ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 僕たちの求めた絶望色〜赤・白・黒〜参照500突破!か、感謝! ( No.98 )
日時: 2011/04/20 21:34
名前: 色茱萸 (ID: wJNgr93.)

第二十一話


「美紗ちゃん、起きて?みんな(幽霊)が帰ってきたよ」

「んぅ…?」

体力をすっかり消耗してしまった私は

歩武の声で目を覚ました。

寝ぼけた私を見て苦笑すると、歩武は私に

「まだ終わってないよ?」

そう言った。



———そっか…春とディアーブルにも…



「…どうすればいいの?生きてる二人にする償いって…」

「彼女たちに会ってくる?」

「…私は…今ふたりの顔を見て、普通でいられる自信がないわ」

困ったような顔をする私に歩武もつられて顔を歪める。

そもそも死んだ私たちが、生きている彼女たちに会ってもいいのだろうか。

私は疑問に思っていたことを歩武に聞いてみた。

すると歩武は平然とした顔で私に言った。

「その心配はないから」

「どうして?」

「記憶は全部消されるんだよね…自動的にその死者が生きていた記憶、共に過ごした記憶も全て消されてしまう。その具現化した魂を目で見た人だけなんだけどね」

「そうなの…じゃあ悲しまずに済むのね」

「まぁそうだね」

それを聞き、ホッと安堵の息をつく私を見て

歩武もニコッと微笑む。

「さ、心配がなくなったことだしさ、魂も成仏したし…春ちゃんとディアーブルに会いに行く?」

歩武の言葉を聞いて私はあることを思い出した。



『生きているその人は、死者の記憶を全て失う』



「…私、ふたりの記憶から…消されちゃうの…?」

目に涙を溜めながらそう問う私に、歩武はそっと告げた。

「そうだね、記憶は全て消えてしまう…」

「ッ!」

「でもね?もしあの子が記憶を失っても、美紗のことを思い出したら…」

「…?」

「そのときは、美紗は生まれ変わることができる。今の容姿でそのまま生まれ変われることは絶対にないけどね」

「本当に!?」

「うん、本当に」

思わぬ情報を得た私は、たまらず大声で叫んでしまった。

容姿が別人でも全然かまわない。

また春に会えるんだから…

春はきっと、私を思い出してくれるはず…!

そう心でガッツポーズを決めると、私は歩武がいるであろう

天井を見上げて笑って見せた。

「会いに行くわ!春なら思い出してくれるはずだもの!」

「どこから沸いてくるの?その自信は」

言いながら歩武も笑っていた。



(葉兵…やっと会えたよ。私が望むような、素敵な子に…)



愛する人に想いを伝えながら

歩武は静かに目を閉じた。

こうすると、いつも葉兵が傍にいてくれるような

笑ってくれるような…

そんな気がする。


あの狂ったような微笑みではなく

優しかった頃の、あの顔で。


歩武は美紗をみつめながら、春に出逢う前の美紗を思い出していた。


あの頃の美紗は酷く冷たい表情をしていた。

それはまるで、あのときの葉兵そのもので…




*  *  *  *





黙りこくってしまった歩武に私は思わず話しかける。

「歩武さん?どうしたの、行かないの?」

「え?あ、うん。じゃあ明日、美紗ちゃんに行ってもらうからね。私はもう霊にしてあげることは出来ないから、自分でやってよ?出来る?」

いつも通りの歩武にホッとしながら私は答えた。

「大丈夫よ、ちゃんと自分で出来ると思うわ」

「そう。それならよかった…明日、頑張ってね。おやすみ、美紗ちゃん」

「うん、おやすみなさい、歩武さん」





春、待っててね?



もうすぐ会えるよ……—————