ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.39 )
日時: 2011/02/03 21:49
名前: 色茱萸 (ID: nnVHFXAR)

第四話

目隠しを取られた瞬間、視界に飛び込んできたモノを

私は理解するのに時間がかかった。

…否。

脳が『それ』を受け付けようとしなかった……


私の目に写ったモノ…————

深紅の液体に 黒い肉のような塊…

「ひッ!!!!!!!」

それを見た瞬間、私は息を呑んだ。

「美紗?!何があったの?!美紗?!」

心配そうな母の声が、遠くで聞こえる。

「あ…ぁ……ッパ…まま…あッ……う゛…ぇッ!!!」

母の声に応えようとしたが、

それは虚しくも、嘔吐の音に変わっただけだった。

目を見開き、硬直したまま私は胃の中のモノを吐き出す。

その間に、下を向くことすらできなかった。

「ゲホッ!!マ…あ、れ…なッに…?」

正体を知りたくない…なのに聞いてしまう…

それが人間の性だから…

私は母に…何が起こっているのかも分からないでいる母に、

自分の感じた疑問をぶつける。

すると傍に無言で立っていた男が口を開いた。

「…美紗ちゃんの『パパ』ですが…?」

視界いっぱいに広がる深紅の液体…

それは…あの優しかった父の血だと…?

じゃああの黒い肉の塊は?

あれが父の本体だとでも…?

私の頭の中で同じ疑問が、何度も浮かんでは消え、

消えては浮かぶを繰り返していた。

もはや人の形を成していない、己の父親の姿を

私は目を見開き、見つめながら喋ろうとする。

「ぱ……ぱ?あれが……私の……?う゛ッ…う゛ぇぇぇ!!」

見るも無残なその姿…

父を見て私は再度嘔吐した。

「…さて、次は…美紗ちゃんの『ママ』ですね…」

男は小さな、蚊の鳴くような声でそう呟くと、

ゆっくりと母に近づいて行った。


一方の私はというと…

男の声など全く耳に入らず、

母に近づく危険にも気づけず…

胃液を吐き続けるだけだった……————