ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜連続更新中っ ( No.24 )
日時: 2011/03/20 17:55
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

特に何も教師から咎められることもなく、俺は教室へと舞い戻った。
そしてまたいつもの授業を受け、面倒臭い大掃除を適当に終わらせる。そんな怠惰なことなど過ぎ去り、昼飯を終え、放課後へとあっという間にもつれ込んだ。

「さて……帰るか」

出来るだけ早く帰るということを家にいてくれているだろうアホ娘のために余儀なくされた。
バッグを持ち、早々に教室から出て行こうとする。

「うぉーいっ! 待て待て香佑君やっ!」
「そのウザいノリ、やめてもらえませんかね? 地球の排出物君」
「はははっ! 相変わらずいいノリしてんねっ!」

——冗談でもノリでもなく、本気の憎たらしさを込めて言ったんだけどな。そこらへん、勘違いしないで欲しい。

「なぁなぁっ! 俺と一緒に盗撮しないかっ!?」
「大声で言うことじゃねぇだろっ! それにお前、犯罪だかんな?」

俺は一蹴して教室を出ようと扉に向かう。だが後ろからウザいことに槻児は俺の肩を掴んでくる。

「まあ冗談だって! 本当はな、部活動のヘルプに来ないかと誘おうとしたんだ」
「行かねぇよ。一人で行きやがれ」
「そんな冷たいこと言うなって!」

あぁ、マジでウザい。早く帰りたいのになんだこいつ。
俺はいい加減ぶち切れて肩においてあるこいつの薄汚い手を払おうとしていた、その時

「横渚ぁっ!」
「ひ、ひぃっ!!」

教師の怒鳴り声が槻児の後ろから聞こえた。

「盗撮の件、終わってねぇぞゴルァッ!」

あ、バレてたんだ。盗撮。

「た、助けてくれぇぇぇぇっ!!」

槻児のアホは体のゴツい教師に首根っこを掴まれて引きずられていった。槻児——ざまぁみろ。
ようやく邪魔な奴が消えてくれたので俺は急いで家へと帰るために教室のドア——が開いた。

「あ、い、いましたっ!」

この可愛らしい声はいつぞやの佐藤 友里の声だった。

「あ、あぁ……? いちゃ悪いか?」
「そ、そんなっ! 全然悪くないですっ! えっと、逆に、その……いてくれて、嬉しいというか……」

指をモジモジしながら俺のことを上目遣いで見る。——うわぁ、可愛すぎるだろ。やべぇ、この小動物やべぇ。

「えぇっと……何が言いたい?」
「あっ! えっと、あのっ! ——裏庭へ、来てもらえませんか?」

裏庭。そう聞いて俺の体は硬直しざるを得ない。
何故かというと、裏庭とは人気が全然無く、さらには周りが建物に隠れて薄暗いし、見つかったりすることもあまり無いスポット。
つまりこれが意味するということは、人の目をはばかるようなことや、告白スポットなんかとして有名なのであった。
そんなしょうもないことだけ聞いている俺もどうかとは思うが——いやしかし、まさか佐藤が。それも今日会ったばかりじゃないか。

「別に、構わないけど——」
「な、ならすぐ行きましょうっ!」

佐藤は俺の手を取り、走ろうとする。

「あ——」

そして瞬時に手を離し、顔を赤らめる。——いちいち行動が可愛すぎるだろ。
今時こんな高校生がいてもいいものかと俺は思うがモジモジしっぱなしの佐藤を促して裏庭へと向かうことにした。



蹴っても殴っても何も反応しないダンボールの箱。
もしかしたら爆弾なんじゃないか? とか思ったりもしたが、その割には結構軽い。
しかし宛先人が書いておらず、何者が送ってきたのか分からない不気味な箱といえた。
そんな箱をリビングの一角に置いて見つめるユキノ。

「いっそのこと、ぶった斬ってやろうかな……」

ジーっと箱を睨みながらそんなことを呟く。
だが、そうしているのも時間の無駄といえることに数十分経ったところで気がついたのだった。

「よ、よしっ!」

開けて見よう。そう決心した瞬間だった。
ゆっくりとダンボールの箱を開ける。ゆっくりと、ゆっくりと。
そして、中を開き、その目で見たものとは——

「な、何これっ!?」

ユキノは急いで家を飛び出し、反応のする場所へと向かった。
反応する場所。それは英雄の取扱説明書に危険が迫っていること。またを香佑の身に危険が迫っていることを暗示していた。



裏庭についた香佑と佐藤は対峙する。
佐藤は未だ顔を赤くし、手をモジモジさせたり、右足を左足に擦らせたりと、照れているような雰囲気を醸し出している。
いやぁ、このシチュエーションってば、ドラマとか何かで見たことありますよ。

