッチさんシリーズを視聴しているファンだとあたしは見た!!」
「アンタ,気が合いそうだ」
渡会は自分は十八歳超えていると最もな意見を述べるが途中で,
藍沢の質問の意図に気付く。ウサビッチさんシリーズは逆算するに度会が十六の頃から放送されている。
ならば彼女も本当は制限年齢を無視しているのでは無いかと言う事だ。
画して渡会の反応からその質問は正解だった。言い知れぬシンパシーを感じる藍沢は周りを見回す。
何人かの恐らくはウサビッチさんファンが指を立てている。
あぁ,オタクって良いなと藍沢は思うのだった。
「所で藍沢さ……」
「何だ?」
「お前,組織に在籍し続けるの?あたしは……目的あるから続けるけど」
藍沢の心が軽くなった事を渡会は確認して唇に指を当てて思案気に藍沢に問う。
声のトーンが今までより低く抑揚が有る事に藍沢は焦りながら次を促す。
渡会は同じ組織に関を置く者として気にしていた問いを口にする。
藍沢は先程までの和やかな空気が色褪せていくのを感じ愕然とする。
渡会の事情を聞く余裕など無く唖然として思考を停止させる。
そんな中,頭に過るのは今まで会って来た人間の中で最も一緒に居ると心地よい人間の姿,
能登潤の姿だった。
「俺は能登が辞めないなら遣り続ける。あいつの震える肩を抱いて落ち着かせるのは俺の役目だ」
有る意味予想通りだった藍沢の言葉に度会は頭を抱える。
その様に何か可笑しいことを言ったのかと藍沢は拳を振上げそうになる。
藍沢は自分の中にこんな凶暴性が有ったのかと戦慄きながらもそれを止められない。
其れを見た度会は藍沢が自分の狂気と戦っている間に横腹を殴り藍沢の動きを止めて
藍沢の手を引いて店の外に出る。
そして,人通りの無い裏通りに入る。
ハァハァと息を整わせる藍沢を冷めた瞳で見詰めながら渡会は言う。
「お節介かも知れないけどさ……聞け」
藍沢は渡会を睨みつける。
「女の勘だが能登は今のお前がどうにか出来る様な女じゃない。
あいつと付き合ってたらお前は何時か全てを持っていかれるように思う……
あいつを護るって豪語するなら先ずお前自身から護らないといけない。
それが出来ないようなら一人の女を————」
渡会の言葉は重く真面目だった。
勘の鋭い度会は逸早く能登の心の闇の深さに気付き彼女が
藍沢を我欲のはけ口にしようとしている事を見抜いていた。
彼女を護るというのなら彼女に食われず能登を本当の意味で
藍沢を愛せる様に仕向けないといけないだろうと言うのが度会の見解だ。
残念だが今の藍沢の能力を見るに其れを実現するのは難しいと渡会は考えている。
「分ってるさ……彼女が俺を利用している所がある事くらい!
でもさ……能登は本当に人の愛に飢えてるんだ」
「人の愛を受けたことの無いお前が愛を分け与えられるのか?」
「愛を受けたことなら有るさ……有る。能登に…………潤にだ」
「————意外とお前強情だな……」
馬鹿にするなと言う風情で藍沢は怒声を浴びせる。思っていた以上のドスの利いた声に渡会は驚く。
そして,思っていた以上に藍沢は彼女を見抜いていたのだと更に驚く。
彼女は確かに笑顔を取り繕って充足に満ちている振りをしながら心の底では愛に飢えて泣いていた。
だが,だからと言って親の愛も大して受けた訳でもないだろうコイツが
他人に愛を与えられるのかと渡会は疑念を口にする。
然し,藍沢は強い目で迷い無く言ってのける。
あの時,自分に能登が掛けた言葉は自らへの愛が篭っていたと。
暫し,度会は沈黙し深々と溜息をして目の前の男に敬意を評するのだった。
その選択が多くの苦難を呼寄せるだろう事を理解しながら渡会は掛ける言葉が見付からなかった。
________
???ファンクラブが起した大量虐殺の現場に程近い場所に能登は住んでいた。
生まれも育ちもこの場所だ。今,彼女は惨殺された家族の……両親の直ぐそばに座っていた。
涙を浮かべ嗚咽に歪む表情から何者かに家族が殺された様に錯覚するが全ては彼女が遣った事だ。
父と母の体はもはや原形を留めておらず全身から血が噴出し目が飛び出て肉が腐り落ちている様だ。
普通の人間が見たら気を失う程だろう。そんな物言わぬ死体に彼女は話しかける。
「何で?何でなの……ねぇ,父さん母さんあたしさ……あたし,貴方達が死ねば嗤えると思って居たのに……何で泣いてるの?」
拭っても拭っても止まらない涙の雨に能登は顔を覆い泣きながら訴える。
父も母も大嫌いだった。父は毎日毎日,酒に入り浸りながらネットゲーム。
母は薬中……彼女は年齢を詐称して職場へと赴き仕事を続け学費を稼いだ。
然し,そんな事も限界が来て借金暮らしに逆戻り……父が母が憎かった。
殺してやれば心が晴れると思えるほどに。
憎かったのに何で涙が出るのか理解出来ない。
「それは……泣くほど嬉しいのですよ貴女の心が」
「フリーダ__?」
其処にフリーダが姿を現す。
フリーダは彼女の涙を歓喜と解放の涙だと言う。束縛され鬱屈としていた心が解放されたのだ。
その開放感が爽快すぎて少し寂しくて今は沈痛な感情を引き摺っているだけだと。
直ぐに,そんな小さな後悔は収束して歓喜の美酒に変ると。
能登はそのフリーダの屈託の無い優しい笑みに安堵して明るい声で彼女の名前を呼ぶ。
——父と母を貴女が殺しても父の死体のことも母の死体のことも貴女の罪も全て組織が背負う。
そして,貴女の生活資金は自らが全て用意する。そう,彼女は約束した————
父より母よりも遥に好きな人。
愛しくて掛替えの無い人。
それが能登にとってのフリーダだった。
∞END∞
NEXT⇒第一章 第九話「能登潤ラヴァーズ」