ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

私の不幸なる日常 ( No.6 )
日時: 2011/02/20 13:08
名前: 故 ◆KJbhM1uqv2 (ID: QSygN.Tt)
参照: ……他の人の作品にコメしたい→反応してくれるか怖い(ジレンマ)

#3

「だ、大丈夫かな、かな?」
「何故、ひぐ○しのレナのまね? それよりも、どうして私もつき合わされているんだ?」
「友達でしょ?」
「どこが……」


 何か声が聞こえる。二人の少女の声が、頭に木霊してガンガンと響く。耳元で喋っているのかな? それにしてもどうして二人の声が耳元で。しかも、私は今どこかで横になっているみたいだし、妙に温かいし。背中と腕の裏側がひりひりと痛むし。なんなんだろう?


 怪我でもしたのかな? それで何かあって倒れて、保健室とか。うん、それが一番ありえるし現実的。ただ怪我の原因は……思い出した! 教室で思いっきり転んでそこで花瓶が落ちてきたんだっけ。で、血が足りなくなって。そうそう、そうだった。でも、だとしたら今は授業中で二人が保健室に何でいるのかな? もしかして、私が昼休みまで寝込んでましたとか、そういうことなのかな? ——夜眠れなくなりそう。


 まぁ、いつまでも目を瞑っていてもしょうがないからとりあえず起きよう。ゆっくりとまぶたをあげてゆくと、知らない茶色く汚れた天井が見えた。次に目に入るは薄い桃色のカーテンと灰色のカーテンレール。で、三番目が……。


「あっ起きたよ。生きてるかしら?」
「生きてなかったらおきねーよ」
「え、でもこの前の恋の解剖の時はいくら切ってもひくひくしてたし……」
「それは痙攣っつーんだよ。そして、恋の解剖ってなんだ? どこをどう解剖するんか?」


 無関心な顔をしながらもベッドに座っている黒い長髪の美少女と、二つのくりくりした目で私を覗き込む茶色の天パの可愛い子……具美と花梨が目に入る。まったく、私がこんな大怪我(といっても良くわかんないけど)を負ってるのにのんきなものね。まぁ、そこが二人のよさだし、なんかそれを見ると痛みとか普通にどっかとんでっちゃうしね。花梨のボケすぎたボケに具美の突っ込み。切れ味が最高。いいもの見たって感じだよ。私も巻き込まれよう。


「恋の解剖っていうのは、恋の中の成分の確率(?)を測定することじゃない? 例えば、ツンデレとノーマルな男子の場合は1%愛、2%嫉妬、97%意地だね!」
「おい、それはひどすぎだろうが! 愛が1%って愛じゃねーよ! そして、起きて一言目がなんで心配してくれてありがとうじゃなくて、そんなどうでもいいようなボケなんだ! ちょっとだけ優しい上向きの眼差しで‘あ、ありがとう’とか言ってくれるのを期待してたのに……ってそれもきもいだけか」
「もう、具美はボケるのが下手よ! あなたは突っ込みだけでいいのよ」
「っさい、花梨」


 クールビューティー具美、天然お嬢様花梨を目の前にして完全敗北。それにしても、この人たちは私を元気付けるためにこんな馬鹿な会話をやっているのか。それとも最初はそういう狙いがあったけれど、途中からそれはじめたのか。または、そもそも私が怪我して保健室にきたっていう事実を忘れているのだろうか?

 ——絶対三番目だ。ちょっと失望した。この二人を見て間髪無しに三番目だって判断しちゃった自分に。否、逆にそれ意外のことがあるほうが奇跡なんだけど。この二人に心配されても、それは世界の滅亡を示しているような気がして怖くて怖くてしょうがないし。


「んで、調子はどうか? 今、なんか知らねーけど保険室の先生が出かけててさぁ、ったくガラス突き刺さって大変な生徒に、適当に消毒して包帯巻いただけで彼氏とデートに出かけるとか色々とありえねーと思うんだけど」
「うそっ! あの先生に彼氏いたの? 絶対、花の二十代が終りかけているのに彼氏の一人も出来ずに焦ってるんだと思ってたよ……。その彼氏ってだれなの? 私が知ってる人なのかな?」
「花梨、その前に照佳の怪我を心配してやれよ」
「いーつもすまないねー」
「それは言わねー約束だ……なに言わせてんだ!」


 クールビューティーっていうのは見た目だけで、中身はやっぱり馬鹿だけど男勝り。そのギャップに萌えるのかもしれないけれど。


 それにしても、保険の先生彼氏いたのか……、捨てられないといいんだけど。あの人、見た目とかその編はともかく根はちゃんとしたいい人だからさぁ、幸せになってほしいっちゃなってほしいんだよね。でも、男の人としてはああいう人なんか疲れそうな気がする。色々とまじめだしきっちりしてるし、バリバリ働いているし。デートで教職さぼる人の何処がまじめできっちりなのかはよくわからないけど、今日はきっと例外なんだ!


