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- Re: 学園WARS! ( No.8 )
- 日時: 2011/03/29 00:15
- 名前: 葵那 ◆geiwiq3Neg (ID: /B3FYnni)
年齢制限なしの無期限で自由な学園————“蔡華学園”
そこは一般人の入学は固く禁止されている。
いや、一般人は絶対にこの学園の存在を知らない、知ってはならない。
———ここは特別な“能力”を持った者しか入れない学園なのだ。
私達が“才能”と呼んでいる“能力”は、人によって違っているが、普通人が死ぬまでその能力は開花されない。
つまりは開花される前に亡命してしまうという事だ。
しかし、そんな“才能”を、ある事をキッカケとして開花させる者がいる。
それを私達は能力者と言うが、能力者は世界から見れば、“異形”でしかない。
それは世界から疎外されるという意味を示していた。
…そんな能力者が、唯一認められ、自由で豊かに暮らせる場所がある。
それが、蔡華学園だった。
- 第一章 小さな学園戦争 -
「アンタに下剋上を所望する————神無月 倖!!」
「むふっ(何?)」
能力者の集うこの学園で、誰かが私にそう言った。
しかし私は、呑気に配布される昼ご飯の苺ジャムのパンを幸せそうに食べている真っ最中だった。
『苺のジャムのプチプチした触感を味わっている最中に、まさか“下剋上”を告げられるなんて…運がないわね』
私は心の中で呟くと、「ちょっと待って」と言いながらパンを無理やり口に詰め込んだ。
“下剋上”
下の地位の者が上の地位の者を倒す事を示す、歴史で出てくる言葉の一つ。
この学園でもその言葉は使われる。何故なら、ココは能力者が集う学園。
…クラスは悪い順番からD、C、B、A、Sと分けられる。
皆、上位のクラスに上がる為、自分の“才能”を日々磨いている。
何故そんな事をするか、と?
それは———7人しかなれない、最高峰のクラスであるSクラスになる為だ。
無論、誰よりも強い“才能”だと証明もできるのがあるが、学園を支える柱となれるからだ。
先生と同等の立て場で、学園を支配するクラス…、
それは、世界から疎外された能力者たちの生き甲斐であり憧れ。
しかし、クラスが高くなるにつれて、クラスの人数が限られる。
故に皆は一層それを目指すのだ。
——上位クラスに上がるには、上のクラスの人間より自分が強いと証明しなければならない。
それが、この学園式の“下剋上”というルール。
下剋上は、下のクラスの人物がクラスを上げる為、1つ上のクラスの人と戦う事。
下剋上はそれを相手に宣言し始められる。
…下剋上を宣言された相手は、もしも負ければクラスを1つ下げられる。
しかし、もし勝てば勝った分だけ経験値…“才能”を高める事ができる。
“才能”を高めるという事は、つまりは自分が倒されにくくなるという事。
自分が倒されにくいなら、今度は自分が上のクラスに下剋上でき、成功する可能性が高くなる。
宣告してもされても、オイシイ話なのだ。
しかし、重傷以上の怪我を相手に追わせてはならないという罰則がある。
破れば即“Fクラス”行きが決定させる。
Fクラスとは、Dよりも下の最も下で格付けされているクラスだ。
そのクラスは問題児が召集されるクラスで、Sクラスから最も遠くなってしまう。
…まぁ、いざという時は保健の先生の“才能”の“治癒”を使ってもらい、
治癒能力を極限に高めてもらえば、1日もすればどんな怪我でも治ってしまうのだが。
そんな訳で、Aクラスである私、神無月 倖は見知らぬ人物から下剋上を宣告された。
Sクラスを狙う私にとっては悪くない話だ。
「…いいわ!アンタ下剋上、受けて立つ!」
私は、パンを食べ終わると、相手の方を向いてそう言った。
と、言うと同時に私は動いた。
———バシィッ!
一瞬の一閃、
最早、神速とも言えるそのスピードで、倖は自分の武器である木刀で相手の腹に峰打ちを叩きこんだ。
「…!!?」
相手は、一瞬何が起きたか分ら無い様子だったが、そのままバタリと床に突っ伏す形となってしまった。
「…———私が女だからって、なめない事。相手を見かけで判断するなんて、本当の馬鹿がする事だから今後気を付けなさいよね。
それに私…誰かに負ける気なんてさらさら無いんだから」
倖はクスッと笑いながら、名前を名乗る暇さえなく、床に突っ伏す事となった相手にそう言った。
相手は悔しそうにぐうの音を上げているが、倖はこの光景を幾度となく見てきた。
神無月 倖という人物は、連勝無敗と謳われるほどのSクラス候補である。
強さで言えば、Sクラス級だと言われる彼女は敗北を味わった事がない。
入った当初からその実力は飛びぬけて上であったし、何より“刹那”という能力は瞬間移動、すなわちテレポートと似た能力であり、その速さを抜ける者はいないに等しかった。
「…なんだ?俺達が着く前に終わってやがると思ったら、また手前か阿呆」
と、そんな二人の所に姿を見せた人影…それはSクラスの一人である嵐山 禧寺だった。
彼等Sクラスには、課せられた大きな仕事がある。
——— それは、下剋上の試合を見守る事である。
攻撃のいきすぎや、試合に不正が無いか見守る役割としてSクラスで組織されている集団を“生徒会”というのだが、倖の場合、その生徒会が到着する前に決着が付いてしまう事が多い。
そう言う場合は、周りで見ていた人たちに不正が無かったかなど聴取しなければならないのだが…
「ったく面倒臭ぇ…つーか、不正なんてねぇだろ。あっても無かったと言え」
「…、相変わらず適当ね。何でアンタがSクラスなのか不思議なんだけど」
嵐山はいかにも不良といった風貌なのだが、性格もまったくもって見た目通りである。
面倒な事には首を突っ込まず、適当な時は適当、ちゃんとする時も適当。
倖は、そんな彼が何故Sクラスなのか疑問視している。
「ちっ、うっせーな…それとも何だ、手前は不正行為でもしたか?してねーだろ?なら聞く必要もねぇだろ…」
そんな嵐山は、面倒くさそうに舌打ちしてそう言い、周りをざっと見渡した。
反論がある者がいないのを確かめると、彼は倖にやられた人物を片腕で抱きかかえ、連れ去っていった。
生徒会の仕事は試合を見守った後に、負傷した物を保健室に連れてゆく。
下剋上しかされない彼等は、自ら戦う事が無い故に…学校の仕事までもを負わされているのだ。
なので彼以外に他にもSクラスのメンバーはこの校舎を徘徊している。
「いいわよ…私もSクラスになってやるんだから…!」
倖は去っていったSクラスの背中を見つめながら、いつの間にか持っていたチョコパンにかじりついたのだった。