ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照が……。 ( No.112 )
- 日時: 2011/08/03 00:50
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
いきなり大声をあげたアリサは、それと同時に意味わかんないと言いたげな顔をした。
「意味わかんないっ!」
言ったし……っていうか、めちゃくちゃ言うセリフ予想出来易いなっ!
相当悔しいのか、地団駄を踏みながら悔しそうな顔をしているアリサに声をかける言葉なんて勿論、俺にはない。それよりも、俺自体がこの状況にとても困っている。
現実世界とかなんとか言っちゃったけど、此処が実際そうなのかといえば違うだろ。あの、ほら、変革世界だっけ? あそこの雰囲気そっくりだし、絶対に此処は元の世界じゃないと言い張れる。
「と、とにかくだ。落ち着けよ? まず、此処から出る方法を——」
「爺はどこよーっ! か弱いお姫様をこんなところに連れてきてッ!」
全く人の話を聞かないアリサの様子に、俺は嘆息するしかない。もう、やめて。そろそろライフが0になりそうだ。
色々考えてみたりもしたが、此処にはモンモンが出るみたいなんだが……変革世界にモンモンが出るなんてことも聞いていない。
変革世界な感じがしているが、あれは行っても行っても同じ場所に行き着くとかいう摩訶不思議なことは起きないと聞いている。確か、あれは現実世界の鏡の存在だから……普通に現実世界のように範囲は大きいとかなんとか……。
「あぁ、わかんねぇ!」
頭をグシャグシャと掻き毟ったところで何が変わるわけでもなく、無情に過ぎる時間とマッハの如く喋りまくるアリサの雑音が入り混じって何だか変に苛立ってきた。
いや、でもここで苛立っては何もならないじゃないか。
(とにかく、此処から出る方法を……)
と、俺が考えたその時、一つの考えが思い浮かんだ。
それは、アリサがどこから来たかにヒントがあった。
「なぁ、アリサ。お前、一体どこから来た?」
ずっと爺とやらの文句を言っていたアリサは、途端に俺の質問を聞くと、ムスッとした顔はそのままで答えてくれた。
「言ったでしょ? 私は、レヴィーナス大陸の——」
「いや、そっちじゃなくて。確か、アリサは"空"から落ちてきたよな?」
「え、まぁ……そうだけど」
やっぱりそうなのかもしれない。
あのモンモンだって、此処から生まれたものじゃないとすれば——空から降って来たんじゃないか?
つまり、空には別世界の入り口があって、此処は現代世界やらレヴィーナス大陸やらの入り口の落とし穴的な場所。というより、合流地点と言えばいいのだろうか。
「あのさ、アリサはさっきの怪物みたいなの、自分の元いた世界でもいたのか?」
「いたわよっ! モンスターのことでしょ? あんな大きいの久しぶりに見たかもしれないわ」
アリサの世界でもモンモンは存在する。確か結鶴の世界とかでも存在したはずだよな?
やっぱり此処はその合流地点と考えた方がいいみたいだ。
だが、そうだとしても何で俺はそんなところに来てしまったんだろう?
「誰かに嵌められた……?」
俺はその一つの可能性を呟いた瞬間、どこからともなく拍手が聞こえてきた。その拍手は、一人のものだと知ったのは、俺が後ろを振り返った時だった。
黒い軽身の鎧を付け、長い黒髪に右肩につけられた小さなマント。何より、背中に装備された大きな剣が目立つ風貌をした女性がそこにいた。
「よく気付いたな。私が命令して君達を嵌めさせた」
「誰だ、あんた」
俺は出来るだけ凄みを利かせて聞くが、そもそもそんなことはやったことはないのでまるで効果はない。
しかし、俺の言葉にふっ、と鼻で笑い、その長い黒髪を上へとかき上げた。
「私の名は、クロナギ。これでも勇者だ——英雄君?」
ニヤリと笑みを含んだその表情は妖艶で、なんともいえない威圧が感じられた。それより、この人も勇者なのか? 勇者は皆美少女だが、色んなタイプがいるもんだな……。
そんな状況の中、アリサは隣で苛立ちを露にしていた。
「ちょっと! あんた、早く私を元の世界に戻してよっ! そうしないと、やられちゃうじゃない!」
「やられるって、どういうことだよ?」
聞いてはいなかったことに、俺は思わずアリサへと問いただす。すると、ふてくされた顔でアリサは淡々と答えた。
「今、結構モンスターに攻められてるの! お城にまで来ちゃって、いきなり凶暴なのが更に凶暴になった感じよっ!」
どういう感じだ。
呆気に取られている俺を差し置き、再びクロナギは鼻で笑った。
「君達は鍵だ。そう簡単に危険な目に逢わせることはしたくない」
「危険な目? ——もしかして、俺の世界にもモンモンが……?」
俺の言った言葉に、クロナギはゆっくりと笑みを浮かべたまま頷いた。そしてそのままクロナギは話し始めた。
「今、英雄君のいた世界ではモンモンが急激に溢れ、破壊行動を行っている」
「……ふざけんなっ!!」
思わず俺は怒鳴っていた。クロナギの言うことが、もし全て本当だとすれば……槻児たちも危ないし、何よりユキノたちのことが心配だった。
「留守にしている家が、危険となれば……その家の鍵は、何としてでも守らなければなるまい?」
唐突にクロナギが話し出すが、俺にとってはそんなこと、微塵も関係なかった。
「元の世界に戻せよっ!」
「そーよそーよっ!」
野次馬のようにアリサも同意しているが、こいつは自分のためにだろう。両手を可愛らしく挙げてぶんぶん振っている。
「別に構わんが……」
クロナギは先ほどの笑っていた顔から豹変させ、真剣な顔つきになったかと思うと、先ほどよりもより一層、威圧を放ちながら言い放ったんだ。
「——お前ら、死ぬぞ」
それはまるで冗談のようには聞こえず、真剣そのものだった。
現実性がないことを語っているというのに、現実性があるようにしか思えかった。それはアリサも同じのようで、真剣な表情でクロナギを見つめていた。
「レベルが違いすぎる。今の英雄君の力ではいとも簡単に殺されてしまう。お姫様の方は、少しは出来るようだが……まだまだ全然だな」
分析するかのようにクロナギは淡々と話す。
俺は、そんなにも弱いのか? 最近身体に変化が出てきて、何か強くなってるっていう感じだったけど、これでも弱いのか?
「君はモンモンの相手を二回しかしたことがない。それに、英雄の能力も全然開花されていない」
「だから……何だってんだ。俺は、自分の信念を曲げるつもりはねぇ」
しっかりとクロナギの澄んだ黒い瞳を見つめた。クロナギは俺を何故か驚いた顔で見た後、ニヤリと再び口を歪ませた。
「ならば……私を倒せ」
「……は?」
意外な回答に、俺は少し戸惑いを見せたが、そんなことはおかまいなしにクロナギは続けて言い放った。
「二人がかりでもいい。この私を倒すことが出来たのなら、元の世界に戻してやろう」
クロナギはその後、「そのかわり」と付け足してこう言った。
「死ぬなよ?」
ゾッとするような声でクロナギが言うが、こんな世界で立ち止まっている場合じゃない。
俺は、自分の手の届く範囲のものは助けてあげたいんだ。
「受けて立ってやる……!」
拳をしっかりと、握り締めた。