ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.4 )
- 日時: 2011/03/17 00:58
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「うわぁぁぁぁっ!! ……あ?」
ベッドの上から起き上がり、俺は叫び声をあげたがそれは何の意味もないことをすぐさま理解する。
俺が目覚めたのは正真正銘俺の部屋のベット上。美少女たちが入ってきた時と定位置だ。
窓を見てみると、半壊しておらずにいつもどおりの殺風景な窓に戻っていた。
「ゆ、夢か……?」
俺は、先ほどのことを思い出す。
確か、窓をぶち壊して美少女5人ぐらい乗り込んできて——俺は、あるものを渡された。
そう、取扱説明書だ。何の取扱説明書なのか意味が全く分からない謎の説明書。
でも、あれは夢だ。現に窓も直ってるし、取扱説明書も——あった。
「丁寧に見えやすいところに置いてくれてるな……」
取扱説明書があったのは、俺の丁度腹上にあたる部分だった。
魔性の匂いがするその取扱説明書は正直、触れたくもなかったが紙切れが一枚、取扱説明書に挟まっていた。
それが妙に気になったので抜き取り、見てみると——
『窓直していけよ、ということでしたので窓はちゃんと直させていただきました☆』
と、可愛らしい文面が綴られていた。
あの美少女の内の一人が書いて置いたものなのか? え? 確か大空にバイバーイしたはずじゃ?
また戻ってきて直してくれたのか。ご苦労さんなこったな。
——ってそうじゃねぇっ!?
「あれ夢じゃないのかよっ!!」
問題はそこだった。
何の説明もなく、いきなり美少女が数人窓を壊してぶっ飛んできて、取扱説明書と書かれた雑誌を俺に渡す、と……。
——警察に被害届け出しても「帰れ」といわれるだけだろうな。
とりあえず、だ。
「学校に行く用意、するか……」
あぁ、わけが分からないな。学校に行けば何か変わるのだろうか?
高校一年になってまだまもなく、もうちょいと経てば夏休みに入るだろう頃合な時期に、わけの分からんことに巻き込まれた。
取扱説明書は——何か不気味だしなぁ……一応、ネタとして持っていくことにするか。
俺は、左手に取扱説明書を持ち、扉を開けて自分の部屋から出た。
家庭内事情を説明すると、俺は一人暮らしである。
高校生で一人暮らし、といわれるとは思うが少し事情というものがある。
親はお互い単身赴任でずっといない。そうだな、俺が中1の時からだからー……3年ぐらい? まあ不在。
姉が居たりもするが、姉も別居しているために不在。
妹も居たりするが、俺と二人で暮らすのは無理とか何とかの理由かは分からないが親の方にということだ。
——そう思ったら涙出てきますね。何コレ、悲しい。
実家、ということにもなるが仕送りはえらく親からもらってたりもするし、一人暮らしということもあってあまり金には困らない。
それに、今日の美少女が襲撃したことについては一人暮らしでよかったと胸を撫で下ろすほどさ。
てか、アレ何? え、世界からのサプライズか何か? ちょ、聞いてない聞いてない。
——とまあ、こんな感じに思ってしまうほど信じられないことだったからな。これでも冷静でいるほうだとは思うが。
「ふぅ……」
一通り身支度を済ませ、適当に昨日買っておいたコンビニ弁当を温め、それを食べながら横目でテーブルの上にあるものを見る。
——そう、取扱説明書である。
いや、マジで異様なオーラ放ってるから不気味で仕方ないんだけど。
「よし……」
そして、俺は勇者となる。
この取扱説明書を開くことを決意したのだ。
——ゆっくり、ゆっくり……! そして……!!
「な……!」
そこに書かれていたのは——
「白紙だったわけかよっ!」
横で大爆笑するやけに面倒臭そうな雰囲気を醸し出す男が一名。
簡潔に言うと——取扱説明書の中は、白紙だった。
そのことでヤケを起こした俺は弁当をガツガツと猛スピードで食べて鞄を持ち——あ、もちろん忌まわしき取扱説明書も共に。くそっ、緊張して損した。
つまりは、現在学校に来ており、自分の教室の自分の席に座っているという形だ。
「まあ、そういうことだ」
俺は嘆息しながら横にいるバカ一名——横渚 槻児(よこすか つきじ)という、珍しい名前の男を相手に答えた。
槻児とか名前の由来、分からなさ過ぎるだろ。
とは言ってもこの野郎とは何故だか友達歴が多いわけで……世に言う腐れ縁という奴なのだろう。
「はははっ! まあでも、羨ましいぜー!」
「何がだ?」
ウザい喋り方で俺の背中をさっきからバンバン叩いてくる槻児——あぁ、ぶん殴ってやろうか? だんだん力強くなってきてるし。
「だってな、いくら夢でも美少女5人ほどに笑顔で囲まれるってそうそうねぇぜー!」
「皆武装モードでもか?」
「ヤンデレ、いいねぇっ!」
もうお前、土の中に埋まれよ。ヤンデレに八つ裂きにされろよ。何かだんだん鬱陶しさが込み上げてきた。
「この取扱説明書があるっていうことは夢じゃねーよ」
俺は中身が白紙なクセして大きく表紙に取扱説明書、と書かれてある雑誌を机の上へと乱暴に置いた。
「取扱説明書をお前自身で作れっ! ということなんじゃね?」
「いい加減なこと言うなよ。しかも何の取扱説明書だ」
「俺的には美少女の取扱説明書がいいねぇっ!」
万年彼女などいないお前にとっては、そんな代物があったとしても無縁だろうがよ。
とりあえず、そのウザい喋り方から正そうぜ。
「てかよー? 本当に何の説明も無しなのか?」
「あぁ、無いね。笑顔で窓壊して入ってきて、笑顔で俺にこれをくれてやっただけだ」
自分で言っててもえらい迷惑な話だな、とか思う。
でも何故だろうか? この取扱説明書、ただの白紙雑誌でないような気がする。
それはもちろん、美少女たちがいきなり登場したりして、これを俺に渡すってことからして意味が分からないわけなんだが。
——俺は普通の日常が一番だぞ、おい。ややこしいことに巻き込まれないといいんだが。
「まあ、関わりたくなかったら別にほっとけばいいんじゃねぇか?」
珍しく槻児が正論を言いやがった……。——そりゃ美少女も窓壊して入ってくるわけだ。それぐらい珍しいことだ。変なものでも食ったのではあるまいな?
