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Re: I 第一章〜幻想夢花火〜 最終話執筆中!  ( No.55 )
日時: 2011/04/20 22:05
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: 4.ooa1lg)
参照: 第一章……読み直してみた。 うん,もっと頑張ろう(苦笑

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第一章:幻想夢花火

最終話「I〜幻想夢花火〜」


 青く澄み渡った空のした煩雑としたビル街の一角,此処はこの時代の東北の中心部,福島県郡山市だ。 二十年程前に就任した知事が辣腕を奮い知略を巡らせ,福島県の中心地とするために動き回った結果,それなりに大きい都市から就任後,十年程度で巨大都市へと変貌を遂げた。
 そんな郡山の外郭に位置する閑散とした通りの,立ち入り禁止区域の中の崩落したビルに???ファンクラブの本部は有った。 仕事上の事故で炎上し完全放棄されたとされる廃ビルだ。 今も,内部は手付かずで殆どの部屋は昔のまま,爪痕が生々しく残っている。 三十階建てに相当する高層ビルだったらしいが今や,七階から上は崩落し見る影は無い。
 しかし,そんなビルの地下室に彼等は身を潜めていた。 踏み込んで来る者は皆無に近い場所だ。そもそも,此処に地下室が有る等と言う事は誰も知らない。 地下室は彼等が同士の能力で造った物だからだ。地下室と地上の壁も厚い為,音も響かない。

 彼らの様な存在にとっては格好の隠れ家なのだ。 彼等の本部は,遊戯室・談話室・会議室・宿泊室・治療室・寝室・浴室等と言う具合にそれなりに施設は充実しているようだ。 是も,彼等が能力者故に出来る事だろう。
 音も無く地面を掘り部屋を造り,痕跡なく銀行等から金を盗み其れを使う。 彼等能力者にとって,容易い事だ。 是ほどの事が出来るなら何故,態々立ち入り禁止区域の廃ビルの地下になんてに居るのかと言う疑念が生まれるが,其れは形から入るのが常識だろ……と言うサルコジの考えを汲み取っての話らしい。
 悪党なら廃ビルの地下が本拠地なのが当たり前と言う考えがサルコジの中には有るらしい。 それに,ほとんどの面々は同意したのだ。 無論,彼に共感したのではなくサルコジが鬱陶しい事を知っている故だ。

「クッソ……仙道ノ野郎,派手二俺ノ腕ヲ斬ッテクレルジャネェカ!」

「腕斬られるサルコジ先輩のほうがぷっぷぅですけどねぇ?」
「アッ? 弱ェ癖ニ俺ニ指図スンノカ!?」
「指図じゃ有りませんってぇ♪ って言うかサルコジさんなんて僕直ぐに抜かしちゃいますよ?」

 そんな彼等の本部に,悲鳴が木霊する。 真ん中にソファとテーブルがある以外は基本的には何も無い空虚な部屋だ。 主に治療部隊が仲間の傷を治療させる為に使っている部屋だ。

 治療部隊とはその名の通り,???ファンクラブに所属する能力者の中でも肉体の治療及び回復系の能力を有する者達の所属する部隊だ。 稀有な能力を自在に操る者達の集団だが存外に回復を目的とした能力を有する物は少ない。 それは,一重に彼等の多くが,戦いを目的とした直接的な攻撃力を望んだ結果だろう。 それ故に,回復系の能力を持つ者達は孤立し易く似通った能力者と寄り添いあう事が多い。 此処はそんな普通の能力者には,理解し辛い悩みを持つ稀有な回復能力者達の談笑の場でも有った。
 治療施設だというのに道具が全く無いのは,回復能力者達が回復や治療に道具を使わず自らの能力を使うからだ。ならば何故,治療用の部屋が有るのかと言えば回復系能力の行使には集中力が必要で,周りの煩雑を避ける必要が有る為である。
 
