ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照200突破っ ( No.27 )
日時: 2011/03/07 23:20
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

帰宅後、俺達は睨み合っていた。何度こんな場面をこの目の前にいる小娘と体験したことだろうか?

「また質問かよっ!」
「仕方ないだろうがっ! わけのわからないことだらけすぎるんだよっ!」
「受け入れろ。それがお前の人生だ」
「お前は俺の何を知ってるんだよっ!!」

——とまあ、テーブルを挟んで一対一の状態でこんな討論を繰り広げて約30分。一向に話し合いは進んでいない。

「とりあえず飯作れよっ!」
「まず最初に俺の脳内の騒ぎを満たしてくれないか?」
「お前……! このド変態がっ! なんて外道な想像してやがるっ!」
「違うわっ! バカ! 何で今日こんなに変態って言われなきゃならないんだよっ!」

まあ、とにかくだ。俺は料理の準備をしながらユキノに質問をすることにした。俺の目的とやらの意図がつかめるまで、な。
エプロンをつけながら俺はとりあえず質問その1を投げかけてみることにした。

「なぁ、アルデンテって何で発動されたんだ?」
「アルデンテじゃなくてエルデンテだっつーのっ! そこらへん、間違えるなよっ!」

名前似すぎなんだから仕方ないだろう。
お鍋を取り出し、俺は支度に取り掛かる。しばし無言の状態が続き、ユキノは——テレビの電源をつけてバラエティー番組を見ながら爆笑していた。
お前はこの家の主か。主たる振る舞い、やめてくれ。何で主であるはずの俺が料理せにゃならんのだ。

「あははははっ!! サルじゃなくて、ダースベーダーだろっ!」
「どんなバラエティ番組だよっ!!」

あまりの意外性抜群なユキノの言動に思わずツッコんでしまったじゃないか。
サルとダースベーダーに何の違いが? ていうかサルじゃなくてダースベーダーだと思うネタって凄すぎるだろ。
是非見てみたいとは思ったが、料理の支度の方を優先することにした。
集中しなければ美味い料理なんてものは生み出せないからな。料理の基本だと思ってる。異論は認めない。

「佐藤の説明だと、魔力を壊す魔力とか言ってたが、一体なんだ? それは」
「だから、相手の魔力をその雷は壊すことが出来る。つまり、相手の魔法や能力をその魔力は破壊することが出来る。でもそれは防御専用じゃなくて、逆に攻撃専用のもんなんだけどな」
「どういう意味だ?」

ボリボリと頭を掻き、いい加減分かれよと言いたげな顔をされながらもユキノは説明を続ける。

「破壊されると壊れるから、魔力は復元するのに時間がかかる。だから、何回かエルデンテを纏ったもので殴りつけると魔力が破壊されまくって——通常の人間ぐらいの弱さになるな」

ということは……めちゃくちゃ強い奴でも、弱体化されることが出来るというわけか。
結構便利なものみたいだな。さすが英雄の能力とかいわれるだけはある。
肉じゃが等を炒めながら、俺は次に一番聞きたかったことを聞いてみることにした。

「何で俺は今日、殺し屋……佐藤に襲われたんだ?」
「当たり前だろっ! 英雄の取扱説明書を奪おうとしたに決まってるじゃんっ!」
「いや、だからそれが意味分からん。英雄の取扱説明書って、世界を救うものなんじゃないのか? 奪っても意味ないんじゃ——」
「英雄の力が悪用されるかもしれないだろっ! 英雄の力ってな、それはそれはメルヘン畑の如く壮大な強大な力なんだっ!」

メルヘン畑って何だ。
とにかく、それほどまでに英雄の力は強いらしい。それが分かっただけでもまだマシだろう。
自信有り気に人差し指を立てて、自信満々な顔をしてユキノは説明してきた。

「それぞれの世界には様々な職種があって、それぞれが対立してるんだ。その争いを平和的に解決しようとしているのと、自分達だけが生き残ろうとしている目的で英雄の力を欲しがっている奴等がいるわけだっ!」

