ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 羽をもいだ天使と白羽の悪魔 ( No.5 )
日時: 2011/02/12 22:12
名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)
参照: よかったらブログ見て下さいね〜

「——壊される前に、壊れればいいのよ。 自らのその『命』を捨てて---------------」










*プロローグ*



 真っ白な、真っ白な部屋の真ん中に置かれた、1輪の黒い薔薇。 窓も無い筈のその部屋に、突然、決して緩やかで、優しくはない風が舞い込む。 その風が薔薇を包み、上へとそれを舞い上げる。 1枚、1枚と儚く散って——無惨に無様に美しく、またその真っ白な床へと、堕ちていった。



                           *



 多分季節は冬だと思われるその街は、雪 が 空 中 に 浮 い て い る。 否、雪だけでは無い。 店も家も、車も——ありとあらゆるものが、その世界では浮いているのだった。
 そんな街から約700メートル歩いた場所——崖。 そこに彼女は、立っていた。
 巨大なハサミを右手に持ち、自らの羽、純白のその綺麗な羽を、前へと引きつける。 切る、とでも言わんばかりの雰囲気だ。

「嗚呼でもどーせなら。 切るんじゃなくて、もぎたいな」

誰もいないその崖っぷちで、1人呟く。

——そうだよ、もうあたしは甘えん坊じゃ駄目なんだ。
——今日の、今のこの瞬間、見ててくれる?
——そう、あたしは今からね----------------------

「死ぬのよ」

 そう言い放って後ろを振り向く。 彼女の振り向いた先には、同じく真っ白な羽を生やした30代半ばと見られる男が数人いた。

「心の汚れた汚らしい天使に殺されるくらいならばいっそ、あたしは自らの手で自分を殺すわ。 だってまだあたしのほうが汚れてないから。 心も体も」

 あまり緊張感無さげな台詞をびゅんびゅんと吐きだすが、彼女の足はそれに相反するかのように、ガクガクと震えている。 まぁ当たり前だろう。今から死ぬと宣言して、崖っぷちに立っているのだから。

「天使は羽を切り落とせば死ぬんだったわよね?」
 決して死にたがり、堅く言えば自殺志願者なわけじゃない。 ただ単に、汚い妖精に殺されるくらいなら、自殺しようというだけの話。

——でもやっぱり、アレね…。
——言葉でなら何とでも言えるけど、実際にやってみようとすると、半端無く恐いものだわ。
 恐怖で逆に恐さを通り越し、笑うことしか出来ない彼女。 そんな彼女の脳裏を、ある考えが過った【よぎった】。

——アレ? 良く考えてみなくても、羽生えてる、てコトは飛べるじゃん。

 最初からそうしてろよ、というツッコミがしたくなってしまうところだが、生憎此処はそんなギャグコメディシーンでも無い訳で。

 ふわりと彼女が宙に浮くのと、男の中の2人が真っ白な鎌を投げたのは、ほぼ同時だった。
 鎌は2本投げられ、見事と言っても良い程の腕前。 それが彼女の両羽を切断する。

「っ、い、嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」

その叫びが途絶え、彼女が海に落ちたと同時に、彼女の羽も地へと落ちた。