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- Re: I 〜第二章〜 疾走愛虚ロ〜 プロロ執筆中 ( No.86 )
- 日時: 2011/05/19 19:15
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)
- 参照: 第二章開幕! 限界突破の勢いで行くぜ!(無理
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第二章:疾走愛虚ロ
プロローグ「祭リ染ミテキタゼ!」
八月三日 火曜日。
組織Iが,緊急事態宣言をして三ヶ月近くが立っていた。
???ファンクラブの人間狩りは,一週間に一度のペースで行われていた。
一度に,数千人のペースで能力を持たない一般の人間を殺していく???ファンクラブ。
恐らくはレベルアップが目的だろう。 大勢の,組織所属の戦士達はそう,噂していた。
噂と言うよりは,事実そうだろう。 彼らは,Iを憎んでいる。 最近になり戦力が拮抗してきたから,戦力の底上げをして一気に,組織に宣戦布告するのだろう。
Iの中で,大きな戦争が勃発するかも知れないと言う危惧が増大し不安が伝染している最中。 ???ファンクラブは唯,淡々と殺戮を繰り返していた。 自分達の失った者の仇を知ったが故に。
???ファンクラブの面々は,この日,北海道の新たに開設された漁業の盛んな都市である夜縁市に数人が集結していた。 確認できるメンバーは,シュトゥルヒ。 サルコジ。 永井優。 そして,中道虚の四人だ。
メンバー達の居る高層ビルからは漁港が一望できた。 見渡す限りの澄み渡った青い海が眩しく輝く。
猟師達の活気溢れる声が聞こえて来そうな活力に溢れた若々しい街の風景にメンバーは,魅入る。
「悪クネェナ,コウ言ウ雰囲気ハ……」
「師匠も,バンカラ気質ですもんねぇ?」
開口一番にサルコジが言う。 彼は猟師の様な豪快な気質は好きだ。
だが,彼等を殺す事になるのは明確だ。 瞳を細目哀愁に満ちた表情をする。
其れに対し,虚が茶化すように彼の感情を代弁する。 サルコジは何も言わない。
少し,膨れた表情をして彼女は続ける。
「あ〜ぁ,責めて海で泳いでお寿司でも食べてからにしたかったですよねぇ? 殺すの」
「……テメェノ水着ナンザ興味ハネェヨ幼児体質!」
心此処に有らずと言う様子で虚は言う。
折角,水着も用意したのにと言う様に,水着を見せびらかしながら。
其れに対して,サルコジは心底,呆れた様に嫌味を言う。 幼児体質の事など然して気にしても居ない少女は,生返事で適当にサルコジを受け流す。 そんな,仲の良さそうな二人の様子を左横で見ていた優は言う。
「君達,僕の前で馴れ合うのは止してくれないか? 過剰な仲間意識は邪だ」
「テメェノ理論ヲ押付ケルナ」
彼の持論だ。 彼は,過剰な仲間意識を強く嫌う。 その要因は,幼少期に有るらしい。
有る程度の事までなら許容する事を人生の中で学んだがそれでも長い年月を掛けて骨身に染みた物は完全に消すことは出来ない。
彼の言葉に対してサルコジは,何の感情も無い声で気に障るなら耳と目でも防いで逃げてろと脅すように言う。
そんな,二人の喧嘩を虚は何時もの事と,割切り受け流す。 だが,先程まで何も言わず,しきりに時計を見て時間を確認していたシュトゥルヒが,拍手を打ち,口論を止める様に促す。
そして,彼女は,そろそろ時間だから用意をしろと全員に促す。 ???ファンクラブの面子は,立ち上がり,武器を装着し始める。 その瞬間だった。
突然,海の水の潮位が上昇していく。 遂には,海の水が異様な持ち上がり方を始める。
それは,まるで巨大地震の後の大津波の如くだ。 力により,持ち上げられる海水に阿鼻叫喚する人間達の悲鳴が,響き渡る。 恐らくは,海の近くで働いている者達などは逃げる為に必死だろう。
