ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜第4話完っ ( No.62 )
- 日時: 2011/03/30 16:49
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 3Xsa0XVt)
強い日差しが俺へと差し掛かる。
そのおかげで、また一日が訪れたんだと確信する。でも、それは日常茶飯事なことで。
日常茶飯事なことでないといけないことと、そうでなくても構わないことぐらい、この世の中にはある。
それはこの数週間で嫌というほど俺は味わったのだ。
「はぁー……」
俺は今日も自身の部屋のベッドの上で起き上がり、肩を落としてため息を吐いていた。
数日前は色々あったんだ。今の俺の頭の中にはグルグルと数日前の出来事の続きが、何周も廻っている。
「まさか、力を取り戻すとは……! くっ! これは報告しなければ! 今日のところはこれで勘弁してやるっ!」
なんてことを言い放ち、幼女が美少女になっただけで逃げていった敵たるイケメン野郎。
でも、異様な雰囲気を放つ美少女となった幼女は、何かあるのだろう。
呆然と俺は、光に包まれながら消えていくイケメン野郎を見つめていた
「——ッ」
「姫様!?」
魔装武装のリボン少女の声で、俺は姫様たる美少女となった幼女に異変が起きたことを知る。
いきなり倒れ込み、汗がひどく溢れ出ており、息も荒かった。
「俺の家に運ぶぞっ!」
「な! 香佑っ! 拙者は納得いかんっ!」
結鶴が納得がいかない様子で叫び声をあげる。その様子は、受け入れたくても受け入れ難いような、なんともいえない表情だった。
「皆お互い様だっ! 何があったのかは知らないけど、目の前で倒れているやつを放ってなんておけないだろっ!」
俺はその言葉で結鶴を制すると、ユキノを呼ぶ。
「お前ら、姫様に何をする気だっ!」
「何って、運ぶに決まってるだろっ!」
「姫様は私が守るっ! お前らの力など借りたくもない!」
睨みを利かせて俺の顔を見るリボン少女に、俺は——笑いかけた。
「何がおかしいっ!」
「おかしいとかじゃなくて、よっぽど大事に思ってるんだと思った」
「ッ!」
「なおさら、助けないとな」
結局俺は、自分の家に運び、空いてる個室の中に寝かせてから、どういう状況でこうなっているのかを聞く。
それはまさかのユキノが答えてくれた。
「多分だけど、急激に魔力が戻ったから少し耐えられなくなってるんだと思う」
「と、いうことは?」
「香佑っ! こいつの魔力、ぶち壊せ!」
まあ、そういうことか。溜まりに溜まっている魔力が悪影響なら、それを流せばいい。
つまり、壊すということになるか。いくら元に戻れたからといっても、このままじゃどうしようもないからな。
「せっかく元の姿にお戻りになられたというのにっ! 何をする!」
「お前な……それでも護衛かよ? こんなに苦しんでるじゃねぇか。元に戻るとかじゃないだろ」
「ッ……!」
口を挟んできたリボン少女は、俺の言葉に意表を突かれたかのような顔を見せて、握り拳をギュッと握り締めながら、そのまま黙り込んだ。
「よし——いくぞっ!」
(っていうことになって、結局姫様とやらと燐っていうリボン少女は俺の家に泊まることにしたんだよな……)
またため息を吐く。吐かないと、なんとなくやってられん気がしてならなかったからだ。
あれから数日間経ったが、目が覚めない姫様たる幼女姿に戻ったあの天使。文句を言いながらでもここに入り浸る燐っていうリボン少女も。
結鶴はずっと仏教面だし、ユキノは毎回外へ何か出かけたりして、あまり家では見なかったりする。
このまま何事も無ければいいんだけどな。——なんて、甘い考え言ってる場合じゃないな。
「学校の用意、するか……」
今の時期、安らぎの場となったのは予想だにしなかった学校だった。ただウザい槻児と会話するぐらいだとは思った場所だったがな。
暇なら保健室の宮中先生の場所で雑談したり、勝手に忍者の如く寄りそってくる神庭とかの相手をするのも、悪くない。
俺は学校指定のブレザーに身を包んだ後、バッグと買い置きしていた焼きそばパンを持って、早々に外を出かけることにした。
リビングには、誰もいない。ユキノすらもいないと思うと、なんだか寂しくも感じる。
燐というリボン少女はつきっきりで姫様とやらの手を握っていることだろう。
結鶴は——外で素振りか何かしてるんじゃないのか?
