ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 第一話 ( No.6 )
- 日時: 2011/06/19 11:17
- 名前: ハッチしゃn (ID: X96rB3AK)
『死刑囚納船・一階通路』————。
私とウォンは、まっすぐこの通路を進んでいた。
通路入口から入り、今のところまでまだ『天使』には遭遇していない。
これを自然と言えるのかは分からないが、少なくともどこかで出方を見ているのは間違いないだろう。
もうすぐ一階通路の終盤だ。壁に当たる前に左折すれば、二階に上がる階段があるだろう。
私はそのまま二階に上がる階段へ向かおうとしたのだが、疑問を顔に曇らせたウォンが私の手を取って止めた。
止められたことに多少イラついたが、振り返ってみる。
「いきなりなんだ? 止まってる暇なんてないぞ」
「いや、止まってる場合じゃないのは分かってんだがよ。なんでこの飛行船を乗っ取るのか分かんなくてな。ちょっと聞きてぇんだ」
「そうか。説明していなかったな」
私は斜め向きに壁へ寄りかかり、腕を組みながら説明した。
「序列順に、都市同士の距離は縮まってるんだ。だから、一番『ディスファイアの都市』に近い序列二位の『地下と牢獄都市』へ運航させる飛行船を乗っ取ろうと思ってな。それがこの『死刑囚納船』だったんだ」
「だからわざと無理やり乗り込んだのか」
「ああ、そうだ」
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この飛行船に乗る前の出来事————。
私とウォンは共に農民のみんなが育てた農作物を汚し、食べれぬ物にした。
そうして禁忌を起こさなければ、この『死刑囚納船』に乗れないからだ。
農民の皆とも、二日掛けて打ち合わせをした。母は泣き崩れたが、皆は私達に祈りを捧げてくれた。
その打ち合わせした通りに実行したのだ。
体を縛られ、馬の上に乗せられ、そのままこの飛行船に連れて来られた。
そして今に至る。
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「けどよ、じゃあ五年前に『ディスファイアの都市』へ向かった人間の勇敢な戦士達はどうやって行ったんだ? まさか、俺等と同じ感じで行ったのか?」
「それは違う。それに、勇敢な戦士達……というよりかは、私の兄が作った『甲殻機動隊』だな」
「あ、あぁッ!? もしかして、お前が帰ってこない家族の一人って……」
少し驚き過ぎだし、あまり声を大きくされると室内にいる猛獣や天使などに居場所を与えるからやめてほしいんだがな。
こめかみがはち切れそうになったが、なんとか堪えて兄の事を話した。
「そうだ。帰ってこないのは私の兄……。『甲殻機動隊』のリーダーだった。『ディスファイアの都市』へ行って以来、連絡も付かず、戻ってこないんだ」
なぜだかわからないが……膝の力が抜けて、私はそのまま壁に寄りかかりながら座り崩してしまった。
でもあとから分かる。これは恐怖だ。
「本当に生きているのかも分からない。確かめると言っても、確証もない。無駄足になるかもしれない、とは考えていたんだ。けど、考えれば考えるだけ時間は過ぎて行き、何もしないままじゃ何も変わらないと気付かされたんだ。だから」
「結果はどうこうよりも、確かめよう、って訳か」
座り崩してしまった私の背中をウォンは頷きながら優しく撫でてくれた。
これが、大人の優しさか。私にはできない……。戦術では上でも、まだ、こういう所は身に付いていない。
私は立ち上がり、剣を背中から抜き、強く握る。目指すは『死刑囚納船』の運転席。
「行くか……」
あどけない雰囲気の中、ゆっくりと階段を上って行く————。