ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照500突破祝 ( No.69 )
- 日時: 2011/04/01 19:01
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 3Xsa0XVt)
俺は、英雄らしい。
ひょんなことで英雄の取り扱い説明書という代物を入手してから、俺はある特殊な人々から英雄と称されることになった。
特殊な人々、というと勇者やら何やらと、まるでアニメかゲームの世界でしか通用しない職業を名乗る奴のことだ。
まあ、とにかくだ。結論でいうと俺は、英雄らしい。
単に普通の高等学校に通う一般生徒でもある俺は、今日もまた学校生活を勤しもうとしていた。
平和な一日。そう、今日も平和だ。そんなことを思い浮かべながら——というのはある一人の男によって潰されたのだった。
「香佑っ!!」
「な、なんだよ……」
朝っぱらから仁王立ちで俺の目の前に立つ、この仏教面したいかにも面倒臭そうな奴——名は、横渚 槻児という。
この槻児という男は、男の中ではただの者ではない。その真意というものは——この一瞬で明かされるだろう。
仁王立ちに仏教面という、あまりに迫力の満ちた槻児の様子に、俺は深くにも怯む。そして、槻児はこう言い放った。
「女子更衣室を、覗こうと思うっ!!」
——槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
「は?」
俺は耳を疑った。それもそのはずだ。この槻児のバカは、朝っぱらから大胆にも女子更衣室を覗くというのである。
基本、早めに登校している俺だが、槻児はもちろんの如く、普段なら遅めに来る。
早め、といっても教室の中は俺達以外に誰もいない。そんな誰もいないような時刻に行っても楽しくないのだろうな。
俺は——家にいる自称勇者な美少女に何回起こす時刻を教えても、早めに起こされるのでこんな時刻になってしまっているわけだ。
そして、槻児は今日は珍しいことに早めに来ていた。それは——こんなくだらない計画のせいだったのか。
「おっと、くだらない計画だと思ったか?」
「な……!」
まさか槻児のアホ如きに俺の清い心情が見透かされるなどとは思っても見なかった。——といっても、大半の人がくだらない計画だと言うと思うが。
「ちっちっちっ! 甘いねっ!」
指を左右に振り、俺にウインクをかましてくる槻児。——ぶん殴っても、いいかな?
「そんなことだから! お前はいつまで経っても彼女出来ないまま終わるんだよっ!」
「いや、女子更衣室を覗く=彼女出来ないとは限らないと思うが。それに、覗く方が彼女出来ないと思うぞ」
「黙れっ!!」
え、何で俺一喝されたの? ちょ、本気でぶん殴りたい気分だわ。
相変わらず仁王立ちしている槻児は、やけに真剣な目つきで俺に指を差して言い放つ。
「いいかっ!? 更衣室を覗くというのはな! 男にとっては勇者同然の行為なんだっ!」
「男の更衣室か?」
「そうっ! 男の——って、男のを覗いて何が楽しいんだよっ!!」
くわっ! という好感音がつきそうなほどの豹変ぶりで、俺の顔を睨んで訂正する槻児。——クソ、引っかかってくれれば面白かったのに。
「男のに興味あるのかと思って」
「いつ何時俺がホモになった発言したんだよっ!」
「言ってただろ。毎日飯食う時に、ガチムチ最高! って言いながら学食の方まで——」
「うるさいっ!! やめろっ! 俺のこれからやろうとしている男にとっての英雄行為が損なわれるだろっ!」
「お前、死亡フラグ立ちまくりだからな?」
俺の言葉に、ピクリと痙攣したような動きを見せる槻児。何から何までウザい。
そしてその次の瞬間、ニヤリと顔を歪ませた。あー、面倒くさいこと言ってしまったようだな……。
「そう思うだろ? ふふふふっ!」
「何だよ、気持ち悪いな」
「教えて欲しいかっ!? 教えて欲しいか? このスケベッ!」
「よし。——歯、食い縛れ」
「待てっ! そういうつもりはないっ! 教えるから落ち着いて!」
何て弱い奴なのだろう。でも、本気で殴ろうとしたのは事実だ。——この野郎にスケベだなんて、言われたくもない。
俺は落ち着いて、自分の席へと座ると、槻児の方を見やる。
「で、何だ?」
「ふっふっふ! 聞いて驚けっ!」
別に、驚かないけどな。
「更衣室に、とある細工をいくつか仕組んでおいたのだっ!」
「細工?」
少し本格的なのかと、俺は細工という言葉に耳を貸す。——どうせこのまま一人でいても暇なのは変わりないしな。アホの末路を見届けようじゃないか。
「そうだっ! よし、お前も英雄となろうじゃないかっ!」
「ならないけど、お前の末路は見てやるよ」
「末路! いいねぇっ! フゥーッ!」
槻児のアホのことだからどうせ、末路=女子の着替え見放題と勘違いしているんだろうな。
もしもの時があれば、俺はずらかるし、女子に危険があれば止めるつもりだ。そのために、俺はいるようなもんだろ?