 悲鳴の主は,サルコジの様だ。どうやら,少し前に仙道と交戦して重傷を負い此処へと空間移動により逃げたらしい。 腕を斬り落とされた瞬間は,切り口が,余りにも綺麗過ぎた性か痛みを感じなかったが,此処に転送されてようやく痛みが襲ってきて悲鳴を上げた。
 そんな,サルコジに腕の回復にをする少女は小さく笑みを浮べる。 その笑みは,心配しないで下さいと言うよりは,五月蝿いから黙れと言う風情だ。
 その少女は,紅い花魁柄の着物華奢で背の低い金の長髪で名前は,中道虚と言う。 鬱陶しいサルコジと師弟関係にある何とも悲しい少女だ。 
 彼女の性格上,本来ならサルコジの様な性格の男など気にも留めないのだが仲間である上に師匠なのでコンタクトする回数も多く,それなりに真面目に相手にせざるを得ない。 基本的に師であるサルコジは,他人との交流を面倒がる彼女にとっては拷問の様な存在だ。

 そんな,サルコジの怒号の様な愚痴に虚は慣れた風情で適当に受け流す。 サルコジは,気にしていた事だったのか原が足ったらしく目を見開き酷い剣幕で怒鳴り散らす。
 其れに対しても彼女は,平静に思っても居ない事を中身も無く適当に呟く。 サルコジは,その態度に苛立ちテーブルを強く叩く。 彼が憤っている最中にも驚くべき速度で腕は,再生していった。サルコジは回復系能力者を軽蔑しているが彼が此処まで戦いの世界で生きて来れたのは一重に彼女のお陰だろう。
 中道自身としては,感謝して貰いたい位だと思っている。 同時に感謝の言葉を聞くのも面倒だと言う気持ちも有るが……流石に,是だけ傲慢だと他者を気にする事のほとんど無い彼女でも苛立つのだ。

「治療……終了しました! 今回は三分でしたねぇ? 前,同じ様な怪我した時は四分だったから……」
「大成長だな虚……いつも,感謝しているよ」

 腕の付け根から再生していく。筋組織を先ず再生させて骨をそのあとに再生する。 普通の再生系能力者なら十分掛かる所を天才である彼女は三分でこなした。 彼女は業とらしく数字を出し,上達を誉めて下さいと言う風情の言葉を発する。全く感情の篭っていないのが丸分りなサルコジは無言だ。
 そんな彼女等のやり取りを実は扉の向こうで一部始終聞いていたシュトゥルヒが治療が終了した事を確認して入室する。 彼女の成長に拍手を送り,成長をシュトゥルヒは素直に賞賛した。
 バツの悪そうな表情をしてサルコジは目を逸らす。

「あっ! 師匠の師匠だぁ♪」
「チッ……師匠,コンナ奴ニ感謝ナンテ……」
「お前は少し,人に感謝するという事を覚えるんだな」

『説教カヨ……』

 シュトゥルヒの落ち着いているが優しい声に中道は反応する振りをする。 表情が全く動いていないのがサルコジからはバレバレだった。 サルコジは其れが苛立ったのか,師であるシュトゥルヒに反発する。
 そんなサルコジに子供を宥めるような口調でシュトゥルヒは諭す。 サルコジは,恥かしくなり沈黙する。其れに対して,虚は冷淡な目線を送った。 サルコジは苛立ち,また,テーブルを殴りつけた。
 不貞腐れるサルコジに,シュトゥルヒは物に当るなと,至極当然な説教をするのだった。
 
 シュトゥルヒの説教は三十分に及んだ。 中道はと言うと,個人的に好意の欠片も感じないサルコジが説教されているので最初は,微苦笑を浮かべて聞いていたが,途中で飽きたので退室した。
 そんな,医療室の扉が突然開かれる。 二人は,口喧嘩を一旦止めて,誰が来るのかと不安そうな目でドアを見詰た。 彼等が不安そうな目で見詰る理由は,組織に所属する面々は奇人変人の類が多いからだ。
 
