ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜コメが100突破した…! ( No.101 )
- 日時: 2011/04/25 23:01
- 名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)
第二十二話
「魂が…!!」
赤い部屋に響くショックを受けた声に
私は思わず振り返った。
姿は見えないが、この声は歩武のものだろう。
「どうしたの?」
「魂が…成仏してしまった!」
「…は?」
いきなり意味不明なことを嘆きだす彼女に
私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
いつも歩武は不思議なことをいきなり言い出す。
…彼氏さんも手を焼いていたのかもしれない。
溜息を吐きながらも私は歩武に聞いてみた。
「魂が成仏するのはいい事なんじゃないの?なんでショック受けてるのよ」
「成仏してみんないなくなったら、独りぼっち…」
その場にいた美しい魂たちが、全て成仏してしまった後に
歩武は悲しげな声を発する。
「ひとりぼっちって…私がいるじゃない」
「でも今日まででしょ?私は成仏できない。だから、みんなと同じところに行くこともできない…」
落ち込んでいる歩武にかける言葉が見つからない。
成仏には失敗するかもしれないが、成功する可能性のほうが大きい。
だからどっちにしろ結果的には、
歩武の傷つくものになるのだ。
「…ごめん。湿っぽくなってしまったね…じゃあ美紗ちゃん、自分の魂を取り出して?魂になった後でさっさと人型になるんだよ」
「え?あぁ、うん」
いつも通りの調子を取り戻した歩武は
私に淡々と早口に説明をする。
言われた通りに私は、自分の魂を取り出すため
胸に手を当てた。
(罪を償いし時…懺悔をすべくため、出でよ。そうして、願うのだ。人の幸せを…)
どこかから声が聞こえてきたような気がしたが、
理解する間もなく、私の魂が出てきてしまった。
「うッ…」
倒れてゆく自身の身体を見ながら、
私は人型になろうと必死に願った。
その瞬間に、魂は色々な形に変形していき、
やがて生前と同じ姿に変わっていった。
「完了したよ、美紗ちゃん」
歩武の嬉しいような悲しいような声が耳に響いて
私は一瞬、複雑な気持ちになってしまう。
それを打ち消すように私は、
天井に向かって声を放った。
「頑張ってくるね。…成功したらもう…会えないかもしれないけれど」
「…大丈夫。すぐにここには罪人が来るからさ!」
そう言うと歩武はその場から気配を消した。
もうここにはいないだろう。
心で一言、ありがとうと言いながら
私はその場を後にした。
「…紗のバカ………美紗の、ばかぁ…」
美紗の家に着くと、そこには痩せこけてしまった春の姿があった。
弱々しい声で同じ言葉を何度も繰り返す春を見て
私は泣きそうになる。
そっと春の肩に触れようとするが、
この姿では触れることも出来ないでいた。
なので、そっと声を出して春を呼んでみる。
「…春…聞こえる?春…———」
「———ッ!!??」
いきなりのことで驚いたのだろう。
春はガバっと身を起こすと、私の方へ視線を向けた。
「久しぶり、春。って見えてるかな?」
クスクスと笑う私に対して、
春は未だに状況が掴めていないという感じだ。
「み、さ…?」
「うん…やせたね、春」
「…なんにも喉を通らなくてさ…美紗、もしかして生きてた?」
かすかな期待を抱いたような春に、
事実を伝えるのは酷だ。
そう思ってしまったが、やはり言わないと…
「ううん…死んじゃったみたい。でも、春にまた会えて嬉しいわ」
悲しげな顔をして、涙をこぼす春…
それでも必死に笑おうとする春に、私は本当に申し訳ないと思った。
「美紗…ッ!私…ま、たッ…私も…会えて、嬉し…ッ」
「うん…こんな形で、ホントにごめんね…」
「ッ!いいよ!全然…ッ会えたことが、嬉しいからっ…」
涙を拭う春の手を、触れられないと分かっているけれど、
そっと握った。
「…春、本当にごめんなさい。私は、春が死ぬのが嫌だったから、庇ったつもりだったの…でも、悲しませてしまった…」
「…うん…」
「でも、春にはこれからがある。これからの人生…春は生きてるから」
手を握ったまま語る私を、春は黙ってじっと見つめる。
また零れそうになっている春の涙を見て、
言ったことを後悔してしまった自分がいた。
「春。悲しまないで…私の分まで生きてなんて言わないから、春は自分の人生を楽しんで?ね?これからを、生きて。…ッ新しい友達作って、彼氏なんかも作って…私がいなくても、きっと春なら大丈夫」
「そ、んな…無理!美紗じゃないと無理だから!嫌だ…行かないで…ッ行かないでよぉ…ッ!!」
「…泣かないで?成仏、できないじゃない…ッ」
「しないで…しなくてもいいから…傍にいてよ…ッ美紗ぁ!!」
そろそろ限界だ…
私は涙を流しながら、春を抱きしめる。
初めて会ったあの日、春がこうしてくれたっけ…
私は最後、春に言えなかった言葉を告げようと
口を開いた。
『春、大好きよ…今までありがとう。もし、生まれ変わったら…———』
また思い出して?
それでもう一度
会えたら、いいね……—————