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Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.105 )
日時: 2011/05/17 21:58
名前: 色茱萸 (ID: QSUq1i9f)

第二十五話



あの後、春とディアーブルの記憶から

私の存在が消え去った。


その後の春は、

私のことなんて初めからいなかったみたいに

あの落ち込んでいた様子が嘘だったかのように

笑いながら学校に通っていた。


ディアーブルは結局、自分から警察に行って

全てを話し、今は刑務所で暮らしている。

相変わらず紳士的だったけど。


私は、春にもディアーブルにも思い出してもらえないで

未だにフラフラ彷徨っている。

歩武さんのところへ行けばいいんだろうけど

それは思い出してもらうのを

諦めてしまうみたいだからやめた。


*   *   *   *   *


〜ディアーブル改め、ディア視点〜


「おいディア、どうしたんだよボーっとして。次の当番、お前だろ?」

「あ、あぁ…なんだかさっきから思い出せなくて…」

なにを?と聞いてくる刑務所仲間の直哉に

僕は頭を抑えながら答える。

「忘れてしまったんだ。すごく、大事な人のことを…」

「は?何で大事な人なのに忘れるんだ?」

「それが分からないから困ってるんですよ」

多少睨みつけながら言うと直哉は

「へぇ〜…ミステリアスだな〜」

と呑気な口調で返してきた。

「おい!そこの二人、サボってないで働け!」

突然遠くから看守の怒鳴り声が聞こえてきて、

僕らの話はそこで一時中断してしまった。

「じゃ、また後でな〜」


直哉とは同じ部屋の仲間(?)同士で、

いつも何かあるごとに絡んでくる。

飽きないのだけれど少しうるさい彼は

暗い過去を持っているらしい。

彼の過去、全く興味がないといえば嘘になるが、

僕の過去を直哉が聞いて来ないのなら、

僕も彼に聞くわけにはいかないだろう。



僕の罪は殺人罪。

この刑務所から、もう一生出る事ができないらしい。

春はどうしているだろうか。

元気でやっているかな?


そしてもう一人…

誰だったんだろう。

春と同じくらい、それ以上大事だったあの彼女。



名前どころか、その容姿さえ全く思い出せないでいる。

けれどなにかが引っかかるのだ。

彼女はそう、



もういない。



死んでいるのだ、あの子は…

そこまでは分かっているのに、他のことが思い出せない。



「お〜い、もう終わったぞ?いつまでここにいるつもりなんだ〜?」

「…直哉、いつの間に…」

「お前が、こうやって考え込んでいる間に、看守たちも、呆れて帰ったぞ」

大げさに動き回りながら途切れ途切れに直哉は言った。

「そうか、とりあえず部屋へ帰ろう」

直哉の這うような動きを無視しながら

僕は寮へと歩いていった。





*   *   *   *   *



「んで?その女の子が誰か分からずに悩んでたのか?」

くつろぎながら聞いてくる直哉に

僕は小さく頷いた。

「名前が思い出せたらいいんだけど…」

「じゃあ順番に言っていけば?あいちゃんあうちゃんあえちゃん…」

「終わるのか、それ…」

バカみたいな提案をしてくる直哉を睨みつけるけれど

それに気づかずに彼は必死で念仏のように名前を言い続ける。

そしてある場所で、僕は違和感を覚えた。

「みき、みく、みけ、みこ…みさ」

「ッ!止まれ直哉!!」

「え?」

「お前今、最後の名前…なんて言った?」



聞き覚えのある名前。




尋常じゃないほどの懐かしさを覚える。




「み、みさ…?」

「それ、だ…美紗…美紗だよ!」


僕があの時動かなければ

美紗は死なずに済んだのだ。





僕が…


殺した。




「…ディア?どうした?」

「思い出した、何もかも…でも、今更だよな…ここからはもう…出られないんだから」








*   *   *   *   *   *   *








私のことを思い出したのは





一生涯憎み続けた





父親でした。





あの子じゃなかった…





楽しみにしていた





私の第二の人生は





一気に奈落へと落とされてしまったように





ショックなものでした……————