「コノのろのろトシタ態トラシイどあノ開ケ方ハ……“パトリシア”カ!?」

「外れぇ? そんな嫌な顔してっと無難にやっちゃいたくなるじゃないですか……先輩♪」
「無難ノ使イ方ガ可笑シイダロウガ!!」

 態とらしい時間を掛けたドアノブの回し方にサルコジは直感して,苦渋に歪んだ表情で思い浮んだ存在の名を口にする。 しかし,それは直ぐに外れだと分る。
 扉を開けた満面の笑顔の男の名は永井 優。 腕をまくっていて,右手にブレスレットをつけているウルフカットで目の大きいチェックの服を着た青年だ。
 サルコジを見下す様にして口には気をつけた方が良いと忠告する優に対してサルコジは苛立ち反論する。 そんなサルコジを視界から外し永井はシュトゥルヒに向き直る。

 
「——————あっ,シュトゥルヒさん。オーディンさんからの命令だよぉ。
僕達と虚ちゃんで指定の場所に行けですって……」

「分った……今か?」
「後,五時間後位に出れば間に合うと思うよぉ?」


  優は,吼えるサルコジを華麗に無視して満面の笑みでシュトゥルヒに話し掛ける。 シュトゥルヒは,永井の言伝に対し少し,時間をくれと言う懇願の念をこめて問う。 
 それに対して永井は,準備時間は有るから心配するなと安心させる。 するとシュトゥルヒはサルコジに向き直り説教の続きを始めた。優は,この師弟が嫌いだ。 彼にとって仲の良い存在は見ていて忌々しいだけの存在なのだ。 一瞥し,小さく舌打ちして脳内で何かがブツンと切れる音がする前に退室する。

「お幸せえぇ〜」

 小さく……然し,最大限に嫌味をこめた声で退室する前に永井 優はそう言った。



 ——————流れるように特に新しい事も無く,藍沢の周りの時は過ぎて行った。 三日に一度程度の割合で人を殺しに行き,それ以外の時は,何時も通り自室でPCをしていた。
 そんな,日々が二週間程続いた。 その間に二度,お茶会が有ったが特に,進展は無かった。 だが,三週間が過ぎようとした水曜日,事態は動いた。 ???ファンクラブが新たな大量殺戮を行ったのだ。
 白昼,多くの人々が仕事を悪いは学業を中断し休憩時間を取っている頃,幾つものビルが,突然,大爆発して倒壊したのだ。 その大量虐殺により死亡した人間の数は,凡そ一万五千人。 多くの人々が,涙を流し顔を覆っている映像が藍沢の目に焼き付いて離れない。

「お前は,世界の裏側を見た……この現実を知って逃げる気は無いよな?」
「俺には力が有る……」

「そうだ……」

 呆然としていた藍沢竜牙にKは言った。
 藍沢は,もう逃げられないと言う感情が日に日に高まっていたのを思い出す。此処で逃げたら恐らくは一生後悔して,最後には地獄絵図の中で泣き叫んでいる事だろう。
 そう思うと藍沢は,唯自分に普通には無い力が有るのだと言う事を言って心を慰めるしか出来なかった。 何時死ぬか分らない,地獄……しかし,この状況を黙視して逃げられるほど藍沢は腐っては居なかった。

 それが,途轍もなく藍沢は悲しかった。渡会には,格好つけて能登を護るためとか言ったが本当は違う。 唯,負い目を感じたくないだけだ。 
 重いなど容易く変るものだと藍沢はせせら笑う。 最初の頃は,単純に安全に人を殺す感覚に酔いたかった。 少し経ってKの言葉に踊らされて変革された世界に興味を持った振りをした。
 次は,彼女を理由にしようとした……卑怯で浅ましくて情けない小さな人間。 しかし,悲しいかな,この組織に入隊し泥沼に嵌った。 愚かで小さく弱い人間だ。

