ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.102 )
日時: 2011/04/27 20:37
名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)

第二十三話



春には償い終わった。

次はディアーブルのところへ償いに行かないと…



私は霊化した自分の身体をふわふわと漂わせながら

春とは別居しているディアーブルのもとへ向かおうとした。


(あ、そういえば私、ディアーブルの家知らないんだったわ…)


未だに濡れている頬に手を当て、

私は首を傾げる。

(あれ?私、どうして泣いているのかしら———…)

どうやら何かの記憶を失っているらしい。


———なにを、忘れたんだろう…



思い出せずに暫く空中を漂っていると

いきなり強い力で身体を引っ張られ、

ものすごい速さで前へ進んでいった。


「え!?な、によォ!」


引っ張られるというより引き摺られるといった方が正しい。

私は多少気持ち悪くなりながら

必死に抵抗した。

もっとも、慣れない霊体のせいで

抵抗らしい抵抗など出来はしなかったが。



引き摺られながら着いた場所は、

小奇麗なレンガ造りの一軒家だった。

家の壁には緑の美しい つたが、

広い庭には綺麗な花が所狭しと生えている。

まるで西洋の世界に来たようなその佇まいに

私は一瞬見とれてしまった。


「綺麗…でもここって、どこなの?」


見えない力に訊ねてみたが、返事は返ってこないだろうと

自分で呆れてしまった。

「…こは、…アーブル…家」

「……へッ?」


すっかり脱力し切っていた私は

かすかに聞こえてくる声の話の内容を

きちんと聞き取ることが出来なかった。

「ちょっと、もう一度言ってもらえる?よく聞こえなかったわ」

「ここは、ディアーブルの家って言ったの」


聞き覚えのある声。

この声は…



「歩武さん!?」



「うん。気になったから様子見てる。あの部屋からだけどね」

「そうなの…良かった〜…」

意外な声の正体に、私は驚いたのと同時に

強い安心感を覚えた。

ふうっと溜息をつく私に向かって

歩武は声を発した。

「…頑張ってね。本当の本当に、私とはもうお別れだね」

少し寂しげに呟く歩武に、私はニコッと微笑んで見せた。

「大丈夫よ!きっと新しいお気に入りが来るわ。すぐに…。…さよなら、歩武さん…」

「うん。ま、死んでたらまた会えるからさ。生まれ変われなかったら…」

「…そうね」

「そういえばひとつ言い忘れてたんだけど、美紗ちゃん記憶が無くなってるでしょ?それはね、死者からも生きている人同様に記憶が失われてしまうからなんだ」

困ったような声の歩武に私は問う。

「え?じゃあ私、誰かの記憶がないってこと?」

「うん…別に思い出してみたいっていうなら記憶返してあげるけど?」

「…そんなに軽いモノなの?」

「うん。じゃ、戻してあげるね〜」

それだけ言うと歩武は何をしたのか、

私の身体が光り始めてしまった。

とりあえず目を瞑り、歩武が声をかけてくれるのを待った。

「もういいよ、おしまい」

「ひッ!!ぅぁあああ゛あぁッ!!!」

どうしたんだろう…

いきなり色んな記憶が戻ってきた。




そっか…

私、春に償った後だったんだ…


「ありがとう、歩武さん。思い出したわ」

「いいよ、じゃあね…」


歩武の声が聞こえる方に向かって

私は大きく手を振った。


彼女の声が聞こえなくなるまで、ずっと…


「ありがとう、歩武さん。貴女も私の友達よ…」

そう言うと、クスクスと歌うような声が

風に乗って聞こえたような気がした。



「さぁ、ディアーブル。待ってなさいよ…私が今から懺悔しに行ってあげるんだから…直々に」