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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照400突破っ ( No.53 )
日時: 2011/03/25 21:47
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

「お前、また死ぬ気かよっ!」
「いや、何がだっ! わけを説明しろっ!」

庭が荒れに荒れて、見るも無惨な形になっているが、俺達は一旦家の中に戻り——現在、俺はユキノに怒鳴られている。
ちなみに結鶴は別室で包帯を体に巻いたりと、自身の治療を行っているようだった。

「武装魔装に挑むなんてっ! それもよりによって"あの"碧翼の後光"の!」
「意味わかんねーからっ! ちゃんと説明してくれ!」
「つまりな——!」

あーだこーだとユキノのアバウト説明を聞いて頭の中で整理していくと、だんだん分かってきた。
武装魔装というのは、巨大な魔力を持った天使の護衛のことを言うそうだ。
天使と契約することによって、その巨大な魔力のうえに契約した天使の力を微量だが授かるとかなんとか。——どおりであんなに強かったわけだな。
そんで、天使というあの幼女。ただの天使じゃないと見たのは潜在能力があまりに大きかったためらしい。
だが、それもそのはずとかなんとか。天使の中でも上級の高い姫たる天使なんだそうだ。——だが、しかしだ。

「でも、あいつは、碧翼の後光は——堕とされた天使だ」
「堕とされた、天使?」

俺の言葉に頷くユキノ。仁王立ちしてるところが何か偉そうだが。

「——つまり、天使というわけではなく、堕天使というわけだ」

ドアが開き、そこから聞こえた声。結鶴がそのドアの隙間から顔を覗かせていた。

「あの幼女が姫とか堕天使とか言われてもなぁ……ピンとこねぇし、大体なんでそんなすげぇ奴? が俺の家に配達物として届くんだよ」
「いや、場所はどこでもよかったのだろう。それとも——」

結鶴は俺の顔を真顔で見つめてくる。その姿に俺は首を傾げたが、結鶴はそっぽ向いてしまった。

「ともかくだっ! 去ったからいいじゃん! 別に危害加えるってわけでもなかったし!」
「まあ、そうだけどな」

俺は、そういって頷くが——結鶴の様子がどことなくおかしかった。その予感は的中し、突然ドアを開いて家から出て行こうとする。

「おいっ! 結鶴! どこに行くんだよっ!」

俺が呼ぶと、結鶴は歩く足を止めて、俺とユキノには振り返らずただただ——無表情で、口だけが動いた。

「……おぬしらには、関係ないことだ。私の——任務だからな」

そういい残すと、足早に結鶴は家から出て行った。少しの間、俺とユキノは固まってしまっていたが、ユキノが手を振り上げて声を発する。

「あ、待てよっ! 侍バカっ!」

——ユキノ、結鶴のこと侍バカって呼んでたんだ。
いや、そんなことよりも、私の任務って一体何だ? 任務があるからとかなんとかで俺の家に居候してて?
もうわけのわからないことが多すぎる、ていうか——身勝手すぎるんだよっ!

「おいっ、ユキノっ!」
「え、あ、え、あぁっ!?」
「何だその返事っ! いや、まあいいけどっ! 結鶴を追いかけるぞっ!」
「は? 何でっ!」
「何か隠してるような気がしてなっ! ていうか、絶対——あの幼女天使が関わってるだろっ!」

俺は適当にジャケットを羽織り、俺は急いで玄関を飛び出そうとする。

「あ、ユキノはここにいてもいいぞっ! 魔力、無いだろ?」

魔力のない状態のユキノは、普通のか弱い女の子そのものだ。——俺を殴る時はゴリラかとは思うが。
ユキノも俺に続いて外に出ようとしていたので、言ったが答えは——

「ふざけんなっ! 少しは魔力回復してるし! 役に立てることぐらい、いっぱいあるしっ! ——お前より!」

あ、うん。最後の言葉余計だな、うん。俺、結構強くなってるっぽいから、少しは期待してくれてもいいんじゃない?
そんなことを思いながら、俺とユキノは外へと出かけた。




結鶴は、敵わないと分かっていてもあの天使たちに挑もうとするのはわけがあった。
堕天使、それは天使から剥奪された——いわゆる落ちこぼれという意味。
あの幼女、それもあれほどの高い位についていた天使が堕とされるというのは滅多にないことだった。