「臨時集会だ……行くか?」
「アンタも来るのか?」

「俺は,ボスが呼んでるからそっちに行く……優先順位って奴だ」
「そうか——いつか,来いよ? 渡会とか条の内が結構興味持ってんだ」

 木曜日——いつも,家に引篭もっている藍沢にとっては曜日の感覚は無いが今日が木曜日なのは間違えないと藍沢は確認する。 事が動くとすれば明日かと嘆息してPCを立ち上げようとする。
 然し,藍沢の予想より速く事は動いた。藍沢がPCを立ち上げるより前に,Kがモニターに現れる。 そして,臨時集会が設けられた事を報告する。
 覚悟はしていたが実際に来ると少し,躊躇いを感じる。 しかし,藍沢は逃げる事は出来ないと自分に言い聞かせて行くと言う旨を伝える。 
 Kも行くのかと問うとKは申し訳無さそうに違う用事があると断るのだった。 藍沢はさして驚いた様子も無く,玉には顔を出して貰えると嬉しいと伝えて,臨時集会に向かった。

「ややっ,遅刻少年の藍沢君じゃないですかぁ? 今日は早かったな!」
「遅刻少年で悪かったな……更に言えば不登校少年だ!! 所で条の内は?」

 ログインして談話用のテーブルに行くと,茶化しているのか誉めているのか分らない感じの台詞を藍沢に言う。 藍沢は鳴れた物で冗談交じりに自分をけなし周囲を見回して条の内が居ない事に疑念を抱く。


「彼は風邪をこじらせてね……ベッドの上でうなされているよ」

 

「お大事に」

「どう致しまして」

 それに対して条の内の面倒見役である仙道が,高熱を出して床に臥している事を教える。 藍沢は馬鹿でも風邪をひくのかと思うのだった。
 納得行った様子の藍沢を,此処に居る上位戦士の中で最も権限の有る仙道が見詰る。 その真摯な瞳は藍沢に覚悟があるかと問い掛けて来るようで藍沢は,仙道を強く睨み返した。

「うん,良い目だ……嘘塗れの弱そうな獣の目をしていた君は見るに堪えなかったよ」

 そう,爽やかな笑顔で仙道は言って一拍置いて本題を話し始めた。
 ???ファンクラブが同じ技術を持っている理由,同じ能力を有している理由……そして,緊急事態宣言。藍沢を含む下位の者達,皆が息を飲んで瞠目するのだった。

 先ずは,???ファンクラブが組織と同じ技術や能力者を有している理由。 それは,組織の根幹に位置する立場に居た男が裏切り組織に対抗する為に,組織の技術データをばっくあぷして逃走したのだ。 そして,次に男は組織によって身内や友,恋人を殺されていて尚且つ,ロジックの能力に長けた者達をスカウトし参加に加えて行ったと言う事だ。
 他に裏切り者は出なかったのか……何故,彼はこの事を世間に知らしめ無かったのかなど疑問は,水泡の様に浮かぶが全ては,現実的な答えが用意されていた。  
 前者は,その裏切り者が出てからは組織も戦士の裏切りに敏感になり組織に入ると同時に,明確な裏切り行為をすると死ぬ仕掛けが施されるようになったらしい。 
 そして,後者は世間に其れを伝えようとしても伝える事が出来ないのだ。 明確な理由を提示する事が出来なければ信じて貰えるはずがない。 第一,今の抑圧された国の力では能力者達に対抗できない。 

 そして,次は緊急事態宣言だ。
 

宣言一:戦士は一年目から五年目までは下位戦士として扱われるがそれを撤廃する。 その旨は,戦士同士の縦の関係を撤廃し連携と連帯感を要請する事とする。

宣言ニ:戦士のレベルの上昇が急務として年間指定殺人可能人数を撤廃する。


 詰り,是からは殺せる限りの人間を殺して来るべき戦いに備えて出来る限り戦闘力を底上げしろと言う事だろう。レベルが上がれば,あの大量虐殺を易々と遣って退ける特殊能力も手に入れることになる。
 藍沢は寒気を覚えた。 それは,周りの渡会や能登も同じ様だった。 だが,藍沢は戦う事を決めた。 決して逃げないと手を強く握り誓った。

