ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜参照400突破!か、感謝! ( No.97 )
- 日時: 2011/06/29 20:19
- 名前: 色茱萸 (ID: ncyYlurw)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id=619.jpg
第二十話
導き出したその答えとは、本当に私の小さな脳で一生懸命に考えた
普通のものだった。
『罪の 償い』
暫くそのことについて考えた後、
真っ赤に染まっている天井に向かって
私は小さな声で話しかけた。
「…歩武さん…答え、多分ですが分かったと思います…」
私の話が終わるか終わらないかのところで
その場の空気がヒヤリとしたものに変わった。
数秒後に歩武のものと思われる、か細い声が私の耳に響いた。
「そう、出てきたんだね。一週間と二日、よく考えたね…」
「うん。…そんなに日にちが経っていたのね」
「そうよ、あなたが考えている間、私はあの子の様子を見に行っていた。あの子というより、あの二人の…」
「…春と、ディアーブル?」
「まぁ変わった様子はなかったんだけどね。春ちゃんもディアーブルも相変わらず部屋に閉じ篭もってる。もう涙も枯れちゃってるよ、きっと…」
その言葉に私は暫く絶句する。
あんなに明るくて落ち込むことがなかった春が
私のせいで部屋へ閉じ篭もってしまっている…
ディアーブルだって…
落ち込むなんて、ありえない…———
そんな私の様子を気にも留めず、歩武は淡々とした口調で言う。
「そういえば、あなたの答えを聞いてなかったね。どう?まともな答えは出てきた?」
「…まともと言えるかどうか分からないわ。つまらないようなものかもしれない…一生懸命考えたんだけどね」
「考えただけ、まし。前の奴なんか考えもせずに出せ出せ言うから、私も苛立っちゃって…地縛霊にしてやったわ」
「…」
溜息混じりにそう語る歩武の声を聞きながら
私は目を見開いて言葉をなくしてしまった。
(…私も、地縛霊にされるんじゃないかしら…)
「で?答えを教えてもらえるかな」
「あ、うん。私、今まで散々人に迷惑をかけてきたの…たくさん人も殺してきた。罪もない人を次々に…だから、私がその人や春、ディアーブルも含めて、償いをするわ。罪の償いを、するわ…」
顔を苦しげに歪ませる私に、歩武は問う。
「それでどうするの?償うって、死んでしまった人にどうやって罪を償うっていうの?それにあなただって死んでるっていうのに…」
「そ、れは…分かんないけど、時間をかけてどうにかします!…絶対に」
歩武の表情が見えないので、どう対応していいか分からないでいた。
「…やり方がないわけじゃない。そのあなたの周りにいる人たち、彼らは家庭を持っていた。温かい、とても微笑ましいものだった。けれどあなたが彼らを殺めてしまった所為で、最高の家庭は最悪のものへと変わっていったの…」
いきなり語りだした歩武…何が言いたいのだろうか?
私はさっぱりその話の意図が掴めないでいた。
「分かっていないね?私の言いたいこと。つまり、家庭を元に戻すの。死んでいった彼らは、ほとんどの者がそれを望んでいる。残った者の想いが 沈まぬように、と…」
「それは、私は何をすればいいの?」
「死者の魂というものがある。俗に言う幽霊という類のものね。幽霊の未完成版なの、その魂は…その魂を、彼らを幽霊化させ、家族に会いに行かせるのがあなたの償いとしては最適かもね」
「行かせて何になるの?悲しみが増すだけじゃない…!」
やはりこの人の言いたいことはわからない。
理解は出来ているのだが、頭が拒否しているみたいに変な感じだ。
「いい?残っている人は彼らを行方不明だと思っているの。諦めていないんだよ…実際に彼らの姿を見て、納得して諦めて、新しい生活を始めてくれることを私は望んでいる」
「それならどうして今までそれをしなかったの?」
「…当時、私たちの罪は最悪なものとみなされて、姿をなくされ力も奪われてしまった…彼…葉兵っていうんだけど、アイツはもっと酷かった。声も影も奪われて、全て消えてしまった…葉兵の魂はもうどこにも、ない…当然か。アイツは、原罪者だものね…」
声の沈み具合で歩武が相当暗くなっていることは判断できた。
歩武の力ではもう魂を幽霊化させることは不可能らしい。
「辛いのね…歩武さんの過去も」
「そうだね。で、その償い、あなたはやるの?やらないの?」
先程の暗い声から一転し、
いつも通りの淡々とした口調に戻って歩武は私に聞いてくる。
「…やるわ。彼らのために、春やディアーブルのためにも…」
「春ちゃんとディアーブルは死者ではないから違う方法考えないとね」
「…そっか」
「ま、とりあえず魂を幽霊化させてみて。強くあなたが思えば、綺麗に形が整うから」
こういうことをさらっというのも、少し困る。
「魂はどこにあるの?」
「目の前の死体に跪きなさい。そして、出てきてくださいとお願いをして」
言われた通り、一人の男性の前に静かに跪くと
私は懺悔と願いを心で囁いた。
「出てきたよ、美紗ちゃん」
「…!!本当に出てきた…」
妖しく薄紅に光るその魂は
ヨーヨー玉くらいの大きさのものだった。
「…綺麗」
「中には淀んだ魂の持ち主もいる。その人はたまたま心が綺麗だったってわけだね」
笑いながら言う歩武を無視して次の魂を出そうと
隣の男性の方に近づきかけた瞬間…
歩武の怒り声が小さな空間に響いた。
「美紗ちゃん!出した魂を放っておいたら消えてしまう!すぐに霊化してやらないと!」
「え!あ!消えかかってる!」
ポワ〜っと薄れてゆく美しいそれを
私は慌てて掴んだ。
「何してるんだよ美紗!そんなことしたらもっと小さくなるだろうが!」
「こ、言葉悪いわよ!」
掴んだ魂を離し、大きく息をして心を落ち着かせた後
私は胸の前でぎゅっと固く、祈るように手を合わせた。
そして、目を瞑って心で囁いた。
(お願いします。霊となり、あなたの家族の元へ行ってきてください。新しい人生を、彼女たちに与えてやってください…!)
願った後、その魂は一人の男性の姿となり、現れた。
男性は静かに微笑むと、私の前から
スーっと姿を消していった。
「どこへ?」
「家族の元に行ったんだ…さ、どんどんそれを繰り返していって」
「うん」
そうして次々と
死者たちを 放つべき者の元へと
向かわせていった。
どの人も 皆
私の顔を見て
静かに 哀しげに
微笑んで消えていった…
…ごめんなさい。
本当に
ごめんなさい、みんな……—————