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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.47 )
日時: 2011/03/24 23:12
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

全く見えなかった。気がついたら、目の前にリボン少女が迫ってきてて。
一体なんだっていうんだ。いきなり俺の家の庭に来て——左腕を斬り下ろしやがって。

「香佑!!」

ユキノの呼び声が耳の中で木霊する中、俺はゆっくりと倒れ——なかった。

「……?」

魔装武装とかいう意味分からん職種か何かのリボン少女が、俺の顔を不思議そうに眉間に小さくシワを立てて睨んでいる。
あれ? 待てよ……? 俺、死なない?
右腕、動かせるな、うん。丁度届く範囲だ。渾身の、一発殴りこんでやる。

「喰らえぇっ!!」
「ッ!?」

俺の右腕が真っ直ぐ力強く伸びて、リボン少女の刀に激突する。——ちょ、痛……くねぇ?
そのままその衝撃のままに、リボン少女は後方へ吹き飛んでいく。土煙は多少なりとも起こったが、見えないほどではない。

「えーと……?」

俺は、自分で自分の状況がよく理解できなかった。とにかく、ユキノと結鶴の表情が驚愕の物と化していることだけは分かったが。
幼女な天使は——マシュマロを未だ食べ続けていた。どんだけ食うんだ。そしてどんだけ家にマシュマロあったんだよ。

「……英雄の、魔力」

突然、幼女な天使が声を漏らした。英雄の魔力? それって魔力を破壊する魔力だよな?

「英雄の魔力が血液と同化し、それによって度重なる攻撃、魔法などに対して無類の堅さを誇る幻影の鎧」

リボン少女が次にボソボソと説明が聞こえる。——なんで相手側から説明が毎回来るんでしょうね。
何にせよ、何か俺の体はすごいことになっているみたいだった。なんていうか、サイヤ人じゃない? これ。
左腕が斬られたはずなのに、俺の体に何の異変も——いや、服が切れてる。でも、体には何の影響もない。

「俺、何かいますげぇの、か?」
「お前……! いつの間に英雄の魔力を鎧化出来るようになったんだよっ!」

何? 鎧化って。
何か知らず知らずの内になってるようだった。——おいおい、レミシア。一体俺に何をしたんだ? 普通の人間じゃなくなるって……。

「面白い。——英雄、相手をしてあげます」

リボン少女は、今手に持っている綺麗な刀を素早く仕舞うと、次に——先ほどの刀よりか分厚く、重みがありそうな刀を取り出した。

「画竜——点睛!(がりょうてんせい)」

その一言で、その刀は神秘の如く、赤と白のコンテラストと共に——その光は刀を包み込み、リボン少女の手をも包み込む。

「香佑! やめろっ! 死ぬぞっ!」

ユキノの言葉が後ろから聞こえるが——退けるわけねぇだろ。お前がいるんだし、何より、生活のための家が後ろにある。

「ちょっとぐらい——かっこつけさせろよ」

俺はボソリとそんなことを呟いて、目の前の素人でも分かる、とんでもなく危ない化け物のような存在感溢れるリボン少女に対峙する。

「クソ……! 僕に魔力があったら!」

ユキノが握りこぶしを作り、歯を食い縛りながらも呟いていることに気付かず、俺は目の前のリボン少女を見つめる。
なんていうか、威圧のようなものがものすごく伝わる。これは逃げないといけない、と体が反応している。
でも——逃げられない。逃げたら、俺はまた昔と何も変わらない俺になるから。

「こ、こいやぁぁぁぁっ!!」
「百花楼蘭の如し——!」

リボン少女が神速のようなスピードで俺の目の前に——!

