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Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.119 )
日時: 2011/08/05 22:44
名前: 色茱萸 (ID: o/78DliU)
参照: http://w5.oekakibbs.com/bbs/oe-kakiko2/data/67.png

第二十九話



「美玖はどこから来たの?家出でもした?」

唐突な春からの問いに、私は少々戸惑ってしまった。

どこから来たって言われても…




知らない。



知らない。



なんにも、知らない。




答えられない。




「…言いたくないなら言わなくてもいいよ?ただ、気になっただけだから、ね?」


暫く放心状態だった私に春はそう優しく言ってくれた。

出来ることなら、私だって春に知ってること全てを打ち明けたい。

悩みとかも含めて、それこそ新しい自分自身のこととか。

死後の内部事情みたいな不思議体験なんかも、

全て春に話したいんだ。

昔みたいな秘密だらけの私じゃないのだから。

今はもう、春にとって私は見知らぬ他人なのだから…




「私ね、昔…ずーっと昔に、施設に住んでたの。お母さんもお父さんもいなくなってしまったから…それ以外は、覚えてないわ」





知らず知らずのうちに開いていた口。

吐いた言葉は、嘘。

覚えてるくせに、結局逃げてしまった。

ここで本当のことを言ったら、春に思い出してもらえて、

生まれ変われるんだよね。

こんな借り物の身体なんかじゃなくて

私専用の身体で春に逢えるんだよね?

























…あれ?


どうして私は今、ここにいるの?


もう春と話せてるし、借り物だとしても

生まれ変わってるじゃない。

だったら別に思い出してもらわなくても…








先程のように動かなくなってしまった私を見て

春は呆れたような顔をこちらへ向けた。

「今日はもう寝ちゃったら?美玖なんかさっきからボーっとしてるし。ちゃっちゃとパジャマ着て、布団ちゃんと被って寝るんだよ?…風邪かな〜…」


ぶつぶつ言いながらキッチンのほうへと消えていく春を見て

思わずクスッと笑ってしまった。



…春ったら、お母さんみたい。

懐かしいな…



春に言われたとおりさっさと寝巻に着替え、

掛け布団を首まで被って目を閉じた。

今日一日で相当疲れていたのか

急激に襲ってくる睡魔に逆らうことなく

ゆっくりと夢の中へと墜ちていった。




————あぁ、なんだか今日は、嫌な夢を見そうだわ・・・・・