ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.114 )
- 日時: 2011/06/30 14:21
- 名前: 色茱萸 (ID: ncyYlurw)
- 参照: http://w5.oekakibbs.com/bbs/oe-kakiko2/data/67.png
第二十八話
苦笑して私に告げた春。
何を言っていいのかが分からなかった。
無言の私を少し見つめて、また春が口を開く。
「…その子を守れなかった私の責任もあるんだから、父親に怒りをぶつけても意味ないんだけどね。名前だけでも、覚えていたらよかったのに…」
顔を苦しそうに歪める春を見て、一瞬だけど
『美紗だ』と言ってしまいそうになった。
ここまで思い出しているのに
それだけでも奇跡なのに
それ以上を望んでしまう自分がいて…
そう思うと、吐き気がする。
「その子はきっと、そうなることを望んでいたんだと思う。…ッ貴女が…———」
貴方達が、助かるのならば。
それでもいいのだと。
私に生きる望みをくれた貴女のためならば
自分の人生なんて、ひとつも惜しくないと。
春はそう思える人だったんだから…
「何も、あなたが悩む必要なんてないわ」
そう私が言うと、春は酷く驚いた顔をした。
そして、ほんの少しだけだが、あの時のような
とても美しい微笑みをこちらへ向けてくれた。
「ありがとう。なんだかあの子に似てるなぁ、キミ」
そう、『——』に似ている…
「どうかしたの?」
「い、いや。別に…ねぇ、キミって名前なんて言うの?私は風月春。春って呼んで」
急に動揺したりして、春らしくない。
そういえば、私名前なんて名乗ればいいのかな。
さすがに美紗はダメだろうし…
「あ、相原美玖(あいはらみく)よ。よろしく…」
咄嗟の判断で、昔と似たような名前になってしまったが
春は気づいてない様子。
「そっか、じゃあ美玖って呼んでいい?」
「え、うん。全然いいわよ」
美紗じゃないのが残念だけど…
また名前で呼ばれるなんて、私って幸運なんじゃないのかな。
…私の人生はあの日に終わった筈なのに、
今は記憶もそのままで、春と一緒にいる。
なにか大きな代償でもあるのだろうか…
でも、今はそれでもいい。
春と一緒に生きられるのなら
それでもいい。
春は私の生きる希望なの。
だから今度は
私が春の、生きる希望になれたらいいな…———