ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤編〜朔様にキャラ絵描いて貰ったよ! ( No.122 )
日時: 2011/09/23 23:03
名前: 色茱萸 (ID: lkF9UhzL)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id=1029.png

第三十一話


寝間着から私服に着替えた後、春が散歩に行こうと誘ってくれた。

天気がいいからか、私を気遣ってくれたのか

春の気まぐれか…

寝起き早々晴れた空の下には出たくないが

たまにはいいかと春の誘いに乗った。


「最近はジメジメした暑さが続くよね〜。今日はカラッカラだけどさ」

「本当…家の中は春のおかげで涼しいのにね」

「感謝してよ?」


冗談っぽく言いながら笑う春に私は

もう十分してる、と同じように言い返した。

「ところで、何しに出てきたの?」

「やだな〜!散歩だって。あ、でも行きたいところがあるんだよね」

「…?」


そう言って春が向かった先は所謂ゲームセンターだった。

不思議に思っている私の手を引き、春は中へと進んでいく。


中は目の毒になりそうな煌びやかなライトに

耳が割れそうな騒音と人の声で溢れていた。

「ちょ…春!頭がおかしくなりそう!もう出ようよッ」

「初めてなの?ま、私も意外に初めてだったりするし…それに最初は慣れが大事なんだからさ」

「ぅ〜…」

二回までエスカレーターで昇った後、

春はテントの様なものの前で立ち止まった。

その箱の様な物体の表にはこれでもかというくらい頭を盛った女性と

可愛らしいフレームが描かれていた。


「これって…」

「プリクラ機で〜す」

「…」


この箱…プリクラ機は写真を撮影するもので

その撮った写真に自分らで落書きができるという

若者の盛り上がるための必須アイテム…らしいのだ。(説明:春)


「これで美玖と一緒に撮りたいなって思ってね。ほら、友情記念ってやつ?」

「あ、りがとう…」

照れ笑いする春の言葉を聞いて

嬉しくなるはずが、何故か少しだけ胸が痛かった。

どうして、美紗であった時には言ってくれなかったの?

春に聞こえない程度にそっとため息を吐く。


「昔も一人だけいたんだけどね。こうやって一緒に何かしたかったな〜って子。ほら、この前話した子だよ。おかしいよね、ここまで出てるんだけど、思い出せないの」

喉元に手を当てる仕草をしながら春は唸った。

…やっぱり、春も「美紗」としたかったんだ。よかった…


「でも、やっぱり美玖と似てる気がするよ、その子。多分だけどね」

「…そう。やるならさっさと撮るわよ。私もう限界、この騒音」

「うん、まぁ確かにそうだね。お金は私が出すよ〜」

「え?いや私も半分…」


…そういえば持金ゼロだった…


しょぼんという表現がよく合うような表情で

私たちは機械の中へと入った。

中は狭いが四人くらいは入れそうだ。

異常に白いライトで目がおかしくなりそうだったが

春は気にせず機械に金を払い、設定を色々と決めている。


「フレームは美玖が決めてよ〜!」

「え?いいの?」


いつのまにかもうフレーム選択の場面へと切り替わっていた。

春に言われたように自分好みのフレームを三枚選ぶと、

撮影を開始するよ!という女の子の声が響いた。


3!

「え!?ちょ、どんなポーズで!?」

2!

「ピースピース!」

1!


*   *   *   *   *   *


「あはははははッ!美玖のこの顔すごい焦ってる!可愛い〜ッ」

「もう!あんなすぐにポーズ取れるわけないじゃない!せめて五秒…」

「三秒がベストなんだよ。ポーズ取った後の時間が長いと崩れたりする人がいるからさ」

尤もな事を言う春に私は息を詰まらせてしまう。

歩きながらプリクラを眺める春。

その隣を同じスピードでついていく私。


暫く沈黙の空気に耐えながら、やっとのことで家に着く。


「ねえ、どうして何も話さなかったの?」

玄関に入って早々問うてくる春に私は一瞬

間抜けた顔をした。

「だって、春プリクラ見てたから…邪魔になってしまうじゃない」

すると今度は春のほうが「へ?」という間抜けな声と共に

きょとんとした顔をした。

が、すぐににっこりと微笑むと

私の頭を軽く叩いた。

「?」

「邪魔なんかになるわけないじゃん!むしろあの空気で話さないっていうのが苦しいよ。私も美玖が何か考え事でもして話しかけちゃ駄目かな〜みたいに思ってたけど」

話しながらリビングへ移動する春に私もくっついてついていく。

リビングで普段着に着替えたと思ったら

「ちょっとお風呂の準備してくるね〜」

なんて言ってバスルームに行ってしまった。

さて、春が帰ってくるまでの数分間。

何して時間を潰そうか…


開きたくもないような分厚い本ならズラリと並んでいるが、

生憎私は春のように賢くはないので

読む気すら起きない。

仕方なしに今日の帰り際、ゲームセンターの

UFOキャッチャーで取ってもらったぬいぐるみを抱き締め目を瞑る。


あ、眠くなってくる…これは駄目だ。


ふわふわした生地が頬に当たって心地よかった。

これじゃあシャワー前に寝てしまう。





*   *   *

「さ〜てと、もう遅いし寝ようか!」

いつの間にか時刻は十時過ぎ。

程よく眠気が誘ってきたところで、春は言った。

「それじゃ、美玖おやすみ〜…」

「ん…おやすみ」

















さぁ、今日はどんな夢を見るのかな?


昨日の続きとか。


セーブし忘れたゲームのように新しくスタートするか。


もしくは…見ない、とか—————?