ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.106 )
日時: 2011/06/12 20:23
名前: 色茱萸 (ID: ncyYlurw)

第二十六話



「良かったじゃん、思い出してもらえて」

私と同じように霊化してしまった彼女たちが

周りでケラケラと楽しそうに笑った。

私が今いるここは、黄泉のよみのくにと言って、

死後ほとんどの善良な人たちが

連れてこられる場所だ。

重罪を犯してしまった私は、死んでからすぐには

ここに来られなかったのだけど。


先程ディアーブルが私のことを思い出してくれたようで、

新たに生まれ変わるために私はここへ連れてこられた。

春が思い出してくれれば、きっと飛び上がって喜んだのに…


「まぁそんなに暗い顔しないでよ。もう一回、貴女は生きるチャンスをもらったの。彼に感謝しないと」

「そうよ、私たちなんてもう一生、生き返ることなんて出来ないんだから。…あ、此処でお別れみたいよ。じゃあ、楽しんで生きるのよ」


血にまみれた彼女たち。

一体何があって、あんな姿になったのだろう。


消えていく彼女たちを見届けながら、ボーっとそんなことを思う。




















私…

生まれ変わったらどうなるのかな。

自分じゃなくなるのに、

春もきっと分からないかもしれないのに、

生きる意味なんて、ないんじゃないの?




どうして私は生きるの?




ただ普通の、いつも通りの日常が

退屈に過ぎていくだけ。

そしてまた、年をとって死んでいく。

そんなくり返しの人生なんて、


誰が欲しい?


私はいらない。

春以外、生きていく意味を知らない私には

そんなものいらない。

どうだっていいのよ、もう…







『次の者、自身の成り行きを申してみよ』

何やら得体の知れない人型の様なものが

私に話しかけてきた。

少し経ってその言葉の意味を理解した私は

その生前の事と、今の状態を口早に言った。

『そうか、御主は悪人なのじゃな。…ふむ、歩武の紹介で生まれ変わるのか。よし、御主に新たな人生をくれてやる。閻魔の間へ行くがよい』

「…はい」

閻魔の間ってどこだろう。

そう思い周りを見渡してみると、

すぐ隣に閻魔の間と書かれた大きな扉があった。


遠慮がちに扉を開くと、

私の身体は一瞬光に包まれ、その後すぐに消え去った。

魂だけになったのだ。


ふわふわと浮いている私の前に

一人の可愛らしい少女が現れた。

『その身体が今日から御主の本体じゃ。移るがいい』

先ほどの得体の知れない物体の声が、閻魔の間に響く。




———これが、私の新しい姿…




以前の自分とは似ても似つかぬその可愛らしい姿に

少々乗り移るのを戸惑ってしまった。

だがその戸惑いも時間にしてみれば3秒もないものだった。

私はスッとその身体へと入っていった。





*   *   *   *   *   *



気がつくと私は

見慣れた建物の前へ立っていた。

「ここって…」


生前、ずっとお世話になっていた施設だった。

中からはワイワイと子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。

「懐かしい…。私、生まれ変わっちゃったの…?」


あの時と、何も変わっていなかった。

少し錆び付いた窓枠と、

小さな木造りのベンチ。

真っ白な壁に伝う、鮮やかな緑の蔦。


全てが変わっていないのに、

私だけが変わってしまった。

私はもう、『美紗』じゃない。



誰?





じゃあ、私は誰なの?







これからどう名乗ればいいの?


知らない。


なにも分からない。


私はこれから


どう生けていけばいいの?









…どうしろっていうのよ…