ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 機械達ノ笑ウ場所 オリジナルキャラ募集中です ( No.20 )
- 日時: 2011/02/13 14:06
- 名前: 黒鳩 ◆k3Y7e.TYRs (ID: Y8BZzrzX)
一話 inside 苦悩する兵器
「ここまでの言ったことに何か間違いがあるかな?翡翠」
「……ありません」
村人を救った少女は、基地に帰還し、呼び出しを受けた。
少女の名は翡翠。この基地で新しい兵器の一つだ。
「まったく、初の実戦投入でいきなり暴走か…。やはりまだ不安定な部分が強いらしい…」
彼女を呼びつけた開発部の主任は書類を見てぶつぶつ呟く。
彼女がやった命令違反。
村人の抹殺命令を無視し、挙句味方部隊を一人で壊滅させたのだ。
(私はこれからどうなるんだろう…)
自分が兵器として目覚めて、まだ日は浅い。
そもそも何故自分が兵器になってるのか分からない。
気付いたらここにいて、兵器になっていた。
彼女の分類は生体人形。
機械人形とは違い、生身の体にナノマシンという小さい機械を注入された特殊な兵器だ。
そのため機械人形とは違いある程度の自我は残っているし、機械人形より柔軟な動きも可能なのだが。
ただその自我のせいで暴走の可能性が高いのが欠点である。
「……仕方ない。今回は初実戦で動揺したのだろう。翡翠、部屋に戻って休みなさい」
主任は書類を読んだまま言う。
「……了解しました」
頭だけ下げて、作戦室を後にした。
廊下を歩いていると、時々同じ年代の子供たちに会う。
しかし揃って無表情。しかも腕の一部から機械の管が見え隠れしている。
(……純粋な機械は何も感じないんだな、やっぱり)
本当にそう思う。
中には腕に片足を持って移動する奴もいれば、頭が吹き飛び、首から配線などが向き出しの状態で移動している者もいた。
(…っ)
翡翠は嫌気がさし、自室に向かって走り出した。
何体もの人形と大人がすれ違う。
この基地にいるのは機械人形約600体。メンテナンス要員100名弱、開発部50名、それに試作機が2体。
その一体が翡翠である。
彼女は試作機故、特別に自室を与えられている。
もう一体の試作機と共に。
自室の前に着き、カードキーでロックを解除した。
「あ、お姉ちゃんお帰りー」
自室に入ると、ベットの上でお菓子を食べていた翡翠より幼い見た目の少女が飛び起きた。
「派手に暴れたらしいね。こっちにも連絡来たよ?」
「そっか…」
翡翠は長い前髪を払おうとせず、向かいにあるベットに横たわった。
「そっか…、じゃないよ!まったく何してんの?さっさと殺せば万事解決だったてーのに」
ムスッとした顔で翡翠を怒るのはもう一体の試作機。
翡翠より更に不安定な性能を持つ少女。名は水晶。
と言っても水晶も、翡翠も、名前ではなくパーソナルネームであって本名ではない。
本人達は忘れたらしい。
「水晶みたいに人を殺すなんて私には無理だよ…」
「何言ってんの。自分が殺されそうになったら殺すクセに」
「……」
水晶に言われて言い返せない。
そう。彼女は自分が攻撃されると躊躇い無く殺す。
翡翠はそんなつもりはないのだが、自分が痛いのは絶対に嫌なのだ。
「あたしだったら皆殺しだったなー。必要なら殺すし、逃げた奴も殺せって言われたら殺すよ」
「水晶は殺すのに何の躊躇いもないの!?」
「ないよ」
水晶は言う。
「だってあたしはもう兵器だし。兵器は殺すのが仕事でしょ?ちゃんと見返りもある訳じゃん?こういう風に居場所提供してもらってる身だし」
「……」
翡翠は、とても彼女が羨ましかった。
自分は兵器、と割り切れればどれだけ楽か。
自分はまだ心のどこかで『自分は人間だ』と思ってるのだろうか。
いや、そもそも兵器に心など必要ない。必要とされない。
必要なのは効率よく殺す方法と、武器だ。
自分に求められているのは、人としての自分ではなく、兵器としての自分。
水晶はまだ10代前半だったはずだ。
もう、彼女には心が残っていないのだろうか。
「ってのが建前」
「え?」
顔を上げると、水晶は難しい顔をしていた。
「必要だから殺してるんだよ、あたしは。あたしは自分の居場所を守るために殺してるの。殺すのをやめたらここに居られない。居場所がなくなるんだよ?」
「居場所…?」
「そう。お姉ちゃんだって分かってるでしょ?あたし達人間じゃないんだよ。兵器なんだよ?兵器なんてそもそも道具だし」
「水晶?」
「道具には居場所なんてないし。だからあたしは殺すことで自分の場所を勝ち取ってるの。本当は最低限しか殺したくないよ、あたしだって」
水晶はそのままお菓子を食べ始めた。
彼女も生身ゆえ、食事などは可能だ。
「ま、今のうちに悩んどけば?あたしはもう寝る」
がーっとお菓子の袋を逆さにし、口に流しこむ。
「んぐっ…。それじゃ、晩御飯になったら起こしてね。お休み」
ごろんと横になって寝てしまった。
「……居場所、か」
翡翠はそのまましばらく言葉の意味を考えていた。
そして、物語は動き出す。