或いは,車へと直行し車を走らせ,逃げる事が出来ないと判断したものはなるべく上へと逃げようとするだろう。 誰だって,津波に捲き込まれて死ぬのはゴメンだ。
見世物ではない事は皆,理解しているだろう。 しかし,突然の出来事にパニック状態である者達に,津波は容赦なく襲い掛かった。 十数mにも及ぶ大津波が人々の希望と命を薙倒していく。
是は,サルコジ達ではない能力者により起された物だ。 サルコジは,迫り来る大津波を見詰る。 そして,自らの有する電気の力を解放する。 バチバチと音を立てて電力が収束されていく。
彼の獲物である爪と爪の間に,球状の電気の塊が顕現される。 サルコジは,大きな口を更に,大きく開き逃げ惑う市民を嘲笑する様な顔をして球体を大津波へと投げ付けた。
「爆ゼロ……プラズマボム!」
男が,技の名を叫ぶと津波に衝突した瞬間,電気が,津波を多い尽くした。
無論,電気の存在は,人間達には目には全く見えない。
何故,このような事をするのか,津波を起した男能力差の力は,大津波により大量の命を奪う事が出来るがサルコジには,大量に人を殺す手段が実は無い。 電気の塊を飛ばすことは出来るが,彼は,電力を空気中に拡散するには,爪を伸ばして空間を作らなければならない。
彼の爪の伸びる限界範囲が,彼の広域攻撃の限界範囲なのだ。 彼は,攻撃的なタイプの能力者の中では,広範囲攻撃に向かない部類と言える。
詰り,彼の力は,電気だ。 海水などは電気の伝達率が高い。 其れを生かしたのだ。
是は言わば,共同作業の様な物だ。 仲間の助成を得て対象を殺した事になるため経験値は半減するが一回の行動で二人の戦士に経験値が加算されるのだから悪い事では無い。
尚も,津波は進行する。 悪夢でも見ているようだと立ち尽くし涙を流す者も居る。
電気を孕んだ巨大災害は,無感情に命を食んで行く。
波の圧力により絶命する者。 苦しみ喘ぎ溺死する者。 サルコジの電気の力により感電死する者。 特に,電力が強く通っている場所に,運悪く居て焼死した者も居るだろう。
長い時間が過ぎた。 ついに,謎の能力者の起した津波も引き潮となり戻っていく。 難を逃れた者達の絶望の声が,耳に響く。 シュトゥルヒが,指を鳴らす。
生き残りを狩れと言う意味だ。 サルコジと津波を起した者の経験値稼ぎだけをする訳ではない。 無論,シュトゥルヒ達の経験値も稼がなければならない。 メンバーは夫々,別々の方向へと走り出す。
サルコジは,漁港の近くに有る高いビルを狙い,虚は面倒くさそうに近場を詮索する。 シュトゥルヒは,漁港とは離れた海の近辺。 そして,優は,車で逃げて逃げ切れた者達の車を。
最初に,生存者と遭遇したのは当然,近場を選んだ虚だ。 ざっと,三十人程が,呆然としている。 是から何をすれば良いのか,家族は無事だろうか……そんな,人々を無情に虚は殺す。
自らの武器である日本刀を振るう。 淡々としていて目は,感情を映さない。 まるで,唯の業務であるかのように一人一人確実に,一撃で息の根を止めて行く。
突然,流血して倒れていく人間達。 突然の出来事に,一瞬,思考が停止しながらも,目に見えない何かが居ると察知して恐怖を感じまだ,生きている者達が逃げ出す。
彼女は,一番人が多く逃げた方へと走り出し,疾風の如く逃げた者達の間をすり抜け切り捨てた。
「あ〜ぁ……メンドウクサァ〜! 変な走り方してくれるから斬り損ねたじゃん?」
しかし,どうやら一人生存者が居るようだ。 彼女は,胡乱気に目を眇めて額に手を当てる。
そして,相手には聞こえる筈も無い悪口をダラダラと言いながらその人物の頭蓋に刀身を情け容赦なく突き刺した。 痛そうに,呻いていた生存者は,小さく喘ぎビクンと大きく痙攣すると動かなくなった。
対象の死を確認すると彼女は,武器に付着した血を振るい落し鞘に納めた。