「所で,渡会さん?」
「あたし?」

 数秒の沈黙の後,フリーダの凛とした声が渡会に掛けられる。 渡会は自分の事を指差して首を傾げる。

「えぇ……此処では渡会は貴女だけですよ?」
「いやぁ〜,何か照れるな?」
「照れる必要は無いですよ?」

 そんな渡会に,溜息をついてフリーダは肯定する。 渡会はと言うとフリーダと話すのは初めてらしく初々しい反応をする。 そんな渡会を冷たくフリーダは切捨て話を始めたそうな顔をする。

「…………で,何かな姉さん?」
「貴女,オーディンに対して名前も……恐らくは組織もと言う意味で……
名前も名乗らない奴等に付いてく気は無いって言ったのでよね?」

「あぁ……そうだけど?」

 喋りたいなら確認なんてしないでさっさと喋れば良いのにと言う風情で眼をすがめて渡会はフリーダに話を促す。 フリーダは,渡会に自分達は,組織の名前を貴方達に教えたいと暗に言う。
 渡会自身,何故,組織の名前をそんなに口にしようとしないのかと気にしていたので興味深いと思いながらも,敢えて余り興味の無い振りをする。 すると,彼女は興味が無いのなら喋らないと言う眼をする。

「あのさぁ……何でそんなに組織の名前を隠したがるの? そんなにヤバイ名前な訳?」

「いや,全然やばくないけど……」
「だったら…………」
「余りにもふざけた名前だから……かな? ある組織ってのの方がまだましな感じさ」

 そんなに口を紡ぐほどの名前なのかと,組織の名前も許可が無いと言えないのかと言う風情のきつい口調で渡会は言う。 フリーダはその言葉を聞いてグッと唇を噛む。 そんなフリーダを見た能登は渡会に対して,フリーダに何という事を言うのだとキッと渡会を睨みつける。
 そんな渡会に対して,渡会の隣に座っていた楢崎は,全然,そう言うことは無いと否定し,仙道は寧ろ,名前が馬鹿げているから口にしたくないと言う些事なのだと弁明する様に言う。
 それを聞いた渡会は,意地を張ってても意味がないと思い素直に,興味があると口にした。



————————————私達の所属する組織の名は“I”と申します————————————

 そう,単刀直入に早口にフリーダが顔を赤らめながら言う。 それに対して,確かに少しふざけた名前ではあるが其処まで,隠すほどかと藍沢が問う。
 それに対してフリーダ達は異口同音に「I」一文字では,何の意味も無いと言う事を主張する。 能登は,フリーダの意見と言う事も有りそれに同意する。 然し,それを言うならある組織とてさした意味は無いではないか。 ふと,能登の脳内にそんな疑念が浮かび出るが話がこじれそうなので言う事を止めた。

「一文字では何の意味も無いからね……意味の無い名前の組織に居ると言うのは虚しい事だ。
だから,此処に入って組織の名前を知った連中は,「I」を頭文字にした単語で好きな言葉を選び,それを自分達なりの組織の名前の意味としたよ……」

「例えば,intelligent……聡明なとか,influence……影響とかそんな感じですね」

 一回り,周りの反応を見回し,補足する様に仙道が話し始める。 今まで,組織に在籍し組織の名を知った者のほとんどは,組織の名の虚無感を嘆き自分なりに組織の名に意味を付けようとした。
 組織の名に意味が無いのでは,その組織自体にも意味が無いような気がするのが人間の性なのだろう。 組織の名に意味がある……それだけで何だか高級な感じがする。 人間とは単純で儚い物だ。
 仙道の言葉を更に補足する様にフリーだが,例えばどの様な組織の面子がどの様な単語を選んだのかを例として言う。 それを聞いて,渡会が笑顔で懐の広い名前だなと感心した様子で何度も頷く。