「——謳歌・竜泉っ!!」
「ッ!?」

リボン少女が俺に斬りかかろうとしたその時、何かが横から斬り上げるかのように吹き上がっていく。
それをリボン少女は見切り、軽々と受け流して後ろへ飛び去る。
俺は——あぶねぇ。もう少しで体吹き飛んでましたよ。
龍の如く、地面から上空に上がる斬撃を放ったのは、傷だらけでも刀を構えている結鶴だった。

「おいっ、クソ野郎! 手伝ってくれまいかっ!」
「クソ野郎って! まあ、さっき助けてくれたから——いいけどよっ!」

地面を蹴り上げて俺はリボン少女に近づく。リボン少女は結鶴の方を向いているはずなのに——刀を横に向けて俺への対処を行う。
その隙を狙って、結鶴は構え——

「謳歌・一閃!」

凄まじい轟音と共に——って、俺ごと斬り裂く気かよっ!
まあ、何かすげぇ鎧か何か知らないが、装備があるみたいだから構わないっちゃあ、構わないがな。
鋭い斬撃が俺ごとリボン少女に——!? って、リボン少女いねぇっ!?

「百花楼蘭、サクラの如く」
「えっ!?」

後ろにいましたとさ。ズバズバズバッッ!! っと、凄まじい斬りの連続が俺の背中に——! 痛い痛い痛いっ!

「ちょ、待ったぁぁぁぁっ!! 痛いっ、てーのっ!!」

体を回転させて裏拳で殴りかかってみる、が——え、また消えた?

「龍尾断頭」
「次は上かよっ!!」

凄まじい速さで俺を刀は一刀両断する。え、いや、これ死んだろっ! と、思ったがまさかの生きているというこの状況。
俺、何なんだ? 本当に一体俺の体に何が起きたんだ。頭からゴツッ! と、凄まじい音がして切り伏せられたぞ? 俺。

「いってー……! いや、でもこれ痛いではすまんだ——ぶっ!」

俺が立ち上がろうとすると思い切り刀の柄の部分で殴られてぶっ飛ぶ。どんだけ怪力あるんだと言いたいが、もう無茶苦茶だ。

「居合い斬り——! 黄泉こうせん

目で追えないほどの速さで、結鶴から居合い斬りが放たれるが——軽々と受け流すリボン少女。どんだけ強いんだよ、この野郎。

「英雄の魔力というのは、これほどにも強靭なものなのか」

リボン少女は呟いた後、白と赤の光が重なる魔力が大きく唸りをあげる。

「何だ、これ……」

この体中にひしひしと来る感覚、これが魔力なのか?
だとしたら、この威圧感は——どんだけこいつの魔力は多いんだよっ!
やがて、剣状のものへと魔力は固められていく。だんだん大きくなっていっているが——。
これ、振り落としたら大変なことになるだろ。俺達だけではなく、街の人も。

「姫を、返して貰う」
「姫って……! この天使のことかよっ!」

俺は立ち上がり、天使を指差して叫ぶが——最後のマシュマロを呑気に食べていた。

「そうだ。この方を——! 返して貰おう!」
「返して貰うも何も、こいつから——! ちょ、待てええええッ!!」

こんなバカみたいにでかいのをぶっ飛ばされたら——家どころか、この街の多くは壊滅するだろっ!

「死滅——繚乱!」

リボン少女が——! バカでかい魔力の剣状のものを放——!?


「待って」


小さい、綺麗な声が聞こえた気がした。
辺りが一面、光に包まれていく。その眩しさゆえに俺達は目を閉じてしまう。
その光が無くなった後、剣を手から発する"何か"で受け止めているように見えた。
それも、受け止めているのは——姫とか呼ばれる幼女な天使だった。

「ひ、姫様……!?」
「……無用な殺しは、よくない。それに——」

幼女な天使が俺の顔を一瞬だけ見て、リボン少女に向き直り——

「ご馳走に、なったから」
「……?」

そう呟くと、幼女な天使はリボン少女を後ろ目にして庭から去っていく。
その姿をしばらく呆然と見終えた後、慌てて刀を仕舞い、俺達に目も暮れずにその後を追いかけていった。

「一体、何だったんだ……?」

俺は呟きながら、あまりの疲労で膝が折れて地面へとへたりこむ。

「このアホーッ!!」
「ぶはっ!!」

だが、そんなへたりこむ余裕などなく、勢いよく俺はユキノに蹴り飛ばされたのだった。