ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.30 )
- 日時: 2011/03/11 00:14
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「モンモン討伐、ユキノと武士さんにお願いします☆ あ、ついでに香佑君も宜しくお願いしますね〜☆」
「……え?」
俺達は驚いて、開いた口が塞がらなかった。えーと? なんだって? モンモン討伐?
確かモンモンっていう奴は——アンパンマンみたいな奴らしいな。
「レベルはですね〜……S級でいきましょう☆」
「え、S級!?」
レベル? 何? そんなのあんの? モンモンとやらに。
「モンモンのレベルは、W・E・D・C・B・A・S・SS・SSS・SMKとあります☆ ちなみに、一番強いレベルはSMKですよ〜☆」
最高レベルはSMKで、一番低いレベルはWということか?
Wはなんとなく由来は分かる。ワースト、という意味でWなんだろうな。——違ってたら俺の英語力に泣くね。テスト当日。
「SMKは何の略なんだ?」
「スーパーマキシマムキングの略です☆」
何だそれ。聞いたことねぇよ。スーパーマキシマムキングって……何か強そうな感じするけどな。
「スマキなんか相手にしたら、木っ端微塵だぞっ!」
スマキって——スーパーマキシマムキングのカタカナ略バージョンか。スマキって、何だか"簀巻き"みたいなんだが……
ていうか、木っ端微塵って何がどうなるか分からん。触れたら木っ端微塵なのか、強さが木っ端微塵なのかも分からん。
「それで……拙者も含めて、その中のSレベルのモンモンとやらを倒せばよいのか?」
「そうですね〜☆ それで許してあげます☆」
レミシアはウィンクして結鶴に返す。うん。普通に可愛いと思った。
ていうより、俺ついでか。今更のツッコミだけど。ついでに俺も戦えってか。
「Sレベルとか言われても、その強さの度合いが俺にはよく分からない。例えば、どのぐらいなんだ?」
「そうですねぇ……あ、今の香佑君が一人で相手にしたら、本当に木っ端微塵になるぐらい、ですかね☆」
俺的にとんでもなく危ない情報聞かされたぞ。今、軽々と言ってくれたけどなっ! すごく情報度キツいよ、それっ! 半ばユキノが言ってたことは間違いではなかったっ! SMKレベルだったら俺、どうなるんだろう。
「SMKレベルだと、存在が飛びます」
「ひぃぃぃぃっ! 恐ろしすぎるっ!」
——俺を白い目で見ないでくれ、ユキノに結鶴よ。
レミシアはそんな俺達を見て、クスクスと笑い声をあげる。
「まあ、そういうことで——頑張ってくださいね☆ 後ろ、来てますから」
「「——え?」」
ふっ、とレミシアの姿が消えてなくなり、俺達は声を重ね合わせることになる。
最後に残した言葉って、何? 後ろ、来てます?
後ろを振り返ること、コンマ何秒だっただろう。俺達は一斉に振り返ることになった。
「もにゅっ!」
「「………」」
そして絶句することになった。
可愛らしい小動物の声をあげて立っているのは——リスのぬいぐるみを着た、どっからどうみても人間様様だったからだ。
「茶色の純粋瞳だっ!! 離れろっ!」
え、何? 茶色の純粋瞳っていうの? この可愛い小動物。
「離れる心配本当にあんのか? こんなにもかわい——」
グシュッ! という、実に気持ちの悪い音が俺の耳を貫いた。
そして、何かの液体が俺の顔にかかる。生暖かい感じがしないでもない。
そして何故か、さっきまで隣にいたユキノが——目の前にいたんだ。
何故か震える手で、ゆっくりと自分の頬を触ってみると——ベットリと、自分の手に赤い液体がついた。
これは、血だった。匂いがまさに結鶴が血だらけで倒れていた時に放たれていた匂いと同じだった。
「え……?」
よくよくユキノの姿を見ると、何かがユキノの腹を——貫通していた。
そこから血が滴り落ちる速度は、全く止まることを知らない。ユキノの目の前にいるのは——あの可愛い小動物だった。
小動物の腕が変形しており、それがユキノの腹部を貫いたのだと分かる。