場所を変えて、とある女子更衣室。
この学園は、なかなか部活動に力を入れていたりしており、部の数もかなり多い。
茶道部何かでも、着替え等があるから本格的な感じだ。——そんなのがあるから、このようなアホが付け上がるわけだが。
さらに、それぞれ更衣する時間がずれていたりもしているみたいで……槻児が言うからには、だが。
どこからその情報を入手したのかは聞かないことにしておこう。
更衣室はそれぞれ3箇所ほどにあり、文化部はそれぞれの部室で。剣道部や柔道部等の武道場を使ったりする部は混合である。
女子ソフトボール、サッカー、ソフトテニスなんかも混合だな。
グラウンド部活動専用の更衣・シャワー室。体育館部活動専用の更衣・シャワー室。武道場部活動専用の更衣・シャワー室。
この三つが主となる。プールなどにある更衣室や、シャワー室。さらには校舎内にも転々とあるが、それらはほとんど文化部のものだろう。
「さて……ま・ず・は! 体育館から攻めるぞっ!」
槻児が妙に張り切った声を出しながら歩き出す。
部活動はこの時間にはスタートするという頃で、始めるために更衣室で着替えを始めることだろう。
体育館のバスケ部やら卓球やらバレーやらハンドボール部やら、等。
それらが各部で分かれて更衣しているわけだが……
「細工って、お前三つの更衣室みんなに仕掛けたのか?」
「当たり前だろっ!」
自信満々に言う、槻児。
三つの、といっても先ほど申したとおりに各部ごとにいくつも分かれていたりするわけで……一つ一つに細工をしたなら凄い数になる。
「あ、でも全てにかけたわけじゃないからな! それほど俺も暇じゃないからな!」
「まあ、そんなことだろうと思った。ていうか、暇じゃないって……お前相当暇だろ」
「あ? うるせぇってのっ! 今ちょっと調べてるんだからよっ!」
ニヤニヤとスケベな顔をしながら、槻児は何かコソコソと作業に勤しんでいる。
今現在、俺達がいるのは女子更衣室の裏側だ。えーと……バスケ、部か?
「ふふふっ! ユニフォームとか! 萌える萌える〜っ! フゥーッ!」
なにやら一人でぶつぶつと言葉を漏らしている姿には、本当にこいつはダメな奴だと心底思った。
「よし……! おりゃぁっ!」
何をするかと思えば——いきなりドアを開きだしたのだった。
中には、もちろんの如く、着替えようとしている女子達が大勢。
「え、あれ? まだ——着替えする時間じゃなくない?」
それが、槻児の最期の言葉となった。
「「きゃああああああ!!」」
「えぇぇぇぇっ!!」
もちろん、俺はその場をすぐに離れたさ。いや、まさか細工してあるとかなんとか言っておきながら——いきなり開くバカがいますか?
鈍い音が後ろの方から聞こえてくる。そして、断末魔も。
——それから数十分後、ボロボロになりすぎて顔が誰だか認識できないほどにまで膨れ上がった槻児が建物内から出てきた。
「べやびばいべべば……」
「え、何? お前、顔腫れすぎて何言ってるのかわっかんねぇ」
「べやに……ばいべれば……」
あーなんとなく分かってきた。多分「部屋に入れれば」だな。
いや、部屋に入る前の外側で細工は行うものだろ。とかなんとか口出ししたら、また今度やりかねんのでやめておく。
にしても、俺の嫌な予感がいち早く察知してよかった。でないと俺も槻児のようになっていたかもしれない。
なかなかスリルあるな、これ。
「お前さ、他の奴もみんな内側に細工を?」
「え……あ、うん」
いつの間にか膨らみが引いてたりするのは、殴られ慣れているせいなのか? 俺は驚く感情を必死に抑えながら、槻児を見やる。
アホにもほどがあるだろ。何で全部内側に仕掛けてあるんだ。それに時間ぐらい覚えておけよ、犯行するんだったら。
「つ、次こそは大丈夫だっ!」
「あぁ? 本当か?」
「あぁ……! 武道場の方にいくぞっ!」
武道場なら、まだ練習は始まっていないようだな。確かに、懸命な判断だと思うが……
「俺は、残るぞ?」
「はぁっ!? 一緒に大空に羽ばたくんだろうがっ!」
血を噴出しながら大空には羽ばたきたくない。
「もしバレたりしたら、半殺しじゃ済まないかもしれないぞ? 相手武器持ってるから。さっきと違って」