一方,永井 優は,追っていた車を目視出来る見晴らしの良い高層ビルの上に陣取っていた。 彼の周りには,津波を恐れて事前に逃げていた会社員と思われる人間達の残骸が有った。
彼は,慣れた様子で鼻歌を歌いながら武器である弓矢を構える。 そして,車両の移動速度,対象との距離,風の向き等をじっくりと計算する。 そして,角度を整え,弓を引いた。
彼によって引かれた矢は炎に包まれていた。 その矢は見事に,狙った車両に命中し音も立てず貫通する。 そして,燃料に火が付着し車両は大爆発を起す。
突然の大事故に,車線を走っていた車が止る。 幾つかの車は,突然の出来事に玉突きの様に衝突する。
しかし,それは序章に過ぎなかった。 彼の放った炎の矢から噴出した炎が,物理的な力を持って道路を少しずつ侵食していく。 終いには道路に亀裂が入り始め道路が崩れた。
多くの人間達が奈落の其処へと落ちていく。
道路の瓦礫が落ちて行く人間達を襲うのが容易に想像できる。 彼は,ニヤリと笑みを浮かべる。
「はいはい,無難にチャッチャと殺っちゃおうっと」
そう言って,優は道路が崩落する様を一部始終見届けた後,次の道路を狙った。
「後,四〜五ヶ所壊しておこうか……なぁ,灯火!」
凄絶な笑みを浮かべて優は,言った。
彼の,ノルマの為にはその程度,壊さないといけないだろうと計算したのだろう。
彼等には,ノルマが有りある一定の時期になるまでにノルマを達成出来るように行動している様だ。
十数分が過ぎた。
最初に集まっていた場所に,彼等は終結していた。
サルコジとシュトゥルヒは先に戻ってきていたらしい。
一番,遅れてきた優の前では虚が何で後輩の分際で先輩より後に来ているんだよ等と,逆恨みを買っていた。 そんな二人の様子を一瞥して優は,舌打ちして後ろを振り向く。
その時だった。 優の視界に,小さな石ころが飛んできたのは。 咄嗟に彼は,其れを回避する。
その直ぐ後ろにいたサルコジも優の動きで襲撃を察知する。 しかし,彼は,避けなかった。
ならば,命中したのか。 否,彼は,自らの弟子を盾にしてその襲撃を回避したのだ。 虚に命中した小石は突然,爆発して紅蓮の炎を吹いた。 コンクリートの壁が抉れている。 その威力の高さを物語る。
だが,ロジックのエネルギーで全身を覆い防御体勢に入っていた彼女は,耐え凌いだ。
「はっあうぅぅ……いっだあぁぁぁい!
って言うか服が……僕の服が! 赦さねぇ……この! 風月 春の野郎だなあぁぁぁぁ!」
体中がボロボロだ。 火傷の後も目立つ。 しかし,彼女にとってそんな事はどうでも良かった。
何故なら,直せる損傷だからだ。
彼女にとって,何より怒るべき事は,お気に入りの服が原形を留めぬほどに痛んだ事だった。
怒髪天の形相で虚は思いの丈を口にする。
対象の能力から相手を認識する程度には余裕が有るようだ。
「成程,焚付けたな?」
サルコジなら本来ならば回避できた攻撃を虚を戦う気にさせる為に,盾に使った事をシュトゥルヒは瞬時に見抜き賞賛する。
「コウナッタ虚ちゃんハ怖ェゼェ師匠」
サルコジは,愉悦に歪んだ表情で自慢げに言う。 喰えない男ですねと優は苦笑しながら弓矢を構える。
石の軌道は覚えている。 それにより相手の距離は有る程度算出される。 彼は,大量の矢を一挙に弦に装着し雨の様に対象に矢を降らせた。 貫通力の高い神速の炎の弓矢が降り注ぐ。
「あわわわわっ! 容赦ないですねぇ……ったく,一発掠ったですよ優君?」
其処には,栗色のセミロングの髪の黄色のに濁った瞳の少女が居た。
十代後半位だろう。 彼女が恐らくは風月 春だろう。 否,虚の反応から間違いなかった。
彼女が現れた瞬間に,虚はサルコジの肩を叩き奴を殺すのは私だと訴える。
彼は,首肯して了承する。 確認した瞬間に,彼女は走り出す。 そして,刀で対象に切掛る。
「虚ちゃんが私の相手? 爆死……したいの?」
「アンタを殺したいだけだ!」
