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Re: ─ESP─ ( No.30 )
日時: 2011/02/03 21:35
名前: 遊太 (ID: BZFXj35Y)

11【天馬の憂鬱】



東京タワー 裏出入り口




「うっ………ちくしょう………ちくしょう…………」




裏の出入り口から出た4人、いや、3人は止めていた車に乗り込んだ。算介は三郎の遺体を後部座席に置く。
天馬は精神が壊れた亜樹を助手席に乗せ、ドアを閉めた。一旦深呼吸をして、未だに燃えている展望台を見上げる。
「算介、会社に連絡して………このこと伝えて…………」
「分かった…………。」
天馬は一滴の涙を流し、三郎の遺体を見た。すでに顔色は白くなり、不思議と微笑んでいるような死に顔だ。
算介は自身の携帯で会社に連絡を入れ、全てを繊細に話した。そして、その30分後に会社から数名の応援が来たのだった。


    ────────


 
  1週間後



東京タワーの襲撃事件は、世間では展望台での煙草の不始末で起こった事件という形で収まった。
しかし、天馬の気持ちはそんな簡単には整理できていなかった。
この1週間の学校生活は、授業も意味がなく感じ、天馬はほとんど聞き逃して受けていた。


「三郎さん………………」


天馬が‘アビリティ’に入社して数日経っての出来事。先輩である三郎の葬儀は、内密に行われた。
三郎には両親がおらず弟だけがいるらしいが、冥堂やその他の社員の要望で連絡をすることはなかった。
亜樹は除々に回復しているが、やはり三郎の死がショックで、完全には精神の傷が回復していない。



「天馬、どうしたの?」



天馬は、ふと目を開けた。
顔をあげると、昼休みの教室にいた。いつの間にか寝てしまっていたのだ。
隣の席を見ると、心配そうな顔で天馬を見つめる七海がいた。
「何もないよ……ただ、疲れてるだけ…………」
「嘘でしょ。幼馴染なんだから分かるよ。何かあったの?」
七海は首を傾げて天馬の隣に椅子を置いて座った。すると、前の席の日下部勇人も近づいてきた。


「どないしたんや?最近、元気ないな。」


勇人は一瞬呆れ顔を見せたが、何か思いついたのか、途端に笑顔で満ち溢れ始めた。
「そや!!週末、クラス全員でカラオケ行こうや!!」



「え?」



天馬は勇人の提案に唖然となり、首を横に振って再び机にうつ伏せた。
「なんや……ノリ悪いなぁ………」



「………俺帰るわ。」



天馬は突然そう言うと、荷物を鞄に詰めて帰る準備を始めた。七海と勇人は驚いた表情を見せ、呆然と天馬を見つめる。
天馬は帰る準備を済ませると、そのまま教室のドアへと目指した。後ろでは七海と勇人が何かを叫んでいる。
しかし、天馬は無視して、無断で学校を早退したのだった。


**********



         青い空




            白い雲




          輝かしい太陽




晴天の空を見上げれば、全てを忘れれるような気がした。
だが、前を見ればリアルに戻される。天馬は学校の横に流れる‘木須川’の土手に寝転がっていた。
昼なので川沿いの道を歩く人は少ない。だから、学生服のままでも特に害はない。

「……………俺は、まだまだ弱い能力者だもんな。」

天馬は人差し指から炎を出すと、息で炎を吹き消した。
天馬は、自分で自分を追い詰めていた、自分の実力がもっとあれば、スチュワート達に勝てたと_____
 



「よぉ。天馬。」




天馬が思いに耽っていると、頭上に私服の算介が現れた。算介は鼻で笑い、天馬の横に座る。
「お前、学校サボったんだ。」
「算介も?」
「俺は元々行ってねぇよ。つまらねぇしな。」
天馬は算介の言葉を聞いて笑う。算介は川を見つめながら、天馬に言った。



「俺ら、三郎さんの復讐するために強くならないといけないよな?」



算介の質問に、天馬は無言で頷く。
すると、算介は立ち上がって天馬を見下ろすように言った。
「ついてきてくれ。会わせたい人がいる。」
天馬は首を傾げながら立ち上がると、算介は何も言わずに土手を登って天馬の方を振り向く。




「強くなりに行くぜ。」