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Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜詩を作って貰いました♪ ( No.71 )
日時: 2011/03/17 19:19
名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)

第十五話


目が覚めたとき、やはり春が来たときと変わらず

病室の白い天井が目に入る。

廊下ではパタパタと子供の走り回る音が聞こえてくる。

窓からはオレンジの綺麗な夕陽が顔を覗かせ、

少し眩しかった。

その穏やかで平和な箱庭のような状態に

ほんの少しだけだが、不安になってしまった。

…まるで、この世で独りぼっちの少女になったように…

ネガティブな思考を打ち消すように

頭をぶんぶんと横へ振った。

眩しい夕陽を避けるため、

ベッドからカーテンを閉めに窓辺へと歩いてゆく。

窓辺から偶然見えた外の光景に

私は少しの間硬直してしまった。

五人の幼い子供たちが輪になり、はしゃいでいる。

笑い合い、喧嘩して、一人の子が泣くと

それを慰めようとオロオロしているあとの四人。

その微笑ましいだけの光景に

軽い嫉妬と寂しさが心へ芽生えた。

私はあのように友達と戯れたことなど

施設に入ってからは全くなかった…

まぁ春がいてくれるだけで、他には何もいらないのだが…

「…でも、羨ましいものは羨ましいわ…」

「なにが〜??」

「っ!!!???ッ春ちゃん…!!」

いきなり現れた春に思わず私は飛び上がる。

「ノックくらいしてくれれば…」

「何十回も叩いたよ?隣のばあちゃんに怒られるくらい。だから入ってきたんだけど…なんかあった?」

心配そうに私の顔を覗き込んでくる春。

この癖は無意識なのだろうか。

「ごめんね…気づかなくて。…別に何もないわよ。ただ外を眺めてたの…」

微笑みながら答える私に春は疑いの目を向けてくる。

私は今、うまく笑えているだろうか…?

春は私を押しのけて窓の外へ目をやる。

その子供たちの様子を見た瞬間、春の顔がさっと青くなる。

「…美紗…ッごめん!変なこと、聞いて…ッ」

「いいのよ…私は春ちゃん以外に友達はいらない」

「美紗…ありがとね、ホントに…ごめん…」

泣きそうな顔をする春に、私もつられて泣きそうになる。

「…明日退院できるらしいよ、美紗」

「え?本当に?どうして春ちゃんが…?」

「こっそり聞いてきたんだ。軽く頭打っただけだし、家で安静にしていれば痛みも取れるって…まだ痛い?」

「うん、ほんの少しだけね…たま〜に痛むっていうか…」

「そっか。じゃあ当分の間遊びはお預けってことだね。あ、でもお見舞いには行くよ?毎日施設に遊びに行くから!」

「当分って…ふふっ。ありがとう、春ちゃん。でも…」

「ん?行っちゃだめ?」

「いや、いいんだけど…」

春が施設へ行くと、大勢の人(私の同級生や先輩たち)が

春の周りにだけ集まる。

その数分間の短い間に、私はとてもみじめになり、

とても孤独な気持ちに染まるのだ…

春は私と違って人気で友達も多い。

だから春がきてくれると嬉しいけど、少し苛立ってしまう。

「美紗?…分かった!大体美紗の言いたいことは分かった!…明日から施設の裏口からこっそり入るよ。OK?」

「ハハっ!春ちゃんは勘が鋭すぎるわ。一言も話していないのに…」

「そうだね。よく言われるんだよ?それ。…ねぇ美紗。もう『春ちゃん』っていうのやめない?呼び捨てでいいよ」

「そういえば…じ、じゃあ…は、る…?」

「慣れないと〜!言ってみな!春って」

「…春」

顔を真っ赤にさせながら、蚊の鳴くような声で名を呼ぶ私を

春は必死に笑いを堪えながら眺めていた。

「あーっはっはっは!!もうダメだ!笑いが止まんないっ!!本当に慣れてないんだね、美紗って!」

吹き出す春を軽く睨んで黙らせる。

「春ちゃ…コホン。春、お隣さんに迷惑だから、大声で笑っちゃだめよ?病院だから、ここ一応ね」

「ひッ!ハハっ!あ〜おもしろい、大好き美紗!」

春のさらっと言った最後の一言。


『大好き』


私も…私も春が大好き。


言葉にしなくても


春は分かってくれているんだろう。


でもやっぱり云わないと


分からない…


私も 春ちゃんに


明日 その一言を


頑張って伝えてみようと、思う……—————