「個人的にはIの呼び方をそのまんま使って愛……Loveって所かな?」
「居たなぁ……そう言う奴も」

 一頻り頷いた渡会は,自分の中の「I」の意味を決めようと少し思考し話し出す。 その冗談半分な渡会の答えに対し仙道は,過去を見詰るような瞳で同意するように言った。 
 周りの哀愁に満ちた様子からすると,既に他界しているか組織から手を引いているのだろう。 渡会は少しバツの悪そうな顔をして能登に話を振る。

「能登は?」
「あたしは……I,自分ですね。意味は,あたしだけが知ってれば良いでしょ?」
「……意外と傲慢?」
「まさか?」

 その渡会の問いに能登は逡巡する様子も無く彼女にしてはハキハキした様子で言う。 その能登の答えは,控え目な容姿からは想像も付かないほど自己愛が強い能登の本性を見せている様だった。
 そして,遂には渡会は藍沢を見詰だす。 藍沢はその視線に気付き目を逸らす。 

「藍沢……」
「俺は,他の連中とは違うらしい……組織の名に意味など求める気は無い」

「…………意味,求めないと辛くなると思うんだけどなぁ?」

「余計な心配が好きな姉さんだ」

 目を逸らす藍沢に促すように渡会が問う。
 それに対して,藍沢は目を細めて忌憚無い意見を述べる。 そんな凛とした強い藍沢の瞳を見てその強さは何時までも続くのかと,渡会は暗に問う。
 然し,藍沢は渡会の言葉に戸惑う事は無かった。 その一瞬でその場凌ぎで考えた意味など直ぐに砕けてしまうと彼は,思ったのだ。


    ————今の竜牙の瞳には,全てを受け入れると言う覚悟が強く写されていた
    だが,その覚悟の強さが何時か逆に彼にとって重荷になると渡会は直感していた————
 


 一方,Kは日本ではない何処か……「I」総本山,通称「コルトゥオーネ」の司令官室と呼ばれる場所に居た。部屋は,意外なほどに狭く,多くの書物が所狭しと煩雑していた。 Kの隣には,黒いシルクハットを被ったスーツ姿の,サングラスを付けた長身痩躯の男。
 どうやらKと同等の立場で総司令官への信頼も厚い男の様だ。 総司令官はと言うと姿は見せずホログラムで後姿を見せ音声機によりどこか遠くから話をしている様だ。

「成程,報告ご苦労……予定通り,非常事態宣言をしたな。是からだ……この幻想と夢に踊らされた花火の様な儚い世界に私は悲壮感しか感じない。世界は,変えねばならん」

「はっ! 閣下のお言葉のままに!」

 黒尽くめの男の報告を静かに聞いていた男は,黒尽くめの報告を聞き終わると一拍置き先ず労いの言葉を掛ける。 数十年存在し続けている組織のボスにしてはやけに若い声だ。 ともすれば二十代だと言っても信じられそうな程に若々しい甘い声。
 首領と思しき男は,言葉を続ける。 Kと黒尽くめの男は静かにその言葉を聞き続ける。 この男の言葉が正しければ,非常事態宣言はされるべくして発されたと言う事になる。
 世界に,愁いを強く感じているこの男の本当の目的は何なのだろうか。 彼は,世界をどの様に変えたいのか……その事実は,「I」の面々の中でも数人しか知らない————



第一章 The end

NEXT⇒第二章 プロローグ



〜あとがき〜

第一章ついに終了しました!!
少し展開が遅い所も有りましたが第二章はノリノリのハイペースになると思います。
その分,内容も薄くなりそうな気がしますが其処は気をつけます!
藍沢の能力,何にしようかな??
オリキャラ……Neon様提供の中道ちゃんと楓様提供の永井君を出す事が出来ました!
いや……遅いね?遅いですね……すいません!