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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.13 )
日時: 2011/03/07 23:23
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

「はぁっ!? 俺の家に泊まるっ!?」
「当たり前だろっ! コンソメ野郎がっ!」

意味分からんネーミングをありがとう。——って今はそんなこと言えるような感じじゃないぞ、おい。

「あのなぁ……よく考えてみろ。男女二人が一つ屋根の下で暮らすって——」
「見事に健全的だな」
「それ、違う意味での健全的だよっ!」

とは言っても、すでに日は暮れてきていたし、何より——俺の家にもうそろそろ着くんですけど。
周りの目が痛い。ていうか——

「お前さ、とりあえずその物騒な刀仕舞えよっ!」

ユキノのアホはあの機械仕掛けの刀を剣士みたいに背中に担いでいた。——おかげで目立って仕方がない。
途中、写真を撮るアホまでいやがる。あぁ、畜生。何で最近俺、こんなことばっかなんだ。

「え? あぁ、仕舞って欲しいのか? ——なら早くそう言えよ」

ユキノは大太刀を背中から下ろすと、一瞬の内に消え失せさせた。——この野郎。便利すぎるにもほどがあるぐらいのこと、出来るじゃねぇか。

「今までのコソコソした俺のせわしない動きは何だったんだ……」
「ん? 何か言った?」
「何もねぇ。——とりあえず、家に……!」

——いや、待てよ。
俺の家があるのは人気の少ない場所に立地していると思うのだが、今まで目立ってここまで来たためか、人がまばらにいる。
そんな中、やはり目立つのはこの夏に差し掛かるだろう暑い中で着物姿のユキノが一番の注目を浴びている。
そして俺は、そんなユキノを自身の家に入れようとしている。
——これは、周りの目から見てどう思われるだろうか?

「んじゃぁ、ま! お邪魔しま——」
「待てぇぇぇぇっ!!」

ユキノが玄関のドアを開けようとするのを必死で止める。ダメだっ! ここは俺のっ! 俺のっ! ——イメージのために、ダメだっ!

「何だよっ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!」

俺は何とか玄関から入らずに、他のルートから入るようにアイコンタクトを送る。
俺の家はとりあえず敷地だけは結構広めなため、侵入できるルートは他にもある。
ユキノがそちらに行った時、俺も人気が無くなった頃に突入しようと思う。

「何を目で合図してんの? ——マジキモいんだけど」

やめてぇぇっ!! 俺の必死のアイコンタクトを口で公表するのだけはやめてぇぇっ!!

「バカかお前はっ! 玄関からじゃなく、左の方に入り口があるだろっ! そっちの方が目立たないからそっちから行けっ!」

素早く俺はユキノの近くまで行くと、目的を告げた。

「は? 何でそんなみみっちぃことしなくちゃいけないんだよっ! 僕は勇者だぞ? ——これより、玄関を突破してみせるっ!」
「しなくていいわっ!! やめろぉぉぉぉっ!」
「うぉぉぉぉっ!」

うぉぉぉぉっ! ——じゃねぇわっ!! 何してんだぁぁっ!!
俺の目的など、優に無視して突入を成功させたユキノは俺に目掛けてガッツポーズしやがった。——いや、可愛いけども。
ガッツリと近所の人から見られたりしたわけで。ていうか、あれだけ激しい突入の仕方だと、ますます目立った。
——だって前転しながら突入してきたんだぜ? ありえん身体能力が恨めしい。

「はぁ……」
「どうした? そんなに僕に突破されたのが悔しかったのか?」

自信満々に無い胸を張りながら言う、ユキノ。無邪気な表情が怒りを抑えやがる。
——俺はただただやり場のない怒りを心の中で無為にも消滅させる他はなかった。

とりあえず、リビングへと通して落ち着く。
もう日が落ちかけなので、暗かった。電気のスイッチをパチパチと押して、鞄を置く。

「何だこれっ!」

——おい、小娘。一体何をしている?
そっと俺はユキノが何をやっているか見たところ——柔らかなクッションにスライディングしていた。

「これ! この柔らかいのは何だよっ!」
「クッション、知らないのか?」
「クッション? クッキングパパじゃなくて?」

すごい間違えだな。その発想にたどり着いたお前の考えは色々と素晴らしいな。
ていうか、クッキングパパ知ってるのに何でクッションは知らないんだよ。普通逆だろ。

「クッキングパパは最強大魔神だよなっ! 許せねぇっ!」

え? そんな怖い存在なの? 料理作る人か何かじゃなかったっけ? ——まあ、俺もよくは知らんけど。

「んで、何すんの?」
「俺が聞きたいよっ! 泊まるとか、お前言ってるけどさ?」
「誰がそんなこと言ったんだよっ!」
「お前だろうがっ!」

俺がユキノを説得させるのに、30分ほど時間を要した。——もう、いちいち面倒臭いな。このバカ娘は。

「とりあえず、香佑っ!」
「いきなり呼び捨てか……」

笑顔でユキノはスッキリしている腹を擦りながら——

「腹減ったっ!」
「……ま、大体予想ついてたけどな」

話は飯の後からでもいいだろう。——取扱説明書がどうたらこうたらの話も詳しく聞かないといけないしだな。
何より、世界と異世界がぶつかり合って爆発する? ——んなこと本当にあんのかよ。

適当に冷蔵庫の中を開けて、豚肉とかキムチが目立つところにあったので豚キムチを作ることにした。簡単だしな。
俺が作っている間——ユキノはバラエティ番組を見て爆笑していた。こいつ、本当何なんだ。
人の家に上がりこんでおいて、テレビ見て爆笑って。

「ほら、出来たぞ」
「おっそいなっ! 腹が半分から全快まで減ったぞっ!」

何だそれ。全快って何だ。お前の腹にはそんなものを決める装置みたいなのがあるのか?
とはいっても、ユキノは豚キムチと多量の白ご飯を小さな口に掻き込んで、すぐさま平らげる。

「おかわりっ!」
「容赦ないな」

俺は、ふっと笑うと白ご飯をついだ。
ずっと一人だったからかも知れない。一人で、普通の日常がいいとか思ってたけど。一人で、静かに食べるのがいいと思ってたけど。
——たまには、こういうのもいいかもな。
俺は、そんな微かな嬉しさに似た感情を抱きながら白ご飯をつぐ。
それは、もっと食べて欲しいと思ってしまったからだった。



「まあまあだったなっ!」

散々平らげておいてのこの一言。——恐ろしい子っ!
おかげで俺はいつもの半分ほどしか白ご飯がなかった。豚キムチはもう一回作らされるし。量が少ないとかで。
——こいつと同居なんかしたら、すぐに食い物尽きるんじゃ? ていうか食べた分の栄養が見た目に出てないように見えるが。
腹を膨らました後、俺はユキノとテーブル越しに向かい合う。

「質問がある」
「またかよっ!」

まただよ。解決してないことが多すぎるだろうが。

「俺を襲った奴のことだが……あいつは、何が目的だ?」
「言ったじゃんっ! 取扱説明書が目的だっての!」

あれ一つ如きで俺を殺すのか? ——俺はあんな白紙の雑誌より価値が低いのかよ。

「じゃあ——あれは、何なんだ?」

俺は、一番聞きたかったことを聞いてみた。
ユキノはむっと顔を一瞬しかめたが、それは関係なく答えてくれたのだ。


「世界を救う英雄の力を発動する取扱説明書だよ」


——聞かなきゃよかった。それならまだ、巻き込まれずに済んだのかもしれないのに。