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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜第四話開始っ ( No.44 )
日時: 2011/06/04 14:44
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)

「これは、何だ?」
「いや、聞かれても困る。俺も判断しかねてるんだ」
「開けてみようぜっ!」
「待てっ! 罠かもしれんぞっ!」

結鶴の一言はとても重みがある。そう、罠かもしれない。——天界から荷物きたとか、学校で誇れるかなぁ?
きっと誰も信じないだろうな。それも、生物が送られてくるなんて。
それにしてもこの箱、妙にでかいし、重たかった。生物なんて書いてあるが、食べ物の方なのか? それとも——

「これ、何て読むんだ?」

唐突に出たユキノの質問に俺は返す言葉を戸惑わせる。
もし、これが——"ナマモノ"とは呼ばずに、"セイブツ"なのだとしたら……。何か嫌な予感がする。

「しかし、開けてみないと何も始まらんだろう」

結鶴の言葉も確かだ。生物はナマモノと呼ぶにしても、セイブツと呼ぶにしても、どちらにせよ困るのは事実なわけで……。
個人的に、セイブツは色々面倒臭そうなことになりそうだから避けたいんだが……どうも気になる。

「開け……るか?」

試行錯誤の末、ようやく導き出した答えがこれだった。
ユキノと結鶴は、双方の顔を見合わせた後、俺の顔を見て頷いた。
なんだか、こういうのって緊張するよな。——まるで修学旅行先のお金入れないと見れませんテレビを見る時ぐらい……おいそこ、バカにするなよ。

「い、いくぞ……?」

俺は二人の頷きを確かめた後、ゆっくりとその大きい箱に手をかけた。
普通のガムテープに思えるものをビリビリと効果音をたてながら破き、中を——開いた。

「「こ、これは……!」」

俺達三人は、見事に声が重なった状態で発声することになった。
その原因はもちろん、目の前の箱の——中身にあった。

「すー……すー……」

寝息、が箱から漏れてくる。どうやらセイブツのほうだったようだ。
だが、問題はそこではなかった。

「えーと……これ、説明できる奴、挙手」

俺の言葉に、皆が手をあげる。——控えめに、だけど。
俺は今、常人の人間では体験しようのないとんでもないことが目の前で起こっている、らしい。


「これって——天使?」


ユキノの発言は、爆弾発言でもない。
小さな幼女のような体に、普通に人間の体。いや、一般の人間より肌が透き通ってる気がする。
それはともかく、問題は背中に生えているものだった。
白く、小さく畳んでいるその翼は、童話やゲームとかでしか見たことのない代物だった。
これはもう、天使と呼ぶ他はなかった。

「って、何で二人ともそんなに驚いてないんだよっ!」

それと、この女の子達の反応な。全く驚く素振りも見せず、普通に天使であろう幼女を眺めている。

「これ……ただの天使じゃない」
「天界から何故、このような……」

何かぶつぶつと二人が言っているのだがよく聞こえない。
天界からってところから、そもそも気付くもんだった。天界で、生物=天使ってか。——さすが、非日常はなんでもありだな。

「ん……」

幼女が、ふと目を覚ます。綺麗な澄んだ青色の瞳がこの幼女の雰囲気といい、感じといい、ピッタリだった。

「「ッ!?」」

だが、その瞬間、ユキノは戦闘するかのように構え、結鶴は刀を構えた。いわば、戦闘態勢というところだ。

「いや、お前ら落ち着けよっ! 何で戦闘態勢に!?」
「香佑っ! 離れろっ! そいつ——ただの天使じゃないっ!」
「え?」

俺は、ユキノの言ってることが分からずに天使の方へ向く。だが、その幼女の天使はただ呆然と戦闘態勢に入っている二人を見つめるばかり。
無表情なので、何を考えているかも分からない。ただ、害はないんじゃないかと思える。

「大丈夫、だろ? こんな小さい女の子だし——」
「いや、潜在能力はおぬしより遥かに上だ。存在を軽く消し飛ばせるほどに、な」

どんだけ強いんですか、この幼女。潜在能力ってことは、今は出してないってことだよな?
何、スーパーサイヤ人みたいになるのかよ?

「——こ?」
「え?」

何か、幼女が小さな声で話したような気がした。それも疑問詞だったような?

「ここ、どこ?」

可愛らしい声で、次はハッキリと聞こえた。
この幼女、どうやら迷子らしい。




どんだけ潜在能力がサイヤ人級でも、迷子には変わりはない。ということもあって、俺はこの幼女にお菓子類を出して話を聞くことにした。
渋々、俺の家に居候する女の子二人は戦闘態勢を解除したが——以前として、この幼女な天使を観察中だ。
にしてもこの幼女な天使、すげぇ無口なわけでだ。

「えーと、これで3回目だけど……名前は?」
「………」

だんまり状態を決め込んでいるわけだった。
ただただ菓子を食らう。それもその菓子というのは何故か——マシュマロだけだった。
丁度家にマシュマロが結構あったので(結鶴の影響)どこからか買っていたものなのだが……まさかお気に召すとは。