何もかもが、突然のことすぎた。そして、今真っ白になりかけの使えない頭の中で真っ先に理解できたことは。
——俺をかばって、ユキノは腹部を貫かれたのだと。
「ユキノっ!!」
俺の何とか奥底から搾り出した叫び声とほぼ同時に、ユキノの体から鋭い何かが抜かれた。
あまりに見るのはおぞましい、腹部のグロテスクな傷跡がユキノに残っていた。
「もきゅきゅ〜。バカだな〜、油断してたしてたとか」
可愛らしい小動物は、捻れて鋭く変形している手を。ユキノの血が滴り落ちる手を小さな舌でなめた。
ユキノは真っ青な顔をして倒れこむ。そのユキノを俺は、しっかりと抱きかかえた。
「おいっ! ユキノっ! しっかりしろっ! ユキノっ!」
ユキノは青ざめた顔のまま、まるでもうすぐ死ぬかのような表情をしていた。とても、苦しそうな表情をしていたんだ。
「こんなこと、手伝おうなどとは欠片も思わなかったが……一泊の恩と傷の治療をまだ——拙者はユキノ殿に伝えておらんのだっ!!」
結鶴は刀を鞘に納めた状態で、モンモンに向けて駆け出していく。
「早く貴様を倒し、拙者がユキノ殿を助ける番っ!」
言い放ち、身構えるモンモンと少しの距離のところで結鶴は止まる。
刀を腰に身構え、居合い斬りのような形に入った。目を閉じ、魔力のような淡いオーラが結鶴を包んでいく。
「——神速・謳歌一閃っ!!(しんそく・おうかいっせん)」
目を勢いよく開き、それと同時に刀を——抜き放つ。
それはコンマとかそんな秒数などでは計れないほどの速度。
遠くにいるはずのモンモンが衝撃のあまりに後方へと吹き飛んでいく。結鶴は既にその頃には鞘へと刀を完全に納めていた。
そんな結鶴の戦いを見ることもなく、一心不乱に俺はユキノを抱きかかえてどうすればいいのかを考えていた。
「クソッ! どうすればいい……!」
病院に連れて行くにしても、この辺りに病院はない。少し遠い場所にあるが——これだけの重傷だ。間に合わないだろう。
それよりも何故、ユキノが自分を犠牲にしてまで俺を助けたのか、いまいちよく分からなかった。
「ユキノは、他人の血を見るのが大嫌いなんですよ〜☆」
先ほど、姿を消したはずのレミシアがいつの間にか俺の真横に笑顔で立っていた。
「昔、ユキノは色々ありましてね〜☆ そのせいで、正義感がさらに強くなっちゃったり、そのことに一番関連している魔王を倒したがってるわけなんですよ〜☆」
「色々なこと……? 何だ? それは。ていうより、先にユキノを助けてくれっ」
「それを聞いちゃうんですか〜☆」
クスクスと笑うレミシア。目の前でユキノが腹貫かれて死にそうだというのに能天気なことだ。助けてくれと言っているのにスルーまでしやがる。
「その子が何故香佑君をかばったのか。それは——失いたくなかったのでしょうね☆ 守るべきものを」
「守るべき、もの? 俺が?」
「はい☆」
自信満々に返事するレミシア。いつも俺に文句ばっかり言ってるこのユキノが?
だんだんと顔が青ざめていっていることを見る限り、もう限界は遠くないようだった。
「勇者は治癒能力か何か、使えるんだろ? それ、ユキノに使ってくれないか?」
「ん〜、お断りします☆」
平然と言うレミシアの言葉に俺はさすがに腹が立った。目の前で同じ仲間が。それも部下が死にそうになっているというのにこの態度。
「お前——!」
「助ける方法、ありますよ☆」
俺の言葉を遮るようにしてレミシアは言う。俺達から少し離れたところでは、結鶴が茶色の純粋瞳と激しい戦闘を繰り広げている音がする。
もう少し頑張ってくれと思いながら、俺は思った。——何としてでも、ユキノを助けたいってな。
「それは、どういう方法だ?」
「ふふっ、知りたいですか〜?」
もったいぶらせながら、人差し指を左右に振るレミシア。可愛いけどな。今はムカついて仕方がない。
「冗談ですよっ☆ 方法はですね〜☆」
俺の目の前までゆっくりと近づいてきて、そしてレミシアは言った。——俺の耳元で。
「香佑君がユキノをキツ〜く抱き締めて、婚約の言葉を耳元で甘〜く囁いてくれちゃってください☆」
「……え?」
勇者ユキノの恐るべき取扱方法がレミシアの口から伝授されたのだった。