ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.103 )
- 日時: 2011/04/27 20:38
- 名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)
第二十四話
(ど〜して私がアイツに謝らないといけないのよ。)
ディアーブルの家に入って早々、
私はそんな気持ちになってきた。
家の中はどこがどうなっているのかさっぱり分からないほど広かった。
当然そんな状態なのだから、
ディアーブルなど見つかるはずもなく…
「無理!無ぅぅ理ぃぃい!!」
早々に断念してしまったのだ。
思わず大声を出してしまい、
咄嗟に両手で口を覆う。
———まあ今のでディアーブルも気づいてるんじゃないのかしら?
案の定、二階のほうから足音が聞こえてきた。
ゆったりとしたものだったが、足取りはとても重いように感じられた。
「…誰だ?」
降りてきたディアーブルは
長い黒髪の隙間から目を出して
周りの様子を伺っていた。
(ッホラー…!)
生気の失ったその表情に
思わずゾッとした私はそう思ってしまった。
「…いないんですか?」
再度確かめるように訊ねるディアーブルに
私は怯えながらも近づいていった。
立ち尽くしたままのディアーブルの前に立つと
私はスーッと自身の姿を現していった。
途端に顔面蒼白になっていくディアーブル。
私を見下ろしたまま何かを言いたげに
口をパクパクさせていた。
「久しぶり、ディアーブル」
「ッみ、さ…?」
「フフ、春と反応が同じね。さすが親子だわ…」
皮肉ではなく、素直に微笑みながらそう言うと
ディアーブルは目を見開いて私を見つめた。
そして私の肩に手を置こうと手を伸ばすが
当然触れることなどできない。
「…美紗は、死んだ…んです、か?」
「うん、そうみたい。触れないでしょ?」
無言で頷くディアーブル。
俯き加減の彼の目の端が、うっすらと光っている。
「…美紗…ッ!あの時は、本当に悪かっ…ッぅ、くッ…」
それ以上は嗚咽で言葉にならないらしい。
片手で目を覆いながら、次々と溢れ出る涙を拭う。
「私はね、正直あなたを殺してしまいたいわ。この手でね…謝って欲しくもないの。私が欲しいのは、春の笑顔よ。それ以外、もう望む気にもなれないわ…」
これは、本当のこと…
「大っ嫌いよ、あんたなんて。死んでしまえ…」
これは、嘘。
泣きながら私の顔を覗き込むディアーブル。
どうやら春の癖は、このディアーブルの仕草からきているらしい。
私は少しぼやけてきた視界を不快に思いながら、
静かに言った。
「自分だけ泣くなんて、ズルイ…」
「……なら美紗も、泣けばいい。気が済むまで…春のところでは、上手く泣けなかったんでしょう?」
頬を濡らしている割には、ハッキリとものを言うディアーブルに
少しだけ、なんだか安心した。
力を抜くと、涙腺も緩んでしまって
気づくと大声を上げて泣いていた。
「…ふッ…ぅぇえ゛!うあ゛ぁぁぁああ゛ッ!」
「……大丈夫、美紗のために…春を笑顔にするから…」
触れられないけれど、ディアーブルは私を抱きしめる。
そこから伝わってきた体温は、
父親の子を想う温かいものだった。
「…私のためじゃなく…ッひっく、春のために…頑張るのよッ!春を想ってあげて…!」
これだけ言えば
もう満足…
ディアーブルと春。
仲良くなってくれるかな?
もう消えないといけないけれど、
思い出してくれるかな?
結局、ディアーブルに謝らなかったなぁ…
これって償い、失敗なのかな?
また、ふたりに…
春に
会えるのかな…?
忘れないでね?
私のこと…
思い出してね?
さようなら、春。
大好きよ…
また、色んなところへ
連れて行ってね?
さようなら、ディアーブル。
生まれ変わったら
また殺しに来るからね…?
だから
思い出してね…?
私をきっと
思い出してね……—————