ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 白黒人間。 ( No.19 )
- 日時: 2011/03/03 21:39
- 名前: 紫 ◆v9jt8.IUtE (ID: j553wc0m)
「いやー、良かったわね、掠り傷で!」
「銃弾で撃たれて掠り傷って事はないと思うけど」
ヴィーナスは満面な笑みを彼に向ける。その彼は、引きつった様な笑みを浮かべ、小さい粗末な病院から出る。
——盗賊に銃を向けられた時、彼の頭には、ヴィーナス、つまり今、彼の隣で歩いている、紫色の髪と黄緑の羽が目立つ妖精の事を思い浮かべていたのだ。
『できる事ならばもう一度会いたい』と、そう頭の中で願い、それが本当に実現したのである。
「いやー、でも救われたよ。ヴィーナスの剣術見たかったし」
「私は優の事心配してた。勝手にフラフラ出歩いて挙句の果てに行方不明なるんだもん」
「俺は色々彷徨ってたなー。森とか現実とか」
彼——田原優は自分に嘲笑を向け、ヴィーナスに話しかける。ヴィーナスは顔を傾けた。理解不能の言葉を理解しようとして、諦めた顔と言うのが、田原優には分かっている。
「別に良いよ、ヴィーナスが理解する事じゃないから」
「ふーん。で、次はどこに行くの」
「流れに身を乗せる」
ヴィーナスの問い掛けに、無計画である事を思わせる言葉が田原優の口から飛び出る。
田原優の言葉を聞いた彼女は、呆れたかの様に溜息を吐く。
「アンタ、そんなんじゃすぐ殺されるわよ」
「うーん、まあ何とかなるでしょ」
『最強の力を持っているから』とは、彼は言わなかった。
そんな田原優を見て、ヴィーナスは「甘い」と、厳しい口調で言う。
「あのね、武器は持ってるだけじゃダメ! どんだけ強い武器を持ってようが、扱いなれてなければすぐ死ぬのよ。アンタそれ分かってる?」
「何となく。一応武術は習ってたよ。格闘技だけども」
田原優は無表情で、やる気なさげに淡々と言う。それを聞いて即答でヴィーナスは言葉を出した。
「甘い甘い甘い甘い! 人生そんなもんじゃダメ!」
ヴィーナスは更に続ける。
「アンタ、さっきみたいな武器持った奴に体術で対抗したら隙だらけじゃないの」