ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜連続更新中っ ( No.25 )
- 日時: 2011/03/06 00:06
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「うわああああっ!! ……あ?」
撃たれて、俺は多量出血により死ぬもんだと思っていた。
銃声が耳を貫いた時はもうダメだと思った。——だが、俺の体は銃弾によって貫かれちゃいなかった。
「こ、これは……っ!!」
佐藤が驚きの声をあげる。
その驚きが何を意味するものかなど、すぐに分かった。
それは——俺の右腕から荒々しく迸っている電撃のようなもののせいだった。
オーラ、というにはなんとも刺々しい感覚を持つその電撃のようなものをまとわりつけた右腕が——俺を守るようにして盾となっていた。
「な、なんだこれっ!?」
俺自身も無論、何がどうなってるのかさっぱりわからない。誰か説明できる人がいれば欲しいと思うほどに。
この電撃が何をどうやって銃弾を止めた、というより消滅させたのかも分からない。
何せ分かることは自分は生きているということぐらいだった。
「あ、エルデンテじゃないですかっ!」
「エルデンテ……?」
佐藤は驚きの声をあげてこの電撃の名前らしきものを告げた。——ていうかこれの正体知ってるんだな。さすが殺し屋。
パスタを茹でる……そう、アルデンテみたいな名前を持つこの電撃は佐藤の顔からしてただの電撃でないことは確かだった。
「あ、貴方は……英雄の取扱説明書を既に使えるのですか……っ!?」
「いや、聞かれても困るんだけど……」
「そ、そうですねっ! す、すみませんっ!」
謝られても。律儀な殺し屋だな。
だがしかし、佐藤はもう一度銃を構える。
「データでは使いこなせていないと聞いてますっ! 今度こそ、ちゃんと——」
「——待てぇぇぇぇっ!!」
凄まじい叫び声と共に隕石の如く降って来たのは——家で待っているはずのアホ娘、勇者ことユキノだった。
「何で、お前——!」
「何でもクソもあるかよっ!」
ユキノは真剣な怒鳴り声で俺の方を振り向かず、佐藤を睨みながら言う。
「お前っ! ——なんでポン酢が既に二つあんのにまたポン酢買ってんだよっ!!」
「……え?」
「ふざけんなっ! 勿体無いだろっ!」
「いや……家にあるポン酢二つとも、もう腐ってたりするから。変色してただろ?」
「な……! ちゃんと捨てとけよっ! このパーフェクトダメ男めがっ!」
パーフェクトダメ男って、どっちだよ。パーフェクトなのかダメなのか、それともダメ度がパーフェクトなのか……。
いや、それよりもだな。——俺を助けに来たわけじゃないんかいっ!! ポン酢で来たんかいっ!!
奮発して有名ポン酢を通販で買ったりしたことでここに来たなんて洒落になりませんがな。
「あ、貴方は確か……勇者、ですよね?」
「その通りだっ!」
無い胸を張って威張るユキノ。それに何故か動揺している佐藤。
とにかく、助かったのだろうか?
「ていうかお前っ! 何でエルデンテ出せてんだよっ!」
と、ユキノからもツッコまれた。
「佐藤が銃をぶっ放して、気付いたら何か出てたんだ」
「何だそのドッキリ感はっ! 僕は騙されないぞっ!」
何の話だ。
「エルデンテって一体何なんだ?」
「あ、エルデンテっていうのはですね……」
って佐藤が答えるのかよ。お前は敵じゃないのか?