切掛かる中道の剣を女は飄々とした風情で宝剣の様な雰囲気の剣で防ぐ。
そして,囁くように優しげに名前を呼び爆発して無残な死骸を晒したいかと問う。
それに対し虚は鬼の形相で自分が貴様を殺すのだと宣告する。
その瞬間,彼女の横を黒い矢が通り抜ける。
彼女はこの矢を知っている。 使用者と能力の両方を。 使用者は楢崎たつき,渡会愛螺の付添いだ。 そして,能力名はアルテミス。 赤・青・黄・黒・白と五つの種類の色の矢を射出する事が出来,夫々,能力が違う。
ちなみに,黒は,彼女が考えたとおりに動かす事の出来る矢だ。 最も,撃つ前にプログラミングした動きをするだけだが。 虚は,自分を狙うのではないかと焦るが,どうやら違うらしく安堵する。
しかし,目を逸らしている隙に風月は彼女の腹に手を据えていた。 彼女は,手で触った部分を爆破させる事が出来る能力者だ。
なお,手で握れる異常の大きさの物は,爆発するまで障っていないと爆発させる事は出来ない。
虚は急いで,春を蹴り飛ばし距離をとる。
その瞬間に,楢崎の射た黒い矢が対象に攻撃を仕掛けた。
黒い矢は対象付近になると速度を上げる特性が有る。 対象は,メンバーで最も強いシュトゥルヒだった。 シュトゥルヒは,深く瞑目し能力を発動する。
突然,産出された蔓が,グルグルと蛇がトグロを巻く様に回転し盾と化す。 黒い矢はそれを貫通できず止まる。 シュトゥルヒは,藍沢達と初めて遭遇した時と同じ技を使い攻撃の主を引きずり出す。
「やっぱり無理かぁ……」
「当たり前だろう? 貴様と私では能力が違う」
攻撃を回避し,???ファンクラブの面々とは違うビルへと飛び移った楢崎は,反省した風情で言う。
それに対して,シュトゥルヒは冷然と切り捨てる。 そんな,楢崎の真横を優の矢が通り抜ける。 楢崎は,彼の居る方に目をやり臨戦態勢に入る。
「アンタは僕がやる」
「……ふぅん,アンタの矢とはスペックが違うわよぉ? あたしのは〜」
勇んだ口調で彼は言う。 普段は,冷めている部類の彼だが,彼女に対しては対抗心を顕著にする。
同じ武器の使い手だからだろう。 彼女の自信満々の表情が彼を余計に駆り立てる。
馬鹿にした様な態度で言う楢崎に彼は,怒号を上げながら向かって行った。
「シッカシ,Iノ連中ガ来ルトハネェ……正義ノ見方気取リカ?」
優と戦う楢崎に,サルコジが疑問を訪ねる。
今まで,一度もIの面々からの妨害を受けた事が無かったから彼等が,邪魔をしてくるとは思って居なかったのだ。
それに対して,楢崎は,言う。
「正義の味方ぁ? だったら,あんた等が事を起す前に攻撃してるわよぉ?
今になってアンタ達の襲撃対象の選定の仕方が割り出せたってだけよ……
んで,ロジックの力,消耗している状態の時を狙ったわけ!」
「成程ナ……デ,二人ダケトハ嘗メテネェカ?」
楢崎は,怪訝そうな顔をして盛大に溜息を吐く。 そして,大きなジェスチャーを取りながら否定の言葉を並べる。 彼女の言葉に,正義の味方なら人死にが起る前に行動するのは当然だと納得する。
そして,彼女の最後の言葉に得心が言ったように頷く。 襲撃する場所が分ったのに直ぐに襲撃しなかった理由が,相手の能力のダウンを狙っていたと言うのなら納得だ。
本来,ロジックの力は有限だ。 多くの人間を一編に殺せる強力な力を与えてくれるが個人の資質やレベル,体力状態によりロジックの力は増減し使えば無論,消耗する。
彼等は,能力を遺憾なく発揮し短時間の大量殺人をなしていた。 既に,ロジックを使うキャパは半分程度となっている。 だが,それでも???ファンクラブの面々は四人だ。 対して相手は二人。
それも,春は???ファンクラブ側で一番レベルの低い虚と同等で楢崎もまた,二番目に弱い優と同等程度の実力しか有していない。 彼我の実力差をその程度の計略で覆せるかとサルコジは憤る。
「貰った!」
「残念! んな訳無いでしょう?
