ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.74 )
- 日時: 2011/03/23 20:05
- 名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)
第十六話
昨日春が言っていたように、私は今日の昼過ぎに退院できた。
春は朝くらいから病院に来てくれて
荷物を二人でまとめたり、隣のおばあさんや看護婦さんに
別れのあいさつをして、昼を過ぎた頃病院を出た。
外に出ると、やけに空が赤く染まっていた。
生暖かく湿った風まで吹いてくる。
「せっかくの退院の日なのに嫌な天気ね…」
「…気持ち悪いや。なんか、さ…」
久しぶりに二人同時に見た外の景色は
昼とは思えないくらい不気味な紅の世界……
私はずーっと…この色を求めていたの…?
不意に昔の出来事が走馬灯のように頭を巡る。
両親との楽しかった日々。
その大切な両親を殺されたあの日。
それ以来、人を憎み続けるだけの毎日。
そして…
春と出会った。
もうきっとこの先、この色を自分から求めることはないのだろう。
けれど、まだ不安なんだ。
たとえ私の隣に一生春がいてくれたとしても
ディアーブルが私の前に現れるときがくる…
その時私は、春の前で
平静を保っていられる…?
いや、きっとあの色を求めるだろう…
「美紗?みーさーっ!どしたの?」
「ふへ!?は、春…えっと、何でも…ない」
「…なんでもないことないじゃん。ねぇ美紗…私さ、隠し事はしてほしくないよ…友達なのに」
春がしゅんとして小さな声でぽそっと言う。
その様子に私は一瞬だけ本気で焦った。
だって、春はどんなときでも明るくて
こんなことで落ち込むような子じゃないと思ってたから…
…ちょっと待って。
私はこれだけ一緒にいて
春の何を知っているの?
名前と年齢と、ほんの一部の性格と癖。
誕生日も知らなければ血液型もしらない。
なにが好きか嫌いか、その他のみんなが知っているようなことでさえも
私は知らない…
「美紗、どうした?ホントにさっきからボーっとして…変だよ?」
「うん…ごめんね」
隠し事をこれ以上春に作らないように
私はさっき考えていたことを全て話した。
「はっ!馬鹿!ホントに美紗は馬鹿だ!」
「へ!?な…馬鹿!?ひど…?」
いきなり叫び声をあげたかと思えば、顔を覗き込むと
春はぽろぽろと涙を零して泣いていた。
「は、る…?」
「ッ!あぁもう!美紗のせいで…私はホントに弱くなったよ…ッ昔は人前でないたりなんて絶対しなかったのにぃ…」
「ごめん、なさい…その、どうして…」
春はこちらをじっとみつめると
袖で涙を拭い私に話す。
「あのね、美紗。いくら仲が良くても、親友だとしても、その人の全部を…100%を知ることなんて、無理に等しいんだよ。さっきと言ってることが矛盾してるかもしれないけどさ、人に知られたくないことって誰にでもあるじゃない?それを無理してでも聞き出そうって、美紗思う?」
「…思わないわ」
「そうでしょ?でも私は美紗になら全部知られてもいいよ。美紗だけは…他の子と違うって気がするから」
「も、もう!春ったらそんな恥ずかしいこと平気で言うんだから…ッ」
「泣かないで?ね?本当にそう思ってるからこそ、好きだからこそ言えることなんだから」
頬を濡らす私を見て、春はそっと言う。
そして静かに、自分の袖で私の涙を拭ってくれた。
——言わなきゃ…春に、私も…———
「春…ッ」
「ん?なに?」
『 』
「え?何?聞こえないよ、もう一回…————」
春は言葉を言い終える前に
その場へ音もなく倒れていった。
否
音が聞こえなかったのは
私だ…
目の前が 赤く 赤く染まっていく。
それはかつて、私の求めた 赤黒い血の色…———
声も出せずに怯え、目の前の血に染まる春を見つめる私は
もう一人の 人物に
全く気がつかなかった。
「迎えにきたよ、我が娘…さぁ、一緒に帰ろう?」
…ディアーブル…
声の主を見上げ、私は静かに囁いた。
『 殺 シ テ ヤ ル 』
その瞬間、私の人生の
カウントダウンが始まってしまった……——————