「これ……」
「え、え? どうした?」

突然、口を開いたので焦りながらも俺は何があったのか聞いてみたが——

「これ、美味しい」
「……マシュマロっていうんだ、それ」

マシュマロのことだった。自ら何か打ち明けてくれるものかと思ったんだが。
てか、冷静に考えると、おかしな話だ。目的が読めない。
俺を倒して取扱説明書を奪いに来たのだろうか? にしては敵陣のマシュマロ食いすぎじゃね?
それも、配達で登場とか、どんだけ無防備なんだよ。——天使なら空から飛んで来いよ。
ともかく、居候娘二人の視線がとても痛いこともあるし、名前を聞かないと何も始まらないこともあり、こうして聞いてるんだが……

「名前、いい加減教えてもらえないか?」
「……名前?」

ようやく俺の言葉に耳を貸した幼女な天使は、マシュマロを手に持ちながら無表情で俺を見る。

「そう、名前だっ! 教えてくれな——」
「無い」
「……え?」
「名前など、無い」

突然の告白に俺は戸惑うことになる。
名前が、無い。当たり前のように名前があるかと思っていたが、まさか無いだなんて思わなかった。

「二つ名なら、ある」
「二つ名?」
「二つ名ってのは、天界、冥界とかに済んでいる職種の奴が持っているコードネームみたいなもんだっ!」

俺が二つ名、という単語に訝しげな顔をしたためか、横からまさかのユキノが口出しをしてきた。
てか、冥界もあんのか。なんていうか、世界ってとてつもなく広いんだなぁと今更ながら感じたよ。

「私の二つ名は——碧翼の後光」
「「な……!」」

幼女な天使が二つ名を口にした時、何故かユキノと結鶴の表情が強張った。——え、何かすごいの?

「何をそんなに——!?」

ゴシャアアアッ!! という、なんとも無惨な瓦礫が崩れる音が外の方から聞こえた。
おいおい、一体今度は何だってんだ? せっかく緩やかないい生活が送れていたと思ったが……。
慌ててカーテン越しに外を見てみると、そこにいたのは——

「姫様、迎えにあがりました」

騎士の如く、膝を地面につき、庭で俺の家を拝んでいるとしか見えないその——巫女服に似た服を着ている女の子。
後ろの方には、刀が三本装備している。長く、綺麗な刀っぽいというのは、カーテン越しでも分かる。
何より、その女の子の綺麗な顔立ち。耳につけている大きめのリボンが可愛さを彩り、服装が巫女服に近いというのがまたなんとも——

「ま、魔装武装まそうぶそうではないかっ!!」
「は? 何それ?」

結鶴が驚いた声をあげて外へと駆り出て行く。
待て、という掛け声をも届かずに結鶴は部屋から消えて行った。依然として、隣にいるこの幼女な天使はマシュマロを食べていた。

「魔装武装ってのは……天使の力を持つ——人間に近い化け物みたいなやつだっ!」
「アバウトだな、相変わらずっ!」

俺は隣にいる幼女な天使の手を取り、急いで外へと出て行く。

「あ、おいっ! 香佑!」

幼女な天使は、抵抗することもなく、俺に引かれるがままについて来る。その後をユキノも追いかけていく。
ドアを開けると、そこには——

「ぐぁぁぁぁっ!!」

首を絞められ、もがいている結鶴の姿があった。
何で、どうしてこんなことになってる!? 結鶴はその他に肩や腹などから血を垂れ流している。
その一方、リボン少女は——無傷だった。右手に持っている長い刀からは結鶴の血と思われる赤い液体がポタポタと俺の家の庭を濁していた。

「お前……!」

俺は、幼女な天使の手を離して、リボン少女に近づこうと一歩前に出た。その瞬間、結鶴を軽く投げ飛ばして、俺に顔を向けた。
その表情は——無表情だった。

「貴方が……新たな英雄、ですか」

冷たい、そんな感覚を覚えさせられるような喋り方だった。
ゲホゲホと、苦しそうに結鶴は喉を押さえてむせている。
結鶴は決して弱くはない。それが、いとも簡単にやられてしまっている。その現実が俺に襲い掛かった。

「そ、そうだ……俺が、英雄、だ。一応な」
「………」

無言で俺を見つめるその瞳に、光るものがなかった。何か、虚ろな目をしているようで——怖い、そんな表現も出来るだろう。

「香佑!」

そんな沈黙の中、ユキノが後ろから声をかけてきた。だが、そんなこと俺の耳には入らない。
長い刀についた結鶴の血がポタポタと落ちる中、それを振り払うように、一閃横になぎる。
俺の目の前の地面に、その血が横一線ビチャッという効果音と共に、落ちた。

「姫様を、返してもらいましょうか」

姫様? もしかして、この幼女な天使のことか? これはユキノと結鶴が二つ名を聞いて驚いたのと何か関係があるんじゃ?

「では——死んでもらいます」
「え?」

その瞬間、俺の左腕がバッサリと斬り下ろされた。