ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜 ( No.83 )
日時: 2011/03/24 20:34
名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)

第十七話


「殺す?美紗が、僕を?出来るものならやってごらんなさい」

血に染まる春を端の方へ避けると

私は自身の懐から、一本のナイフを取り出した。

「いつもそんな危ないモノを携帯してるのかい?末恐ろしい子だね」

「あんたにいつ会ってもいいように、よ」

そう感情のない声で言うと、ディアーブルの左胸にむかって

飛び出していった。

…けれど、それは叶わなかった。

飛び出そうとした私の足首を春の力の入っていない手が緩く掴む。

「だ、め…これい、じょう…ッ美紗、汚れちゃ…だめ!」

震える声で春は私にそう告げた。

「春だめよ!話しちゃだめ!すぐ病院へ連れて行ってあげるから…!」

「いい、から…わたしはッいい…」

「春!」

意識の朦朧とする春の背中を押さえる。

止血をするため、自分の着ていた上着を春にきつく巻きつけた。

その間、ディアーブルは黙ってそれを見つめていた。

けれど手に持っていたナイフを静かに上へ上げながら

ゆっくりと私と春に近づいてくる。

それに気づいて私は春を抱きしめた。

これ以上、大事な友達を傷つけられたら堪ったものじゃない。

「退かないと、当たっちゃいますよ?」

「死んだって退きたくない!てか退かないから!!」

私には、分からなかった…

今までずっと、自分の娘として大切に育ててきたくせに

どうしてこう簡単に 殺そうなどと思うのか。


『…昔から、勢い任せに事を進めてきた人だから…後先考えずにね。』


春の言っていた言葉が私の頭へ甦ってくる。

あぁ、本当にそう。

最低で、孤独で…


「寂しい人…」


呟いた瞬間、私の左腕に激痛が走った。

ディアーブルにナイフで切られてしまったのだ。

幸いあまり深くはなかったので、彼なりに手加減をしたのだろう。

「いてて、やってくれるじゃない」

「ッ!!」

お返しにと私もディアーブルの腕を切りつける。

辺りは既に血の海のように

真っ赤に染まっていた。

私は少しの間だけと、春の傍を離れ

ディアーブルに向き直った。

お互いにナイフを構えると、時代劇のようだと笑いがこぼれそうになる。

不意にディアーブルがナイフを下げた。

不思議に思ったのが顔に出たのか、ディアーブルが私に訳を話す。

「別に美紗を殺したいわけじゃないですよ。だからあなたに対してはナイフなんて必要ないでしょう?」

「…よく言うわ…春を、こんなにしといて!」

「邪魔なんだよ」

「!!!!」

先程の冗談じみた顔ではなく、真剣な表情で彼は言う。

「今までは美紗の代わりとして育ててきた。それは可愛かったさ。お前の代わりなんだからさ。けれどもういらない…本人が目の前へ現れてくれたんだからね!そうなればもう、この春だって邪魔なだけだ」

「ッ!!!」

平気で恐ろしいことを口にするディアーブルに寒気がした。


この人は一体…どれほど腐っているの…?


狂ってる…


そして、目を見開いたまま動けないでいる私を

ちらっとだけ見て、そのまま春の方へと歩いていった。



どうしてこの人は




こんなになってしまったのだろう…




それはきっと




誰にも愛されずに 生きてきたから。




そして たった一人




自分を愛してくれていた人を




愛してあげなかったから…




その大切な人さえも




この人は殺そうとしてしまっている。




こうなったのはきっと




私のせいなのかもしれない…………——————