ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ピリオドをください。 ( No.29 )
- 日時: 2011/04/05 20:44
- 名前: AW工作員 ◆DmA4Zkv3S6 (ID: 3JtB6P.q)
- 参照: お久しぶりです^^
第六章
本当にこんなことしても良かったのだろうか。
“重症”患者を外に連れ出すなんて。
「ふう。久しぶりの空だ」
今、私達は公園のベンチに腰掛けている。
伸びをして、欠伸一つ。
全くのんきなものだ。
病院、それも扉に鍵をかけられるような場所から脱出してきたと言うのに。
それにー。
「あなた“重症”なんでしょ?」
一番気になっていたことを訊いた。
「へへ。やっぱり見えない?」
彼は質問には答えない。
ヘラヘラと笑う彼をみてほんの少し苛立った。
「私、暇じゃないの。あなたは何処へでも好きな所に行けば?」
キツめの口調で言ったつもりだったが、それでも彼は笑っていた。
だが、上辺だけで笑っているように見える。
頭が“重症”なんじゃないの?
「“何で笑ってるの”って言いたそうだね」
ドキッとした。
まるで心を読まれているようだ。
表情も口調も気持ちと一緒だが、そんな単純なものから分かったんじゃ無い気がした。
「自分でも何故だか分からないんだ」
そう言うと彼は目を伏して、そして開いて私に顔を向けた。
「行く場所なんて何処にもないさ。遠くまで行く度胸なんて、本当は無いんだ」
自嘲気味に笑う。
「あの病院は…」
私はあの病院で目覚めた。
検査を受けていたところだったらしいが、何故私が検査を受けていたのか、何の検査なのか分からなかった。
「あの病院は精神が変な奴の集まりだよ。」
彼は言う。
「それも社会から拒絶されるような重度の奴らが入れられる、言わば“隔離施設”ってやつさ。だから僕には行くアテがない」
彼は立ち上がって歩き出した。
私はボーっとその背中を見つめていたが、
「ついて来ないのかい?君も随分変なやつだと思うけど」
「どういう意味?」
妙なことを言われたのでハッとした。
「聞こえもしない声を追ってきたり、部屋の鍵の番号を知ってたり。充分変だと思うよ」
これを聞いて一瞬言葉を詰まらせた。
「…確かにそうかもしれない」
きっとそうだ。
でなければ、あんな声が聞こえるわけがない。
鍵の番号を知りもしないのに開けられるはずがない。
あんな夢を見て、夢と同じ行動をするわけがない。
「冗談だよ。本気にしないで」
確かに冗談のようだが、私はその冗談に怯えた。
自然と眉間にシワが寄る。