「で、そんな冗談いえるんだから完全復活してるよね?」
「え、否まだいたいかもったったった……」
「照佳……うそっぽすぎるよ。ていうか、わざとなのよね!?」


 ちっ……あの体罰教師の授業は午後だから、このまま苦しんで早退するか、保健室のお姫様のままでいたかったのに。まぁ、こんな塩素のにおいのする真っ白い部屋、さぼれるわけじゃなかったらごめんだけどさぁ。花梨ったらそこは突っ込まなくていいのに、私がわざとやっているのを気づいているのならば。昔っからかりんはそういうところあるけれどさぁ。


 例えば小学校の頃担任への嫌がらせで、机の中をめちゃくちゃにした男子がいたんだけどさ、そのころみんな担任が嫌いだったから、みんなで犯人のことを知らないふりしようとしたことがあったんだけど、花梨ったら犯人摘発しちゃってさぁ。まぁ、家がお金持ちで可愛いからはぶろうとしてもはぶれなくて、今みたいな腐れ縁になってしまったんだけど、よくKYとか言われてた。


 まぁ、今回のことは昔のこととは質も状況も違うけど、とにかく花梨は空気読めない。其処が天然っぽくてかわいらしいんだけど、見た目が普通だったりつり目だったらこの子は成立してない気がする。


「じゃぁ、次の時間からでるね?」
「……わかったよ。次はなに?」
「五時間目で担任の授業」
「うぇ! さぼろうと思ってたのに」
「精々運の悪さを恨むのよ」
「花梨、それ似合わないから!」

 運が悪い……その通り。その悪役じみたセリフはどこまでも似合わないけれど、今日は本当に運が悪い。運悪いって嘆くだけで今日一日終っちゃうのかな? 否、何かあった。そう、ただの不幸な日じゃなかったはず。今日の朝会ったかおるちゃんがなんか言ってた。すごく重要なことを……。


「あ! お弁当。具美、お弁当ちゃんと受け取った?」
「ああ。お前が持ってきてくれたの確かに受け取って、さっきたべおわったけど、それがどうかしたか? お前が転んだせいで思いっきりひっくり返ってたけど」
「ふーよかった。私が遅刻したのもこのお弁当の生だったから、それで具美に届いてなかったらもう悲劇だったよってあぁぁ!」
「どうかしたのかしら? 気が狂っちゃったのかしら?」
「お前の思考回路の方が狂ってる!」


——そうだ、今日は具美の誕生日ってかおるちゃんが朝言ってたんだった。それで、学校ついたら花梨にそれを知らせて、二人で具美お祝い計画でも立てるつもりだったんだ。幸いにも花梨は私の右隣だし、授業中はなしてても一列目って実は見えにくいから中々ばれないしね。一個気になるところがあるのなら、具美が花梨の右隣だってことなんだけど、そこはあんまり気にしないでおこうって。


 どうしよう。この空気からして花梨は誕生日のこと知らないし、具美もどうでもいいっておもってる。だけど、お祝いしなければ可哀想だし……もういいや。悩むのが面倒くさいし言ってしまおう。


「ねぇ、具美」
「なんだ? っていうか、どうしてベッドの上で正座をする?」
「え?」


 あ……本当だ。なんか無意識に正座をしてしまったみたい。どうしてだろうか? もしかして、まじめなことを言おうとしてついとかそういうこと? これについても気にしない方向でいこう。


「あ、気にしない方向で。それでさぁ……」
「誕生日おめでとー!!」
「セリフが取られた!?」


 うそ、この雰囲気で何故乗り込んでくるわけ? しかも、私と具美が話している間に横からって花梨、ある意味その度胸すごいよ! もう涙が出てくるほどすごいと思うよ。私がこんなに迷ったというのに……。
 でも、もっとすごいのは具美の方。私たちがそんな事を言っているのを見て顔は茹蛸のように真っ赤に、目といえば猫のように真ん丸く大きく見開いている。私たちが誕生日を祝ってくれたのが意外なのか、知っていたことが意外なのか、まさかとは思うけど怒っているのか私にはわからないけれど、なんかちょっと嬉しい。なんだかんだで結局はクールで無表情な具美をそんな顔にさせたこととか。


「あ、ありがとう……」


 具美はそう本当に小さな息のような声で言うと、どかどかと大きな足音を立てながら保健室から出て行ってしまった。保健室の床は白いタイルで、彼女の上履きの音が鈍く響く。


「デレてたのかな?」
「お願いだから空気を読もうよ!」