「あのさ。えーと……何か用?」
「えっ! あ……はい」

俺も正直こんなことは初めての体験なので、どういう風に対処すればいいのか分からなかった。
佐藤は驚いたような顔をしつつ、赤面をしながらまた照れたりと表情をせわしなく変えていたりする。
早く帰らないと、あのアホ娘が一体何をしてるか全く分からない。——もしかしたら家が木っ端微塵と化してるのかもしれない。
そんな不安もあるが、こんなシチュエーションを逃すわけにもいかないわけで……というより、佐藤の気持ちもあるだろう。うん。

「あ、あの……私……」

そして、佐藤がようやく口を開いた。この緊迫した感じ、どれも初めての経験だ。
新鮮さもあるが、照れの方が大きい。というより、これはもう告白しか——


「私、ヒットマンなんです」


「……はい?」

思わず聞き返してしまった。いや、この子何を言ってるのだろうとか思った。

「あの……ですから、殺し屋なんです。ヒットマン。殺し屋……」
「いや、それは分かるけど……」

うーん新鮮。新鮮すぎて涙出そうだ。勿論の如く、このシチュエーションでこんなことを言われたのも初めてだ。
いや、多分この全世界の中で俺だけなのかもしれないな。こんなシチュエーションで殺し屋です。だなんて告白されるとは。

「で、ですから——僕は、貴方を殺さなければならないんです」
「へ、へぇ……え?」

何故そうなる。何故こうなった。どうして俺はこの子と出会ってしまったんでしょうね。
クソッ! セコすぎるって! こんな可愛いドジっ子キャラが殺し屋とかっ! 気付くはずねぇだろっ!

「いや、何で俺を殺さないといけないんだよっ!」

とりあえず指摘してみた。ていうか凶器らしきものなど、一切見当たらない。落ち着いて話をすれば何かなるかもしれない。
変なものでもただ単に食べただけなのかもしれない。そのせいでちょっと頭がおかしくなっていると考える方がまだ普通だろう?

「だって……貴方は、英雄ですから」
「え、英雄?」
「は、はい……現に、貴方はそのば、バッグの中に英雄の取扱説明書があるはずですし、英雄の魔力をか、感じますから……」

緊張しすぎだろう。とかまともに返せばそう言えるのだが、今の俺はとてもまともではなかった。
何故、俺がこの取扱説明書を持ってることを知ってる? 英雄の魔力? 何なんだそれは。

「貴方をこ、殺して、英雄の取扱説明書を奪うようにと依頼されていますので……す、すみませんが——死んで、くださいっ!」

そう告げた瞬間、佐藤の手にはいつからか銃が二丁握られていた。——どこから取り出したんだっ!

「うおぉぉっ!!」

バンバンと連続して撃ってきそうな予感がしたので、俺は咄嗟に物陰に隠れる。それとワンテンポ遅く、後から銃声が聞こえた。

「あ! だ、ダメですっ! に、逃げたら……」

殺されるってのに逃げないわけがないだろ。ていうか、マジの殺し屋かよ。
人気の無いところにおびき出したのはこのためか。——まぎわらしいシチュエーションを作りやがって。
まだここは薄暗い場所でよかった。何とか見つかるのに時間もかかる。

「英雄の取扱説明書を渡すだけだったらダメなのかよっ!?」
「だ、ダメですっ! 持ち主を殺さないと、その人しか取扱説明書は扱えないので……そ、そこですねっ!」

俺の声のおかげで位置が読めたのか、何発か銃声が鳴り響く。俺はその時には既に転がるようにして別の障害物に隠れていた。
とはいっても、なす術がない。何も出来ないのだから。
先生は戦えと言ってたけど——戦う武器がないなら、それ以前の問題だろう。

(クソ……っ! 何でこんなことに巻き込まれないといけないんだよっ!)

全部全部、この取扱説明書のせいだと思った。拒否権なしで勝手に持ち主を決めるなよ。俺は、平凡がよかった。
こんなマジの殺し屋に殺されるようなシチュエーション、望んでなんかいない。

「見つけ、ましたっ!」
「ッ!!」

いつの間にか隣には、銃を持った佐藤の姿があった。華奢な体は変わらず、目には涙で潤んだ痕が見えた。
こんなか弱い女の子が殺し屋かよ。世も末だな。

「すみません……貴方が、英雄じゃなかったら……っ!」

俺が、英雄でなかったら。もっと良い関係になってたってことか? 何だよ。俺は英雄なんかじゃないぞ?
わけのわからないことに巻き込まれて俺は、死ぬのか?
佐藤はゆっくりと——引き金を引いた。
乾いた銃声が、裏庭に鳴り響いたのだった。