ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤編〜挿絵募集中! ( No.124 )
- 日時: 2012/01/04 16:35
- 名前: 色茱萸 (ID: lkF9UhzL)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/view.html?749113
第三十二話
春が半年振りくらいに学校へ登校してみたのが三日前。
教室に入った瞬間、十秒ほどの間を開けてすぐに友人たちが駆け寄ってきた。
どうしていたんだ等の質問が非常に多かったが、春自身どう答えればよいのかわからずにいた。
半年も登校しなかった理由が、春にはないのだ。
…ないはずだった。
適当にその場では家庭の事情として流したが、家に帰ってからも
ずっとその事ばかりが頭に巡回している。
男女問わず多くの友人に囲まれていた春だったが、胸に空いている隙間が埋まらないような
もどかしい感覚があった。
家で過ごしているときも、隣に誰もいないことが少しだけ寂しいと感じるのだ。
以前まではこんなことはなかったのに…——
そんな気分を紛らわせるために、春は散歩へ出かけることにした。
その時マンションのロビーから出ていく瞬間に春と擦れ違いで入ってきた少女が
擦れ違う瞬間にニコリと微笑んで囁いた。
『貴女のこと、忘れないわ』
驚いて振り向くも、そこに彼女の姿はない。
何だったのだろう、白昼夢でも見たのだろうか。
大して気に留めず、春はそのまま出掛けて行った。
* * * * * * *
体育という名の囚人虐めがやっと終わったと、ディアーブルはホッと一息吐いた。
ふと隣に目を移してみると、本気で死にそうな直哉の姿。
「…大丈夫か?」
「あ〜…うん、まぁ一応生きてるさ」
直哉はこの刑務所歴が普通の囚人と比べてとても長い。
人生の半分くらいは檻の中で過ごしているんじゃないかっていうくらいに。
「新人虐めならぬ囚人虐めってか。本当此処の看守いつか殺す」
「直哉、そんなことすれば出所が長引くどころか終身刑とか死刑になってしまうぞ…そんなにお前は死にたがりなのか」
「うっせぇ、死にたいんじゃねぇよ。単に死なせたいだけだ。嫌いなものはなくなってしまえば万々歳〜。ってやつだよ」
「考えなしの大馬鹿だな、お前は」
「そうかもな、考えがあっての行動なんて人生で一度だってしたことねぇし」
口だけで笑っている直哉をディアーブルは肩を竦めて横目で見た。
ちなみにディアーブルは半年くらいここにいる。
半年もこの刑務所へ入っているのに、未だにこの生活に慣れない。
そういえば三日ほど前から胸の真ん中がぽつんと開いているような気がしているが、そのせいだろうか。
何なのだろう、一体…
「ちょっと俺トイレ行ってくるわ」
直哉が急に立ち上がる。
用を足すのにわざわざ俺に告げるなよ、そう思ったディアーブルだったが
口に出すのが面倒で、無言で頷いてみせた。
暫く正面を見つめていたが、ふと隣に人の気配がして目をやった。
そこには知らない少女がこちらを見つめて微笑んでいる。
前髪で顔が隠れて目元は見えないが、口元は弧を描いている。
その形のいい唇がゆっくりと動き、何かを伝えた。
かろうじてディアーブルにはわかったが
彼女の言っている意味が全くわからなかった。
否。
言葉の意味自体はわかるのだが、それを何故自分に伝えたのかがわからないのだ。
『恨んで憎んで、最後は感謝しか残らなかったわ。ありがとう』
そう告げると彼女は静かに消えていった。
呆然としていると、直哉が帰ってきて
先程彼女の座っていた場所へ腰を下ろす。
「ふ〜、スッキリ…って、どうしたんだよディア」
「え…あ、直哉…いや、白昼夢というものって本当に存在するのだなと…」
「はぁ?」
ディアーブルも大して彼女の言ったことを気に留めなかったので
そのまま直哉と話をし、夕食のため食堂へと出て行った。
* * * * * *
〜エピローグ〜
赤い紅い朱い部屋。
ここが今日から私の棲家。
大事な人へちゃんと
言いたいことを伝えてきたの。
遊び相手も両親もいなくなっちゃったけど
全然平気。
だってここは私専用の、私だけのお部屋。
そうよ、昔からこの色を求めてきたの。
大好きな人たちの血で出来ている
私の大好きなお部屋。
今日から此処が、私の居場所……————
—Fin—