ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.58 )
- 日時: 2011/03/27 23:56
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「こっちだっ!」
ユキノが指を差した方向へと、俺は走っていく。
魔力探知なるものが勇者には出来るらしく(他職種も出来るらしいが)それを頼りに、俺達は結鶴が向かったであろう天使の元へと向かった。
曲がり角を何回も曲がり、ひたすら走る。
最近運動とか全然してなかったクセして、凄まじく体力がついたように思う。これも英雄の力か何かのせいか?
いや、それとも一回死んだせいか?
(どちらにしても……助かるな、こういう時)
ユキノもユキノで魔力がないはずなのに息切れ一切していない。俺よりかスピードが速いような気がしないでもない。
……この野郎、化け物か。
「見えてきたぞっ!」
ユキノの言葉に我を返し、少し遠いが、前方に広がる光景を見た。
「何だよ……あの、巨大な魔力っ!」
驚きの言葉を思わずユキノはあげる。
目の前の光景には巨大な光の槍が見え、それがまさに——振り落とされんとしていたからだ。
「あんなの、ありかよっ!」
俺は、正直怖いと感じてしまったこの身体に鞭を打ってでも駆けつけるつもりだった。
また一段とスペースをあげて走ろうとした時——すぐ近くのスーパーが目に入る。
「ご馳走に、なったから」
その一言を不意に思い出したのだった。
もの凄い爆風の中、巨大な光の槍を何とか受け止めた燐だが、魔力を圧縮に圧縮を重ねた巨大な光の槍は想像以上に威力が大きかった。
自身の多大な魔力のおかげで何とか踏ん張れたが、何回もこれが連発すると——恐らく、もたない。
「うん? どうした? まだ立ち上がって戦おうじゃないか」
余裕の笑みを浮かべる、男の天使——光点の魔堰。
それに対してあの一撃だけでも何とか姫様を守れたというぐらいだ。
後方にいる今の姫様に直撃でもしたら——命の危険さえ出てくる。
「くっ……!」
姫様の力が元の通りだったら——この男など、簡単に倒してしまえるというのに。
自分の不甲斐無さが身を知って感じられるようで、今すぐ舌を噛み切って自害したいぐらいだった。
「姫様、いや——碧翼の後光。天使の中で最も犯してはならないことをしてしまったからね……堕ちても当然さ」
「貴様っ! 姫様に向かって無礼なっ!」
「もう姫という位ではないだろう? そう堅いことを言うな」
その事実に、燐はただ俯くしかない。
姫様は、確かに重大な罪を課せられることをした。
同じ天使の者を殺したという罪が表向きとなっているが、実際はそうではない。本当は——
「見つけたぞっ!!」
先ほど聞いたことのある声が、燐の耳に届く。姫様以外のその場にいた燐と光点の魔堰が振り返る。
そこにいたのは——結鶴だった。
「お前……何の用だ」
「黙れっ! 貴様に用はないっ! 拙者は——そこの碧翼の後光に用があるのだっ!」
結鶴に二つ名を呼ばれたが、全く動じずにただ虚空を見つめている姫様の態度に、光点の魔堰が思わず笑い声をあげる。
「碧翼の後光。他の職種にも恨みを買われているのか? 相変わらずの"呪われた天使"と呼ばれるだけあるな」
「ッ……!」
その言葉にだけ、碧翼の後光は反応を示す。無表情なのは変わりないが、その目は真っ直ぐに光点の魔堰に注がれている。
「光点の魔堰……! 調子に乗るのも加減しろっ!」
「おいおい……ただの武装魔装のクセして、俺に何だその口調は。無礼にもほどがあるだろう?」
「黙れっ!!」
燐は二つの刀を仕舞うと、香佑と戦った時に出したあの大太刀を抜き放った。
「画竜点睛……!」
その一言と共に、一気に魔力が湧いて出てくる。赤と白のコントラストを放つ魔力が燐を覆う。
「ほう……本気で俺とやる気か。——いいだろう」
光点の魔堰は、今の状態でも魔力はこの中でズバ抜けているというのに、それをさらに強靭なものとする。
だんだん魔力は増幅し、それは押し固められ、無数の槍が空中へ塵の如く舞い上がる。
「碧翼の後光……! 拙者はお前を許せんっ!」
結鶴も刀を構え、一気に魔力を練り上げる。
「さぁ——始めよう」
光点の魔堰、燐、結鶴の三人が一気に魔力を放とうとした——その時
「待ったぁぁっ!!」
どこでも明るい声を放つ、少女の姿が彼らから近い家の屋根上にあった。
「ユキノ……!? 一体どうしてここに?」
「あれは……」
結鶴と燐がずれて声を発する。
その様子を見て、ユキノは自慢気に笑い、態度をでかくして、声を張り上げる。
「僕は勇者だけどなっ! 今回のところは香佑のアホに譲ってやるよっ!」
そのユキノの言葉と共に——俺は参上した。
「待たせたな——主役の登場だ」
「香佑……!」
結鶴が、初めて俺のことを名前で呼んでくれた。そんなこともあって嬉しさも募るが——何よりまだ無事でよかった。
何が理由かは知らない。何の任務かも分からない。だけど——たった一人で戦うなんて、一番辛いだろ?
「何者だ……」
光点の魔堰が冷めた目で俺を見る。
まあ、そうだろうな。俺も誰ですかって感じだし。
どうせまた敵役なんだろう? 何か俺ら襲ってきた魔装武装も戦闘態勢じゃない?