あーなんとなく分かってきたぞ。
昨日の分と色々まとめてみると、だな。
英雄の取扱説明書は世界中にいる種族の争いで勝ち抜くということではなく、その争いを止めることに使うらしい。
でもって、ユキノの種族ていうか職種は勇者であるからして……勇者はどうやら争いを平和的に止める側らしいな。
そうしないと異世界とこの世界が激突してバーンとかいう幼稚な効果音と共に消し飛ぶらしい。——俺の日常とかそういう問題じゃねぇな。
俺を昨日今日にかけて襲ってきたアンドロイドや殺し屋の佐藤は平和的に解決というか、自分達の職種だけを生き残らせようとか考えてる物騒な奴らなわけか。

「まぁ、何だ。とにかく、この英雄の取扱説明書とやらをコンプリートすれば、俺は解放されるわけか?」
「不本意だけど、お前がその使い手みたいだからな。人間にしかコンプリートできねぇっていうのは面倒くせぇけどな」
「答えをまず言え。コンプリートしたら俺は解放されると?」
「ん? あぁ、その通りだと思う。てか、目的さえ果たせばこんな家木っ端微塵にしてやるんだけどなっ!」

恐ろしいこと言いやがる。いつか本気でしかねないぞ、こいつ。——今の内にどこかこの小娘を別居させた方がいいんじゃないか?
まあ何にせよ目的は決まった。この英雄の取扱説明書とかいう物騒なもんをコンプリートさせちまえばいいわけだ。
確か、コンプリートさせるには他の職種の取扱説明書を持ってる奴とか、この世界に異世界から何たらどうたらで生み出されるモンモンとかいう名前可愛い奴を倒せばコンプリート出来るとか何とか。

「ていうかさ、結局のところ争ってないか?」
「はぁ? 何で?」
「いや、取扱説明書を集めるとかなると、そいつらと戦わないといけないだろ? 結果争ってることになるんじゃねぇか?」
「あぁ、それはな。英雄の取扱説明書を他の職種の取扱説明書と触れるだけでいいんだ」

なんという便利な。それなら争わなくても大丈夫な気がしないでもない。

「なるほどねぇ……。あ、肉じゃが出来たんだが、食うか?」
「当たり前だっ! いつまでかかってたんだよっ!」

文句をぶつぶつと言いながらでも、ユキノはテーブルの椅子に座る。——皿とか運んで欲しいんだけどなー。食うんだったらな。
でも今日は命を助けてくれたとかもあったので許そうと思う。
何だかんだ言ってユキノは実際強いし、自分がもし狙われたとしてもユキノを呼べばなんとかなるだろう。
俺はそんな安易な考えを浮かべて微笑みながら肉じゃがを運ぶ。

「気持ち悪い笑顔作るなよっ! 変なこと想像しやがって!」
「してねぇわっ!!」

食べ物を全てテーブルの上に置いた後、ユキノが白飯をがっつく姿を見てまた少し微笑んでしまう。
いやぁ、何でしょうね。結構楽に事が運びそうだなぁと思うとこんなに人は笑顔になれるものなんですね。
そんなことを思いながら俺自身も飯を食べようと思ったその時、ピンポーンと、おなじみのインターホンが鳴った。

「あの野郎かっ!!」
「どの野郎だよ。すまんがユキノ、見てきてくれないか?」
「あの時ぶっ飛ばした奴かもしれないなっ!」
「だから誰だよ、それ。とにかく、見てきてくれないか?」
「ったく、命令すんなよなっ!」

そんなことを言いながらも行って来てくれるユキノに少しは俺に心を開いたかと錯覚する。
長すぎて裾が地面にスルスルと擦れる音と、裸足特有のペタペタ音を聞きながら俺は味噌汁を飲んだ。
だんだん音が小さくなっていき、ドアを開く音がした。そして——だんだん音が大きく、さらに荒く聞こえてきた。

