ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜参照700突破!感謝ですッ ( No.120 )
- 日時: 2011/08/20 00:33
- 名前: 色茱萸 (ID: 8we7jWSg)
- 参照: http://w5.oekakibbs.com/bbs/oe-kakiko2/data/67.png
第三十話
夢の中で、私は母と父の三人で手を繋いで歩いていた。
でもその中での私はまだ美紗だったとき、
しかもまだ五歳くらいの私だった。
何もない空間を、真っ白いだけの空間を
私たち三人はただひたすらにまっすぐ歩いていく。
微笑むわけでもなく、泣いているわけでもなく
無表情無感情のまま————
暫くすると突然母が手を離す。
それに続くように父の手もするりと離れていった。
夢のはずなのに、やけにリアルに感じる
温もりの離れてゆく感覚。
『お母さん!お父さん!どこに行っちゃうの!?置いてかないでよ!』
まるで地面に足を縫い付けられたかのように動かない。
気付くと私は美玖の姿になっていた。
その姿のままずっと叫んでいると、どこからか小さな声が聞こえてきた。
「…すけ、て…お願い、ここから…出して…」
助けを求める少年の声。
その声に応えようとした私は、自身の耳を頼りに
少年のいる方へと歩みを進めた。
「何処なの?あなたは誰?今助けるから待ってなさい」
未だに聞こえるその声にそう告げると
そのまま歩き続けようとした。
が、突然真っ白だったその空間が
どんどん真っ赤に染まってゆく。
「な、に?これ……え…?」
すっかり染まり切ったその空間は
吐き気がするほど気持ち悪かった。
泣きそうな表情で立っていると
不意に右手を握られる。
伝わってくる温もりに少し安心し、
ふっと顔を上げればそこには首のほとんどが取れかかっている男性がいた。
「ひ…ッ!!」
後ろに首が垂れ下がっているので顔はよく見れなかったが、
男性はくつくつと笑っていた。
『…やっと逢えた。キミたちは僕の仲間なんだ。探したよ…?』
声からして二十代前半。
「どういうこと…?キミたちって…というか此処って何処なのよ…ッ」
首の部分から視線を逸らしながら私は男に問うた。
『あの白い空間の少年とキミのことだ。まあ、ここは言うならばキミだけの空間だ。僕は来てはいけない。でもキミあの白い少年に会いに行こうとしたろう?だからキミを此処へ戻すために僕も僕の世界から抜け出してきたのさ。…僕の世界は————』
最後はうまく聞き取ることが出来なかった。
そこまで言うと男はじゃあ、と一言告げて
去っていった。
「———玖…美玖!大丈夫?」
「ん…あ、春…?」
激しく揺さぶられる感覚と身体に圧し掛かる重さに私は目を覚ます。
そこには私の上に構わず馬乗りになり、ドアップで迫る
心配そうな春の顔があった。
「ど、どうしたの?てか近いし重いわよ…」
「だって美玖、すっごくうなされてると思ったらいきなり呼吸が止まっちゃうんだもん!私すっごい心配だったんだから!」
「…ッ!?」
息が止まったという言葉に思わず目を見開いた。
あんな夢を見た後だからか…
それにしても、えらくリアルな夢だった。
助けを求めていたあの少年、それにあの男性…
一体誰だったのか。
「美玖。相談事ならちゃんと私に言ってよ?一人で溜めるから夢になっちゃうんだよ、おバカ」
「…春。ありがとう、でも今はまだ言えないの…」
「…え?」
そう…
今はまだ、貴女に言うことは出来ない。
夢の中、白から赤へと空間の色が変わるとき
確かに見えたあの少年。
そこから覗き込むように、
こちらをじっと睨むような目には
うっすらと涙の膜が張ってあった。
何を訴えたかった、あの少年は。
何を企んでいる、あの男性は。
そこまで考えて、きっと答えは死の間際に分かるだろうと
そういう結果を出し、春を退けてベッドから降りた。
『必ず揃うよ。赤の住人、白の住人、黒の住人…————』