「よし、分かった。俺が相手になるぜ——このイケメン野郎」
俺はそんなことを言いながら、無数の光の槍が浮いているその男に向かって歩き出した。
だが、その途中に結鶴から当然の如く止められた。
「何をしているっ! 引き返せ!」
「いや、もう何か俺が相手になるとか言っちゃったし」
「お前じゃ相手にならんっ!」
あ、また名前じゃなくなった。——まあ、もういいや。後でどうとでもなる。
「早く終わらせてやるから。だから——戻って来い。俺の家に」
「ッ……!」
俺はそんなキザな言葉を言った後、結鶴の肩を叩いて前に歩み出る。
「お前——死ぬ気か」
「魔装武装? か何か知らないけど。俺は一回死んでるし、もう死ぬのはいいさ。あんなの、一回でいい」
魔装武装に話しかけられたが、それをも遮って俺はイケメン野郎と対峙する。
「言いそびれたから言うけどよ。俺は——小さな英雄です」
「英雄? お前が?」
光点の魔堰は俺が英雄だというのを確認した後、笑い声をあげた。——あー何かムカつく野郎だな。
「お前が英雄などと、何をほざく!? 面白い……! なら、試してやろうっ!」
光点の魔堰は、そんな言葉を吐いて、余裕の表情を浮かべる俺に向けて言い放つ。
「ジャッジメントッ!!」
その一言と共に、無数の槍が全て俺に集中砲火していく。
「香佑ッ!!」
結鶴の一言が耳に聞こえた気がした。
モクモクと、煙が俺の周りから立ち込める——かと思いきや、一瞬だけ電撃が周りに走る。
「うん……? 何だ、この電撃は」
光点の魔堰が首を傾げて電撃を見つめる。
バチバチと唸る電撃が全て取り払われた後——俺の余裕の笑みキタコレ。
「魔力は魔力だな。やっぱ破壊できるみたいだ」
「な……!」
光点の魔堰は、無傷の俺の姿と、俺の全体に迸る電撃——エルデンテを見て驚いた表情を見せる。
まるで「本当の英雄だったのか!」と、声をあげそうな感じだな。
「私と戦った時、あの電撃はなかった……?」
燐も驚きの表情で、伺うような声をあげていたが、香佑はそんなこと耳に入っていない。
まあ、ね。実際のとこは——ユキノが屋根上から回復してる魔力を使って少々の魔力結界をかけてくれたから全部防げたというのもあるけど。
それは秘密にしとこう。そうしよう。じゃないと主役とかなんとか言っておいて格好悪いもの!
「早く終わらせて、帰ろうか」
俺は光点の魔堰に一歩近づく。驚愕の表情から——それは笑みへと変わる。
「やっと、やっと見つけたぞ……。お前が、英雄か……!」
そんな言葉を言い放ち、両手を広げて光の槍を二つ持ち構える。
「英雄の取扱説明書を——もらおうか」
「ッ!?」
もの凄い速さで俺は槍に貫かれた。身が溶けちまいそうな気がするというか、なんというか変な感じだな。
「あぁ! 何してんだよっ! ——でぇりゃっ!」
掛け声は格好悪いとは思ったけど、火の玉みたいなものが俺の前にいる光点の魔堰目掛けて飛んできたが、俺にも少し直撃したりする。
——ナイス、ユキノ。よし、お前は帰ってから風呂洗いと洗濯物をやる命を下さなければならんな。
だが、光点の魔堰はそれを軽々と避けて、ユキノや、周りの人間を見下す。
「ちっ……邪魔が多いな。そうだな……英雄君は、正義感がお強いようだ。なら——これはどうかな?」
光の槍をある人物の元へと投げつける。それは——あの幼女な天使だった。
突然の攻撃に反応しきれないのか、それとも、動く気がそもそもなかったのかは分からない。
「姫様っ!!」
武装魔装の言葉が俺の耳に響く。まあ、そんなことよりもだ。
「おらぁああああっ!!」
「——ッ!」
ガシュ! 身が貫かれるような音、何回したかなぁ?
俺の胸には槍が刺さってるけど——英雄の鎧たるおかげで傷はない。貫いてるのにな。
すぐに抜いて、俺は光点の魔堰に振り返る。
「ほう……英雄の魔力は、不死なのかな?」
ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべる光点の魔堰に、腹が立つ。
俺は一発殴ろうと走り出そうとしたその時——俺の懐らへんから、あるものが落ちる。
それは——俺がここに来る最中に買ったあるものだった。
「マシュマロ……」
幼女な天使が、呟いた気がした。俺はそれに気付き、慌てて拾う。
「サプライズのつもりだったんだけどな……早く終わらせて食べよう、というな。ほら、今で悪いけど渡しておくよ」
と、俺は幼女な天使の手の上にマシュマロの入った袋をのせようとして、手に触れた瞬間だった。
凄まじいほどの光が、俺達を包み込んだ。
「な、何だっ!?」
その光の元は——幼女な……天使? いや、幼女じゃねぇよ。幼女じゃないじゃない。
慎重が伸び、大人びた雰囲気を醸し出した美少女みたいなことに!?
「ひ、姫様の本来の力が——戻った……!」
こ、これが本来の力? 力というか、見た目がっ! すげぇ成長じゃない? 美少女だよ、これ!
背中には白い羽でなく、碧い翼が大きく二つ生えている。可愛いだけでなく、見た目かっこいいし、綺麗だった。
「なん……だと?」
光点の魔堰に冷や汗の滲むような声が絞り出される。そんなに、この美少女、強いんで?
「光点の魔堰——お前を、断罪する」
その一言は綺麗で透き通った声。あの幼女な天使の放つ声そのものだった。
おいおい、何この事態。え、これってマシュマロのおかげ?
状況が一変したのって俺じゃなく——え、これ、マシュマロですか?
説明4っ:え、これ、マシュマロですか?(終)