ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 「死 人 花」 ( No.1 )
- 日時: 2011/01/28 19:50
- 名前: 霧雨柚乃 (ID: 3iZuTr1t)
プロローグ
『死人花の咲く町』
うちのばあちゃんはここ、杉野町のことをそんな風に言っていた。
何で、って理由を聞くと、必ず「内緒」。
そんなんだからオレはもう理由を聞かなくなっていた。
ま、どーでもいいか。
オレは今、その杉野町に来ている。夏休みだから。
毎年夏休みはばあちゃん家で過ごすことに決められている。
オレもそれで良いし、それが素直に嬉しい。
海、木々に山、スイカ、日の光、その他もろもろ。
オレの夏休みは田舎町で始まり、田舎町で終わる。
あー、もうすぐ着くな。
電車の止まる音がした。
周りにいた数名の人が立ち上がる。
オレもその中に混ざって電車から降りる。
すっごく暑い日差しの下で、白いワンピースの少女がひとり立っていた。
オレの従姉弟・朝凪杏奈。
かなり可愛い方だ。
つーかすげえ可愛い顔してる。
モテるんだろうなコイツって会うたびに思う。
オレは杏奈の前に行った。
「久しぶり。元気か?」
ニコッと笑うと杏奈は
「そこそこ。智影は?」
「勿論そこそこ。お前とおんなじ意見でーす!」
「でしょうね。ささ、婆様が待ってるよ!行こ」
「おう」
杏奈は駅の階段を小走りに降りた。
オレもそれに続く。
無人駅だからかどうかは知らないけど、人がいない。
オレより前に降りた人はさっさと何処かに行ったんだろう。
実家とか、友達の家とか。
ま、これもどうでもいいことだけどな。
駅から10メートルくらいのところに婆様こと鈴村千代の家はある。
オレと杏奈のばあちゃんだ。
じいちゃんは去年、死んだ。
オレはじいちゃんが大好きだった。
夏休みはじいちゃんの育てた果物や野菜を食べるのが楽しみで仕方がなかった。
もう、じいちゃんはいないから野菜も食えないけど。
葬式の時、皆が泣いた。
引きこもりで滅多に外にでない杏奈の姉ちゃん・唯子さんですら。
そんなじいちゃんの葬式に、いないヤツが一人いた。
オレの親父だ。
いないというか来れなかった。来たくても。
親父は3年前から行方不明になっている。
もう死んだのかもしれないが、母さんとオレは待っている。
親父が帰ってくるのを。