「拙者は——!」

結鶴の記憶に残る、残像。
その中に、あの堕天使がいたのだ。燃え盛る自分の故郷の真ん中に、一人。
魔王の軍勢から襲われた、というがそれも本当だ。拙者たち、剣客が魔王の"世界を再構築させる"という計画に反対したから。
だが、あの堕天使は——!
罪も無き剣客たちを破滅へと追いやった。これだから、天使は嫌いだった。
人間界では天使は幸せを運ぶような存在だと思われているが、そうではない。
計画かつ高度な知能を持ち、卑劣な方法で紡ぐ世界を支配しようと考えている鬼畜同然の奴ら。
結鶴は、そんな曲がった奴らである天使が許せなかった。任務、それは個人での復讐を意味していた。
いや——的確に言えば、兄を殺された恨みだった。
結鶴は仇を取ろうと、向かっていったが、既に魔王の軍勢にやられた体では、戦えるに戦えなかった。
気付いたら、香佑の家の前にいたのだ。英雄、そんな言葉がふと頭を過ぎった。
そして、朦朧とした意識の中、英雄という頭に響く言葉を必死に頼った結果が——本当に、英雄の棲家だったというわけだ。

「兄者の仇は——必ず取ってみせる……!」

香佑の家に居候をしたのも、英雄という職種を利用してのことだったが、あれだけの無愛想な態度を取ったのだ。

(もう、あそこには戻れない)

なんていうことを思うのは、自然なことであった。
あそことは、香佑の家のことである。結鶴にとって、唯一の安らぎの場でもあった。
数日間だけであったが、香佑は何も自分の素性などを気にすることもなく、普通に接してくれた。
その心が、傷ついた結鶴の心を安らげたのだった。

今ではたった一人の肉親が死んでしまい、私一人となった。せめて、出来ることといえば——復讐しか残されていなかったのだ。




「姫様……これから、どうなされるので?」

頭につけている大きなリボンを揺らしながら、巫女服がよく似合う端正な顔立ちを珍しく困惑の色に染めながら、武装魔装は前方を歩く白い羽の生えた少女に聞く。

「——天界に、戻る」
「天界に!? 姫様、それは難しいかと思われますが……!」

幼女は立ち止まり、リボン少女を無表情で見つめる。

りん。そうしないと、世界は混乱に溢れてしまう」
「わ、分かっています。ですが姫様、今貴方様は何の権力もお持ちでない。ただでさえこちらに堕とされたことだって……」

燐、そう呼ばれたリボン少女は悔しそうに歯を食いしめながら、握りこぶしを作る。
重度の人見知りである彼女は、親しい者にしかこのような表情の変化は見せない。親しい、といってもこの目の前にいる幼女のみなのだが。

「姫様のお力さえ、完全に戻れば……」

燐は悔しそうに呟く。
そう、今のこの幼女体型は本当の姿ではない。天使である自分はもっと大人びている。
碧翼の後光という二つ名にふさわしいほどの実力を兼ね備えている。
だが、今の姫様は——

「見つ、けた」
「ッ!? 姫様、危ないッ!!」

巨大な槍が上空が光の如く、急激にスピードをあげて落ちてくる。
燐はすぐさま刀を抜き去ると、それに対応して何とか受け流す。

「やっと見つけたよ。——姫様?」
「ッ……! 光点の魔堰こうてんのませき……!」

燐は刀をもう一つ抜き去り、二刀流で構え、戦闘態勢を取る。
光点の魔堰、そう呼ばれた背中から羽が4つ生えているその男は、ニヤリと不気味に笑顔を見せる。

「何の用だ……!」

燐が睨みを利かせながら相手に尋ねると、「何の用?」と復唱し、笑い声をあげる。

「決まってるじゃないか。——天使殺しを謀った恐るべき姫様を、裁きにだよ、燐」
「気安く私の名を呼ぶなっ! この名を呼んでいいのは、姫様だけだっ!」

刀を構え、小声で「下がっていてください」と、姫様と呼ぶ幼女に声をかける。

「ほぉ……姫様の護衛役如きで、私にたてつくというのか?」

男の天使は、またもや光の放つ巨大な槍を出現させ、ニヤリと不気味な笑みを再び浮かべる。

「姫様を二度と——危ない目にあわせるものかっ!!」