用意を済ませ、俺は玄関を開いた。
「はっ! やっ! でやぁっ!」
予想通り、鍛錬に励む結鶴の姿があった。
少々の傷を数日前に負ったために、包帯が昨日まで巻かれていたが、ようやく今日その包帯も取れたようだった。
「よう。今日も鍛錬か?」
「……あぁ。いつ何時でも、奴らを倒せるようにな」
何てことをずっと言ってる。
奴ら、というのは無論、姫様ら二人のことだ。まだ恨みを持ってるみたいなんだが、これは昔のこととかが大きく関わってきてるようだった。
口を挟むのもなんだと思い、大して気にはしなかったが——ここまでくると、さすがに気になる。
だが、理由を聞くのは帰ってきてからにしよう。そうしないと——俺は学校に遅れるからな。
「おっはよーっすっ!」
「何だ? いつもよりウザいじゃないか。槻児」
いつもよりウザさが半端じゃない槻児をジト目で眺めながら、俺は相槌を打った。
「なんだよーっ! ウザくねぇっての! うふふふふぅっ!」
き、気持ち悪い……! さすがにダメだろ、今回のこの気持ち悪さは。口を押さえながら「うふふふ」言ってるこいつの姿は目に毒だ。
「やめろ。気持ち悪い。何かあったのか単刀直入に言え」
「何何っ!? ヤキモチか、コノヤローッ!」
ダメだ。こいつ殴らないとわかんねぇかな。そろそろ血管ぶち切れそうなんだけど、俺。
「早く、言え」
「そんな怖い顔して言わなくてもいいだろっ! しょうがないっ! 教えてやろう!!」
この自信満々な感じ、何だが裏とかありそうなんだけど。
「彼女が出来たぁぁっ!!」
「……お前に?」
「そうだともよっ! 相棒っ!」
誰が相棒だ。お前が相棒だったら名が廃れるばかりだろうが。
「お前、変なもの食ったんじゃねぇか?」
「食ってないって! 一目惚れでな! よし、告ろうっ! って思ってアタックしたら……ゲットだぜっ!」
そんな、ポケモンのサトシ風に言われても。
一目惚れなんてものは、このドアホは日常茶飯事なことと言っても過言ではない。
それに、この学園思ったより女の子は可愛い子が多く、また必然的にドアホな一目惚れは多い。——もちろん、ほとんど全てが残念な結果だ。
「どんな子なんだ?」
「そりゃもうお前! すっげぇ可愛いのっ! あれはもう、本当、可愛すぎてやばいって! お前も俺と同じような感じなるねっ!」
ならねぇよ。同類にするな。気持ち悪い。
ただでさえ、お前と話しててクラスメイトのウザがっている視線に気付かないお前ととか。やめてくれ。本当。
だが俺は、本当なのかどうかを確かめるために、槻児に聞いてみることにした。
「紹介してくれないか?」
「あ? いいけどよ、お前、惚れるんじゃねぇぞ?」
槻児は待ってろ、と一言残してから教室を出て行ってから「出てこいやぁっ!」と、叫んだ。
いちいちアホさの目立つ奴だな。それも教室の外で待たせてたのかよ。用意周到というか、ただただ迷惑な奴だな。
「は、はい……!」
すると、教室に遠目でもわかる可愛い女の子が——ん? 待てよ? この子、どっかで見たぞ。それに、この声も。
「紹介しようっ! この子の名前は——!」
「佐藤じゃねぇかっ!」
「佐藤 友里さんだっ! ……って、知ってんのかいっ!!」
佐藤は、モジモジと恥ずかしそうに俯いていたが、パッと顔をあげてから数秒後、俺の顔を確認した後、驚愕の顔へと変わる。
「あぁ〜〜!! こ、香佑君っ!」
「何でお前がここにっ!」
俺はすぐさま立ち上がり、構える。周りはクラスメイトもいるから、何もしてこない——ということは考えられるが、まだ分からない。
「え、何? え、君達どういう関係ですかねっ!?」
槻児のアホがうるせぇ。にしても——また迷惑な奴を引き連れてきやがったな。
「ここで会ったが3年と三ヶ月目ですっ!」
「3年と三ヶ月ぶりっ! そんなに付き合ってたのっ!? お前らっ!」
槻児がうるせぇ。ていうか、3年と三ヶ月ぶりでもなんでもないし、それに中途半端な月日だな。
「待てっ! ここで暴れたりしたら、お前、クラスメイトとかいるぞっ!」
「え、あ……そうでしたっ!」
あ、アホの子だ……。俺は今、本気でアホの子を目の当たりにしたと思う。
慌てた佐藤は、机にガンガン当たり、転げそうになりながら満身創痍の状態で「ごめんなさいです〜っ!!」と、教室から出て行った。
「ま、待って! 待って友里ちゃーんっ!!」
惨めな槻児は、出て行った佐藤の姿を呆然と見つめていた。——なんというアホ。
「ちなみに、どうやって告白した?」
「え、いや……一緒に俺と、メロンソーダ飲みながらヒットマンの映画を見に行きませんかって……そしたら、ヒットマンの部分に凄く感激して、見に行きたいですっ! って」
「……お前、まず爆ぜろ」
「何でぇっ!?」
告白の仕方に問題ありすぎるだろ。メロンソーダ飲みながらなんで殺し屋の映画見ないといけないんだ。
それに、殺し屋に殺し屋の映画を誘うこのアホは凄いな、ある意味。
——朝から騒がしかったな……。俺はそんなことを思いつつ、窓の外を眺めた。