ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第二話 ( No.11 )
日時: 2011/07/25 16:10
名前: ハッチしゃn (ID: X96rB3AK)



 ついに来た。
 私が五年前から来ようとしていた『ディスファイアの都市』に。

 地面の感触は、今までの土とはあからさまに違う。
 ダイヤモンドのような表面を削った硬い感じだ。

 この中心にある城に、神とやらはいるのか?

 馬鹿馬鹿しい、とさえ最初は思っていたさ。

 けどな、兄が戻ってこない真実から目を背けたって何もならない。
 取り戻さなきゃいけないんだ。こんなふざけた世界の奥に取り込まれた人達を助けるために。

 もういい加減にしろ、そう言いたい。神に会って、胸の底から。

 「痛みは、……引いたか?」

 尻を押さえたままのウォンに、私はそう聞く。

 「……一応だけどな。それよりも、こっから神に会えるって思うと、胸のドキドキが止まんないぜ」

 「私もだ。あまり期待はするなよ。神とやらが、どれほどの力を持っているのか、私も知らないからな」

 クリスタルが輝く地面の上で、私は青い上空を見る。
 濃い赤色と淡いオレンジ色の夕焼けが、青い上空の両端に射し掛かっていた。

 「そろそろ暗くなるな……」

 「ウォン、行くぞ。夜になる前に、ケリを付ける」

 私はウォンに振り向かないまま、足取りを城に向かわせて言う。

 白銀と金のような色合いで建たされた巨大な城。
 それはまるで、私達を待っていたかのように佇むままだ。

 いいだろう。堂堂と中に入ってやる。

 そう思いながら、門の前に足を止めた瞬間、周りが水色と緑の光を放っていることに気付く。

 「……何だ?」

 「え、ちょ、もしかして神とやらの御出座しかッ!?」

 その水色と緑色の光が混ざり合い、巨大な城へと白き輝きを放ちながら集まる。

 ————ッ!?、眩しすぎる!

 ウォンと同じく、閃光の直射を避けるために、腕を顔の前に回して、目を瞑りながらも、うっすら開けて城の中心へ意識を集中する。

 周りから少しずつ光の加減がなくなっていき、中心の物体も目に見えるようになっていく。
 ————しかし。

 「どうなっている!?」

 「お、俺にも分かんねぇよぉおッ!!」

 状況が掴めない。この焦りをなんとかしなければ。
 足を踏み違えればそこで終わりだ。
 少なくとも、戦上の場となるのは承知。問題は、この不意打ちからどう体制を整えるか、だ。

 「一旦、ここから———」

 「離れる、ってか!? 都市全体が眩しいのに、どこに行きゃぁ良いってんだ!?」

 「————クソッ!!!」

 少し、絶望感に陥る前に目が冴えていく。
 どうやら、不意打ちを喰らってから戦闘を開始するしかないようだ。

 「ウォン、このまま光が収まるまで待て! ここで戦う!」

 「は? このままって……神とやらが目の前に現れるまでおとなしくしてろってか?!」

 「他になにがある!?」

 苛立ちと一緒に口にしながら、目線は城の中心へと移す。


 それから、私達が『諦める事』を待っていたように、急に光が消えて行く。

 そのチカラ。その調節操作の自由さ、速さ。
 やはり、ここまでの差があるのか、と思う。
 甘くは見ていないが、こんなの、どう予測をしていた所で想像を遥かに超えていただろう。
 それほどに思う。そして、とてもじゃないが、ここまで差を見せつけられると勝てる気がしない。

 「目論見を吐かせるどころか、私たちが自ら釣られに来たような物じゃないか……」

 なんだったんだ今までの計画は。
 私が戦おうと、兄を助けに行こうとした意志をこんな簡単に捩じ伏せられて。

 私の背中から、努力と覚悟の無意味さという、絶望感に襲われる。

 誰か、私を助けろ。助けてくれ————、見捨てないでくれ。
 あ、ぁあああ、どうしてこんなに私は弱くなっているんだ!?

 強い気持ちを抱こうとすればするほど、恐怖心に心を包まれる。
 こんな気持ちになったのは、初めてだ。


 ゆっくりと、ゆっくりと自分の目の前に広がる光景を見る。
 アレが、アレが神と言うのか————?

 ウォンに視線を移そうとしても、身体が金縛りにあったように身動きが取れず、正面にいる『神』しか見れない。

 やめろ、見るな。私が何をした!? そんな目で見るな! 見るなッ!!


 『どうだ人間よ? ……怖いだろう? ……恐いだろう? 胸の中から身体全身に恐怖を包まれるお前の魂は』

 これがお前の求めていた”答え”だ。 私の胸から、そう声が響く。


 しかし、その声に疑問を抱く。
 『答え』……? いや、違う。私が求めていたのはそんな事じゃない。
 私にはまだしなきゃいけないことがあったはず。

 恐怖? 金縛り? すべて違う。私が求めていたのは————。

 お前の”目論見”と、兄の”居場所”だ。



 『まだ意識を保てていられるのか。諦めの悪い子羊だな』

 『いいだろう。見せてやろう。貴様に。この世の理と真実へ———』