ちゃんと四人よぉ……グランの奴がさっさと帰っちゃう事予想してね?」
話に集中して隙を見せた楢崎に容赦なく強弓を優は浴びせる。 彼女は何とかそれを回避してサルコジを見詰める。 そして,怒るサルコジに宥める様なリアクションを取りながら言う。
人数は揃えて来ていると。 大津波を起こした同士は直ぐに撤退するだろう事を想定して戦士の数は,処分の対象であるサルコジ達と同じ人数にしていると。 男は,口角を上げる。
どうやら,自分も戦えるらしいと認識したようだ。
「ハッ! 祭リ染ミテキタジャネェカ!」
彼が,手を広げ高らかに叫んだと粗,同時にサルコジ達の後ろに,巨大な火柱が顕現された。
フィアンマ・サキアスの力だ。 楢崎達等とは違う血湧き肉踊る強敵の登場に男は,狂気の笑みを浮かべた。 更に,一陣の風が突然,吹き抜ける。 彼は,風が吹いてきた方に目を移す。
空には,ニット帽を被った翠色の瞳をした二十代前半の青年がスケートボートに乗って浮いていた。 青年の左頬にある特徴的なタトゥは組織のエンブレムだ。 彼の名は風巻俊吾。
長年,愛用しているスケートボードで空を翔る強力な風使いだ。
「Youの相手はMeがやるYO。 宜しくNE?」
「面白ェジャネェカ! 丁度,退屈シテタ所ダゼ!」
ニット帽を少し上げて気だるげな瞳を覗かせ風巻は,冷静な口調で言う。
一方,戦いたくて体中を震わせていたサルコジのボルテージは最高潮に達していた。 サルコジは,弾かれた様に,空へとジャンプし自分の武器である爪をジャラジャラと鳴らした。
「相変わらずワイルドな事だNE。 でも,嫌いじゃなI……寧ろ,ビューティフル!」
猛然と突進してくるサルコジを風巻は怜悧な眼差しで見詰める。 そして,彼に対する自分の本音を口にしながら空に手を翳し攻撃を開始する。 目で凝視しても姿を捉える事の出来ない風の鞭だ。
しかし,サルコジは長年の勘と相手の手の動きで大体の攻撃方向を察知する。 一撃目は,距離が詰まりすぎていた性で回避できず防御する事となったが,ニ撃目は,何とか体を逸らして回避する。
彼が,風巻の攻撃を回避するとほぼ,同時にシュトゥルヒに炎が襲い掛かった。 サキアスの炎だ。
シュトゥルヒは,驚いた様子も無く悠然と違うビルへと飛び移り攻撃を回避する。 ビルを見ると炎に捲き込まれたビルは全く損傷は無く炎により焦げた様子も無い。 しかし,それは能力を使った本人が,ビルを壊す意思が無かったからだ。 この炎は,サキアスの意思により制御できる。 その分,対象に命中した時は絶大な攻撃力を有するよう設定されている。
「そこか!」
「ふむ,一段と攻撃の射程と速度……重さが強くなった様でござるな」
炎の放物線の描き方から相手の位置を補足し彼女は,鞭を奮う。 まずは,一瞬の爆発の様な破裂音。 その後に,風を切るが,其処に居る面々には響き渡る。 その攻撃を男は,目視し悠然と前へと進み鞭の攻撃範囲から外れ回避する。
シュトゥルヒの放った鞭は,アスファルトの道路に大きな亀裂を造る。 既に,ほとんどの人間達は先の大津波で逃げていて路上に居るのは逃げ遅れて彼女等に惨殺された者達の死骸だけだった。 死骸は,彼女の鞭の衝撃により木の葉のように吹き飛んだ。
その様を繁々と見詰めサキアスは,以前より強くなったと一応の麗句を述べる。 しかし,男の瞳は,相手を褒める人間の目は無かった。
その目には,シュトゥルヒを倒すと言う強い意志が,みなぎっている。 死者に鞭打つ様な冒涜を赦せるほど彼は,正義感が弱くなかった。
「その憤怒に満ちた顔,悪くない……お前のそう言う顔は,本当に戦士の顔を思わせる」
「ゴタクは良い。 成敗してやる!」
ズンズンと音を立てるかのように道路に足を強く打ち付けて怒りを表すサキアスに,女は言う。 彼を挑発するように,冷笑を浮かべて。
彼は,それに応えるように鞘から剣を抜きシュトゥルヒを指差すようにして挑発する。
此処に,IメンバーVS???ファンクラブメンバーの図式が完成した。 それぞれの戦いが激化して行く。
End
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