ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

私の不幸なる日常 ( No.8 )
日時: 2011/02/19 14:13
名前: 故 ◆KJbhM1uqv2 (ID: QSygN.Tt)
参照: 反応してもらえると嬉しい(*^_^*)→次第に地がでる?→人生の危機?

#5

 無理やり肩を貸してくる花梨に支えられながら教室に戻ってみると、扉を開けた瞬間にぽわーんとした雰囲気の具美が目に入ってきた。

 一瞬、何故? と考えてしまったけれど、彼女の席というのは入り口の目の前なわけで、それは至極まっとうなこと。むしろ、疑問をはさむ余地なんてない。ただ、突っ込むべきところは其処ではない。彼女がぽわーんとした雰囲気をかもしだしていたっていうところこそが、本物の違和感の原因だ。


 彼女の容姿を説明する時に、私はまずクールビューティーな黒い挑発の少女って言う。まぁ、其処は誰でも基本的一緒。そして、もう一言付け加えるならば、刀を背負ってそうな鋭い雰囲気の子って絶対に言う。運動神経はないけど。


 人間の名前と顔をあわせるとき、一番頼りにするものっていうのは私が思うにヘアスタイルと雰囲気。双子であってもヘアスタイルを変えるだけで随分印象が違うし、ましてや雰囲気が違えばすぐに見分けることも出来る。

 髪の色と肌の色っていうのも大きな特徴の一つ。だけど、やっぱりまずはこの二つ。色っていうのはみんな結構似たり寄ったりだからさ。雰囲気の方も、おなじ髪型でも雰囲気がちょっと違うだけでなんとなくだけど名前がわかったりする。そんなことない?


 まぁ、だからこそ私はぽわーんとしている具美にものすごい違和感を感じたわけ。しかも、理由もよくわからな……もしかして誕生日おめでとうって言った時すごい照れてたけど、いまだにそれを引きずっているのかな? っていうか、もしかして誕生日のことはなさなかったってことは祝ってもらったの初めて? そんなわけな——ありえる。彼女って私たちが話しかけるまでいつも一人で読書していたし、人を近づけさせない怖い雰囲気を持っていた。だから、あんなふうに誕生日おめでとうとか言われるのは初めての可能性が高い。

 そういえば、去年バレンタインの時もチョコ貰って「なに? どうしたの?」とか言ってたよね? それでバレンタインの話をかいつまんでいってから、聞いたことないって聞くと、「私、俗世に興味ないから」なんて答えてた。うん、誕生日におめでとうって言われたことなさそうだ。ましてや、プレゼントなんて絶対貰ったことないよね? 嗚呼、なんて悲しい人生。


 私は哀れみの目を具美に向けていると、はっとしたように具美はいつもの鋭い雰囲気を取り戻して、こっちに首を向けてくる。その動きはまるでロボットのようで、曲がりきった時にカチッと何かがはまる音がしたような気がした。

 そして、私に何時もの三倍くらい美しく、何時もの三倍くらいの生命の危機を感じるような微笑を向けてきた。美女の微笑みは絵になる。だがしかし彼女の微笑みは凶器だ。あるときは嫌味に見えたけれど、今は観音菩薩でさえもひれ伏したくなってしまうような神々しさを感じる。冷たい凍るような殺気と同時に。


「ねぇ、失礼なこと考えてなかった?」
「そんなことないよ? ただ……何時もみたいに張り詰めた感じがしなかったから珍しいなって。もしかして、誕生日おめでとうって言われて嬉しかったの引きずってる?」


 花梨は私の思っていたことをそのまま言葉に出す。いつもどおりのくったない優しい笑みを浮かべたまま。すると、具美は当てられてしまったのか一気に殺気がひいて行く。と、同時に最初のふんわりモードに戻ってしまった。


「あっ、本当だったりするの?」
「べ、べ、べ、べっつに嬉しいとかそ、そんなわけないんだからね!」
「声震えすぎだから!」


 具美は元祖ツンデレみたいなことをいいながら、顔を一気に紅く染め俯いてしまう。本当にわかりやすくて可愛い子。何時もは鋭いけれどたまにこういう感じになったりするから、好きなんだよ。

 まぁ、三次元でツンデレの需要って言うのはあんまりないんだろうけどね。彼女の見た目は可愛いよりも美しいだし。美しいツンデレってなんか変に怖そうだし。


 そんな私の変な視線に気づいたのか、具美はまた一度だけ顔を上げ、こちらをにらむともう一度俯きなおしてしまった。そのにらんだ顔っていうのがもともとの鋭い目つき、シャープな顔つきのせいで人に恐怖を与えるような雰囲気をかもし出す。だけれども、彼女の小さな一言によってその雰囲気は一気になえてしまった。


「一時三十分……授業開始時刻が私の誕生した時間。お、お祝いしてくれると嬉しいかもしれない」


 どういう風にとかを聞きたくなって一瞬口を開くけれども、すぐに閉じる。そんな事を聞いてどうする。変に派手にしないでただ視線を飛ばすだけでいいじゃない。おめでとうって音に出さないで言うだけでいいじゃない。幸い席は間に花梨をはさんだだけっていう近さなんだから。


 花梨も今はさすがに空気を読んでかかはわからないけれど、何もいわなかった。そして、いつもどおりの笑みを浮かべて、こっくりと頷くと自分の席についてしまった。左腕につけた時計を見れば、本鈴まであと十秒ってちょっと冗談じゃないよ! 早く行かなきゃ! 次の授業は担任だっていうのに。といっても、焦り過ぎない。近いんだから、朝みたいなドジは踏みたくない。転ばないように足元に気をつけて……。


キーン——


 間に合った……。あ、早く具美の方を見ないと。


 私は席の前に立ち、首だけを彼女の方に向ける。すると、具美の紅い紅い目と……? 赤い目ってどういうこと? そんな事を考えているうちに彼女の目は黒く戻りすばやくそらされる。まるで、私となんか目を合わせたくないとでもいうような。どうして目を逸らすの? 拒絶されているみたいじゃない……。


 折角の彼女の誕生日だというのにへこんでいてどうする。そう活を入れなおしてもう一度彼女の方を——見る。



 ただ、私の目は彼女の姿を捉えるよりも前に花梨の姿をとらえる。否、同時に具美の姿も目に入る。



 そう、信じられないような姿——具美が何かで花梨を突き刺している姿が……。