「そうだなぁ……」
呟くように言い、俺は取扱説明書をじっと見つめる。
何の変化もない殺風景な取扱説明書だが、何か起こるような気がしないでもない。
丁度そんなことを考えていたら、不意にチャイムが鳴り、HRが始まる合図を見せた。
「さて、どうするかな」
無為にもこの取扱説明書のせいで授業中も色々と思ったことがあったじゃないか。
そして昼へと入り、槻児と共に飯を食べて(槻児がどうしてもと俺にねだった)学校は放課後の時間となる。
つまり帰宅部は早く帰って寝てろ。運動部はとっとと働け。文化部はこまめに働け。そういうことだ。
ちなみに俺は早く帰って寝てろの部類、帰宅部だ。——何か文句あるかよ、この野郎。
一人の時間っていうのは欲しいものなんだよ。学校だと槻児に他がうるさいからな……。
「ママンっ!」
「誰がママンだっ! 一瞬知らない人のフリをしようかと思ったわっ!」
いきなり今まで呼ばれたことのないような名前で槻児がウザくも寄ってきたことに本気でウザくてならない。
こいつは俺にウザいことをするために生まれてきたのか? 悲しい人生だな。
「アメリカンドック買ってくれっ!」
あぁ、だからママンとか公民の場で言ったらちょっと頭おかしい人扱いされるようなニックネームで呼んだわけか。
——欧米っていう線だけでだが。
全国のママンさん。ごめんなさい。ママンさんをなんだか否定したみたいになっちゃったので、一応謝っておくことにする。
アメリカンドックといえば、最近近くのコンビニが潰れた後地に開店したあの店のか。
美味いとか聞いたことがあるが、一度も食べようなどとは思わない。
何故かって? このアホ槻児がついてくるからだ。
「黙れ。自分で働いて自分で買えよ。ママンはもう卒業しろ」
「何だよー。ケチケチすんじゃねぇよー。俺の中のママンは神のように神々しいぞ?」
お前の中のママンはとんでもない存在なんだな。今の発言、すげぇマザコンっぽいけどいいのか。
「でもマザコンっぽいからやめとくわー!」
そして言ったことをウザい口調でドタキャンする。……笑えねぇ。こういうところがまたウザいんだよな。
「あぁそうかい。じゃあ帰ってゲームでもしてろよ。根暗ママン」
「根暗ママン? あははっ! 何言ってんだ? お前」
うぜぇ——ッ!! 何だお前っ! 自分からママンネタを持ち出してきたんだろうがっ!
俺はそんなアホ槻児を華麗に無視してそのまま帰宅しようとする。
「あ、待てよっ!」
「何だよ、ヒモ野郎」
渾身の皮肉っぽく言ったつもりだがこのアホには全く聞いてないようだ。——まったく、やれやれだな。
槻児は俺にグーサインを突き出して気持ち悪い笑みを浮かべる。
「俺が奢るから、いこうぜっ!」
「まだママンの話を引きずってたのか。いい加減にしろよ。しつこいのはお前の顔だけで充分だ」
「ちげぇよっ! ママンじゃなくて、アメリカンドックの話だっ!」
食い物の話か。あ、いや、待てよ。こいつのアホさを考えたら——アメリカの犬のことかもしれん。いや、そんなまさかな。
奢るとかなんとか言ってるしな。まあ、そんなことはないか。
「よしっ! 早く行くぞっ!」
「分かったから服を引っ張るな。これ以上引っ張ったら新しいのお前に買わせるからな」
「ひどくねぇっ!? その扱い! パパンショックですよー」
誰がパパンだ。お前がパパンになったらさぞかしママンは可哀想だろうよ。
「いくぞ、ママン」
「って相手俺かよっ!」
俺は槻児パパンに服を引っ張られ、やむをえず着いて行くこととなった。
「……目標、捕捉。これより——英雄の取扱説明書の持ち主、嶋野 香佑を抹殺する」
影で、何かが動き始めていたことも知らずに。