ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ─ESP─ ( No.37 )
- 日時: 2011/02/05 17:37
- 名前: 遊太 (ID: BZFXj35Y)
14【拳・蹴・破】
「超能力者に欠かせない技とは、拳と蹴り、そして破に超能力を加える技だ。」
「拳と蹴りは何となく分かるけど………破って何?」
ひんやりとした空気が漂う道場の中、算介は手を組んで仁王立ちで立っている算重郎に問う。
すると、算重郎は両手を拳に変えて一瞬だけ力んだ。
「長流水空断破!!」
算重郎が叫んだ瞬間、天馬と算介は見えない何かに押され、バランスを崩しかけた。
算重郎は2人を見ると、大きく頷いた。天馬と算介は顔を合わせて理解する。
「なるほど。理論的に説明するのは難しいけど、簡単にいえば空気に超能力を加えることか………」
天馬が呟くと、算重郎は再び頷いた。すると、算介は足に全ての集中を注ぎ始めた。
「馬鹿たれ。足を水に変えた所で攻撃にならんだろうが!!!」
算重郎の怒鳴り声が道場に響き渡る。算介は集中を止め、苦笑いしながら算重郎を見た。
「お前の場合は、‘破’を特訓しろ。お前の能力は水質操作。水を氷に変えることはできん!!」
天馬は算重郎の説明を聞きながら、1人で色々と考えて理解していた。
「だが、そこの小僧は違う。炎は拳・蹴・破の全てを習得できる。まずは、簡単な‘拳’を習得させる。」
算重郎は自身の右手を拳に変え、手を水で包み込み氷で固めた。
「これで、普通のパンチより威力は数段上がる。一見、簡単そうに見えるが、いざとなれば難しい。」
天馬は算重郎のやった通り、右手を拳に変えて集中し始める。
すると、腕からメラメラと炎が燃え始め、右手を段々と包み込んで行く。
「で、出来た………」
「素質あるな。小僧。」
算重郎は天馬の顔を見て微笑む。隣にいた算介は、驚いた表情で天馬を見た。天馬も驚いている。
「小僧は自主トレで十分だろ。それぐらいなら、戦いの中で勝手に身について行く。」
天馬は算重郎を見ると一礼した。算重郎は天馬を見つめながら、薄らだが笑みを浮かべた。
「………昔のあいつみたいだな。」
「え?」
算介は首を傾げて算重郎を見る。
「算介は夕飯までミッチリ特訓してやる。覚悟しとけ。」
「うっ………分かったよ………」
算介は嫌な顔をしながら大きなため息をついた。算重郎は天馬を見ると、道場の出入り口に指を指した。
「今日は帰りなさい。倉田が家まで送ってやろう。」
「い、いえ!!自分で帰ります。今日は有難うございました。」
天馬は再び礼をすると、道場から出ていった。
───────
「あの子は、将来が心配だな。」
「へ?どうしてだよ?」
算介は算重郎の言葉に首を傾げた。先ほどまで素質があると言っていた人間のことを心配するなんて可笑しい。
「算介には関係ない。それより、特訓を始めるぞ!!!」
算重郎は眼鏡を取り、本気モードに入る。算介はため息をつきながら、渋々戦闘態勢に入った。
『海藤天馬………後々、厄介になりそうだな。』
算重郎は心の中でそう思うと、算介に向かって走り始めた。
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「…………君を呼んだのは他でもない。手間をかけて悪いね。」
カーテンが全て閉められた大きな会議室に、腰を下ろしているスーツ姿の厳つい年配の男性。
現日本総理大臣の神龍璽光世は、目の前にいる長身の顎に無償髭を生やした男性に軽く頭を下げた。
男性はクシャクシャの不潔感がある髪を掻きながら、大きな欠伸をした。
「特殊機関の人間をあなたから呼ぶのは珍しいですね。」
男性は壁にもたれかかり、神龍璽を光がない様な眼で見つめる。
「今度プライベートでハワイに行くんだが、君について来てもらいたくてね。」
「…………超能力者が襲ってくるとでも思いですか?3年前の復讐を晴らすためにするとでも?」
男性の言葉に、神龍璽は立ち上がって壁にあるボタンを押した。
ウィィィィン
カーテンが開き始め、外の光が部屋に注ぎ込む。
「念のためだ、頼むよ。」
神龍璽は笑顔で男性の肩を叩くと、会議室から出ていった。