「へ、変態だっ!」
「何だその間違えかどうか分からない物言いっ! 大変って言いたいのか変態が来たのかどっちだ?」
「た、大変だっ!」
「大変の方か。どうした?」

今の時刻は既に夜の時刻で、この家には俺しかいないと近所などは承知している。
つまりは近所の人ではなく、他の誰か。セールスがこんな時間に来るはずもないし、第一この時間に客なんて珍しいことだった。

「赤い液体がなんじゃこりゃぁっ!! っていう感じにどんどん溢れ返って来てるっ!」
「意味分からん。とにかく落ち着けよ。一体どんなへんた——大変なことが起きたんだ?」
「と、とにかく来いっ!」

ユキノは俺の服の袖を引っ張って玄関まで連れて来た。
この鉄臭い感じといい、目の前の"光景"。綺麗な真紅を帯びた液体が——綺麗な美女の体の下から水溜まりを作っていた。
つまりは、血が流れ出ていた。

「うぅ……」

うめき声をあげる美女。柔らかな顔立ちはいかにも大人の女性という感じを漂わせるが、まだ20歳にもいっていないだろう。
長い黒髪が血の水溜まりに浸されており、先端の方は黒色ではなく、赤色へと染まっていた。
傷は体中のあちらこちらにあり、まさに血まみれの状態だ。——本当に大変だな。これは。

「お、おいっ! 大丈夫かっ!?」

急いで俺は血まみれの美女に話しかける。美女は軽く瞑っていた目を力無く開けた。

「こ、ここが……英雄殿の住む館でござるか……?」
「え、えーと……! ——あ、あぁっ! 英雄かどうかは分からんがとりあえず英雄みたいなもんだっ!」

自分でも何を言ってるのかよく分からなかったが、ここはこういっておいたほうがいいと思った。
英雄じゃないと言った瞬間、口から血を出して死にそうだったからな。
美女はゆっくりと再び目を閉じていく。俺の額にはいつの間にか汗が滲んでいた。

「とにかく運ぼうっ! ユキノっ! 手伝ってくれ!」
「あ、あぁ、うんっ!」

俺とユキノはなんとかして運び出すことに成功したが、この重傷だとここから救急車が来ても間に合わないだろう。

「どうしたもんか……」
「……しょうがない。やるしか、ないか……」

ユキノが何か呟いて自分の頬をパシッと叩いた。何を始める気なんだ?

「私が治療するから、どっかいってろっ!」
「え? お前医者だったのか?」
「なわけないだろっ! 治療魔法使うんだよっ! ——とにかく、どっかに行ってろよっ!」

と、俺は美女を運んだ部屋から追い出されてしまった。治療の魔法ってどんなものなんだろうと気になったが——入れば俺が美女のように重傷を負うことになりそうなのでやめておいた。
その場でペタリと座り込んでしまった俺は息を吐く。そして自分の手が美女の血で赤く染められていることを知る。

「うぉ……手、洗ってこなくちゃ——!?」

洗面所に向かおうと立ち上がった瞬間、鋭い頭痛が走った。それは今まで経験してきたどの頭痛よりも遥かに痛いものだった。

「ぐ……っ!?」

あまりの痛さにフラつき、倒れこんでしまった。少しの間、もがくようにしてバタバタと足と頭を揺らしていると、痛みはゆっくりと消えていった。

「い、一体なんだったんだ……?」

血を見た瞬間、鋭い頭痛が走ったことに何か違和感を感じざるを得なかった。
何だろう。引っかかることがあるような……。変な感じがする。

「とりあえず、洗いに行くか……」

俺は洗面所にゆっくりと足取りを刻んでいく。

案外楽に事が済み、いつも通りの日常に戻れると思った矢先の出来事。
そういえばあの美女、妙に武士らしい言葉遣いだったし、刀のようなものが腰らへんにあったような、なかったような……。
運ぶのにあまりに必死で、俺はあまり記憶になかったが。
とにかく、だ。——とりあえず責任者でてこい。
そんでもって、この面倒なことに巻き込まれそうな予感がするのを打ち払ってくれ。



説明その2っ:とりあえず責任者でてこい(終)