ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 機械達ノ笑ウ場所 オリジナルキャラ募集中です ( No.17 )
- 日時: 2011/02/13 12:49
- 名前: 黒鳩 ◆k3Y7e.TYRs (ID: Y8BZzrzX)
一話 outerside この国には、もういたくない
「……え!?軍をやめるって、本当なの?二人とも」
同時刻、北の国、とある軍事基地。
兵舎の中で、身支度をする少年と少女。
「うん、ここはわたしにとってあんまり居心地よくないんだ」
赤と白を基調としたワンピースを着て、朱色と蒼の炎の形をしたペンダントを胸元に下げる少女。肩まで伸びる焦げ茶色の髪はカールして、音符のヘアピンを前髪にしている。
「ボクはリアスが出て行くなら一緒についていこうと思ってね」
ヨレヨレのシャツとズボンを穿いている少年。
胸元に少女と同じように、ペンダント。
しかしこちらは、空色と翠の雫と正反対のものだが。
暗くくすんだ灰色の髪は適当な場所で結ってある。
更に右耳に銀色の六芒星のピアス。
二人はさっさと荷物を片付け始めている。
その様子を小柄な少女はオロオロと見ている。
「そ、そんな…。どうして急に…?」
真っ黒なフードつきマントをすっぽりかぶってるせいで彼女の表情は読めない。
しかし声色は何だか泣きそうに聞こえる。
「ごめんね或都。わたし、もう限界なんだ」
「リアスさん……」
「誰かを傷つけてまで、世界の方程式を解こうって考えは、おかしいと思うの」
リアスと呼ばれた少女は、或都という少女の頭をフードの上から撫でた。
「ボクもそうだと思うよ」
「ジュンさん……」
ジュンは荷物を片付けながら更に続ける。
「確かに今は戦争中だ。でもやっていいことと悪いことがあるだろ?そもそもボクは軍に入るつもりなんてなかったんだ。この国は魔術を使える奴は軍に強制的に入れられる。ボクは単純にまだ見ぬ方程式を解きたかっただけなんだよ」
そう一気に喋ってから一息入れる。
そして作業を再開する。
「ジュンさ、本当にいいの?」
「何が?」
荷物を片付ける手を止めて、リアスは聞いた。
「別にわたしに合わせなくてもいいんだよ?わたしはやめるって言ったらジュンもすぐやめるって言ったけど」
「いいんだよ、ボクだって軍は嫌いだ。ボクの楯は敵の攻撃を受け止めるモノじゃないって、リアスが一番知ってるだろ?」
「ジュン…」
リアスは嬉しそうに微笑む。
「流石はわたしの相棒!」
「……」
しかし次の言葉は彼の期待とは全然違っていた。
(ッああ!何でいっつも伝わらないかな!!)
内心叫んでいるジュンだった。
そんな二人の会話を羨ましそうな視線で見つめていた或都。
「本当に…やめちゃうんですか?」
最後に、そう小さく二人に尋ねた。
「あ、ちょっと違うかな。やめるはやめるけど、脱走」
「そうで……え!脱走!?」
リアスがあまりに普通に言ったので流しそうになったが、内容は物騒だ。
脱走兵はその場で処刑が原則。
機密保持のためである。
「だって上に言っても無駄でしょ?だから実力行使」
「……」
突然のことで、或都は呆然としてしまった。
「リアス、ボクは準備できたよ」
「分かった。それじゃ、元気でね。或都」
リアスは最後に或都の頭を軽く撫で、窓近くに移動する。
「それじゃ、作戦通りに行くよ?」
「了解」
リアスとジュンはお互いに視線を交わす。
「せーのっ!」
リアスは喉元に手を当て、ジュンは緑色の水のようなもので窓を覆う。
————!!!
次の瞬間、その場に凄まじい高周波が鳴り響く。
無論、耳で聞き取れる範疇ではなく、音を振動にして窓を攻撃する。
当然、耐えられる訳も無く窓は簡単に破壊された。
「!?」
或都は咄嗟に耳を手で押えたが、無意味だった。
それすら貫通して、振動は脳髄を揺さぶる。
「……ァ」
結果、或都はそのまま倒れてしまった。
「痛ぅ……」
ジュンは、振動をある程度遮断する水のような物でガードしたのに、耳鳴りがした。
「ジュン、急いで!警報が!」
「?」
リアスに急かされ、気付く。
外では慌しい足音と、けたたましく鳴り続ける警報が。
「急ごう!先にボクが出るから」
「うん!」
素早く耳鳴りから立ち直したジュンはそのまま外に飛び出した。
先に彼が飛び出さないと、5階分の高さを誇るこの兵舎からは逃げ出せない。
リアスは最後に、後ろで気絶している或都を見た。
「……ごめんね。わたしはもう、戦いたくないから」
或都に謝罪の言葉を残し、彼女も窓から飛び出した。
その部屋に他の兵士が入った頃には、気絶した或都以外、もぬけの空だった。
そして、東のとある軍事基地でも、同様のことが起きていた。