「英雄の稲妻と呼ばれるもので、魔力を破壊する魔力のことを言いますっ。英雄にしか扱えないそれはそれはすごい魔力なんですっ!」
聞くところによると、なかなかしてすごいらしい。この右腕から放たれてる電撃のようなものは。
ていうか、英雄にしか扱えないって——俺もう英雄確定か? 勘弁してくれよ。
「わ、私の銃弾は魔力によって作られてるので……破壊されたんです」
それで先ほどの銃弾を防げたわけな。なるほど。そこらへんは大いに感謝するとも。
「さて……殺し屋、だったっけ? 取扱説明書、持ってるよな?」
「う……」
図星かよ。というかやっぱり佐藤も取扱説明書持ちだったんだな。
「なら話は早いなっ! ——逆に奪わせてもらうっ!」
ユキノは足に力を入れ、前へと押し出すと一気に佐藤の目の前へとたどり着く。手にはいつの間にか例の剣が。
「ッ!!」
連続して銃弾を放つ佐藤だが、目の前まで接近していたユキノはいつの間にか腰を低くして銃弾の真下におり——そのまま袈裟斬りを佐藤に向けて放ったが、佐藤は銃を真下に思い切りよく引き下ろす。
「なっ!」
銃はそのままユキノが振るった剣とぶつかり合い、また両方を弾いた。——すげぇ高レベルすぎて何が何だか分からない。
そのまま休みなく、ユキノは再び佐藤に目掛けて飛び掛っていく。顔は慌てた様子だが、冷静に佐藤は二丁の銃を的確にユキノへと撃っていく。銃弾を剣で弾いたり、身を翻して地面に転がって避けたりと、随分と忙しくユキノは向かっていきながらも確実に距離を縮めていた。
「こ、こうなったら……!」
すると、どこから取り出したのか佐藤は先ほどの二丁の銃とは比べ物にならないほどの大きな身をもつ銃を取り出して構えた。
「——解き放たれし、わが身の魔力に従えたまへ。来迎の如く、また敵を貫かん」
目を瞑り、なにやら詠唱し始める佐藤。なにやらオーラみたいなものが佐藤の体を巻きついていく。
「スパイラル・スタ〜っ!!」
かっけぇ名前を持つ技名を叫び、佐藤の持っている銃から——無数の光線が放たれた。
それは角度を変え、空へ四散する。空上には星の如く散っている青白い光の"弾"。
それは急激にスピードをつけてユキノに目掛けて落ちてくる。——ちょ、反則だろうがよ。こんなもん。
「ユキノッ!!」
俺は咄嗟に声を荒げてユキノの名前を呼んでしまっていた。——助けに来てもらって死なれた困るだなんて思ってしまっていた。
止まることを知らない無数の光の弾は次々とユキノへと降りかかり、地面の砂を削ったのか砂埃がユキノを包んだ。
衝撃音が鳴り止んだと同時に砂埃も段々と無くなっていく。ユキノはその中にいた。ちゃんと五体満足らしい。
なにやら結界のようなものに包まれており、それによって守られたのだろうと思う。
「危なかった……もう少しで本当、ヤバかったー……」
「ん? 何か言ったか? ユキノ?」
「な、何もねぇよっ! このクソゴミ野郎っ! 生ゴミ以下が気安く名前で呼ぶんじゃねぇっ! バーカッ!」
何でそこまで言われなきゃならん。何か言ったように聞こえたから聞いただけだってのに。
やれやれと肩を竦める俺だったが、そんな自分自身を心の中で情けないと思ってしまっていた。
ユキノは確かに強い。でも、これは元々俺が招いたことなのであって、助けての一言も言っていないのにユキノは当たり前かの如く俺を助けてくれる。
武器がないなら戦っても意味ないじゃないかと俺は思ったが、それは何か違うような気がした。
現にエルデンテとかいう能力が発動しなければ死んでいたが、ユキノがこなかったら例えこの能力があったとしても俺は死んでいたんじゃないかと思う。
戦わずして、抵抗せずに俺は死んでいたということになる。そんな事実がただ情けなかった。
「い、いつの間に結界を……」
佐藤は驚いたような顔と目を潤ませながら後ずさる。
そして、涙を拭きながら佐藤は言い放った。
「こ、今回は許してあげますっ! つ、次は見逃しませんからねっ! ……えーんっ!」
最後まで可愛い奴だなと思いながら涙を零し、逃げていく佐藤の姿を見送った。
「あ! 待てっ!」
ユキノはその後を追いかけようとしたが二、三歩歩いたところでそれは無駄なことだと思い、追いかけるのをやめた。
「あーその……なんだ。助けてくれて、ありがとうな?」
とりあえず礼を言わないと。そう思ったから言った。
前の方からため息らしき声が聞こえ、ゆっくりとこちらに歩む音が聞こえ——ゴツッ! と、鈍い音が俺の頭を響かせる。
「何で殴るんだよっ!?」
「うっさいっ! バーカッ! 取扱説明書預かってる立場だけのクセに威張るんじゃねぇよっ!」
「威張ってねぇだろうがっ! 普通に礼を言っただけだっ!」
俺は頭を抑えながら嘆息するハメとなった。何故殴ったのかは分からない。ただ表情と音で分かったことがあった。
「グ〜〜」
「……腹の、音?」
「は、腹減ったんだよっ! 悪いかっ!」
——この小娘は一発殴らないと分からないのかなぁ?
最近シチュエーションを破壊されること多くない? 何かの嫌がらせ?
俺はもう一度ため息を吐く。だがその顔は少し笑ってしまっていた。
「帰るか……」
「うるせっ! お前に言われなくても分かってるわっ!」
「あの、俺の家なんですけど?」
居候の身で偉そうなことを言うユキノだったが、少し笑顔になっていることに俺は気付いた。
こいつの笑顔、かなり可愛いじゃないか。そんなことも気付いたりした。
とりあえず、帰って話すことがある。
——俺の右腕に現れたエルデンテっていう稲妻のことと、英雄の取扱説明書とやらのことについて具体的に聞こう。
でないと、俺の日常は当分戻ってこないらしいからな。