俺の言うことは正しいと思う。
武道場で活動している部は剣道部やらレスリング部やら柔道部やらと、やたら体を鍛えてたり、竹刀とかそういう危ないものを持っている。
この学園は、基本女の子のレベルが高いとかで、ゴツいのはあまりいないとか……槻児が言ってたが。
でも、先ほどのバスケ部でこの槻児の状態。これは、武道場は戦場そのものじゃないか。
「いや——俺はいくぜ」
「槻児……! お前、死ぬ気かよっ!?」
「生きて帰る。そうでないと、先代達の思いが報われない。俺が、俺が——叶えてやるべきなんだっ!」
なんてアホな思いなんでしょうね。皆さん、どうか心優しい目でお見守りください。
「だから、お前も来いっ!」
「何でそうなるんだよっ!」
「いいかっ!? 男には、今という時しかねぇんだよっ!!」
分からない。ただ、分かるのは——槻児がいえるようなセリフじゃないってことぐらいだ。
「よし! さすが俺の戦友だよなっ!」
結局、俺は鬱陶しすぎる槻児のウザさにやられてしまい、現在更衣室の隅っこにある置物の中にいます。
その置物こそが、細工というものだった。絶対バレない感じにしているみたいで、具体的に説明されたが、意味不明だった。
にしてもさ……なんていうことだ……。俺、何してんだろ。
「おっ! 来たみたいだっ! 危なかったなー! 後もう少し遅れてたら、バイオハザードみたいだったな!」
ゾンビみたいになるということが言いたいんだろうな。もっと日本語をよく使えよ。
そして、息を二人して殺す。じーっと待ち続けること、数十秒。
ガチャリ、と音がした。そして、中に入ってきたのは——
「はーありがとーっ! 湊ちゃんが来てくれたら大助かりだわー!」
女の子の声。いや、何か緊張してきた。
横にいるはずの槻児がふんふんと、荒い息を漏らす。気持ち悪い……。地獄だな、早く終わらせたい。
「別にいいよー。丁度今日、陸上部休みだったし」
その声はどこかで聞いたことのある声だった。
活発そうな、ポニーテールの女の子の次に入ってきたのは——神庭 湊だった。
(か、神庭っ!? 何であいつ……?)
既に袴姿の神庭は、妙に色っぽく見えた。体のラインが……いや、あまり考えるな、見るんじゃない。槻児と同類に——!
「いやーでも助かるよっ! 陸上部に入ってるのが勿体無いわっ! 剣道部に来たら!?」
「ふふ、中学校の頃にちょっとやってたぐらいですから。全然たいしたことないですよ」
「そんなこと言ってー! 前なんかウチのライバル校のエース、倒しちゃったじゃない!」
神庭のらしい部分があったりしたが、俺は神庭の新鮮な姿に見とれてしまっていた。
「あれ? 湊ちゃん? これー……サイズ、大きくない?」
「え、そうですかね?」
ポニーテールの女の子がキョロキョロと、神庭の着ている袴をチェックし始める。ちょっと待て、この雰囲気は……?
ハァハァと、うるさい息遣いが隣から聞こえてくるのがやたら鬱陶しい。
「こっちのサイズじゃない? ちょっと脱いでみて?」
「え、あ、うん」
「「ぶふっ!!」」
いきなりの行動に、俺と槻児は噴出してしまった。
やっちゃった。そう思って口を押さえる。だが——
「うん? 誰かいる?」
「……いるわけないじゃない。私達が来る時は鍵、閉まってたし」
鍵が閉まってたとかなんとか言うのは、槻児が第二の細工とかで鍵をこじ開けて、俺達は侵入したのだった。
そのおかげかどうかで、何とかバレずに済んだが……これは時間の問題な感じがしてきたぞ。
「それもそうね……。じゃあ、着替えましょうか」
「はい」
いよいよ、神庭の着替えが始まる。いや、でも何か悪いような気がするんだが……。
スルスルと、布と布の擦る音がする。そのたびに、横にいる槻児の息が荒くなっていく。
そして、神庭が遂に袴を全て脱ごうとしたその時——
ドサッ。と、俺の隣から音が聞こえた。それは、流血している槻児だった。
このアホ、あまりに興奮しすぎて鼻血出して気絶した模様。——ちょっと待てぇぇっ!!
「誰っ!?」
鋭い一声が俺の耳元を貫く。やべぇ、心臓が張り裂けそうだ。
なんという事態だよ。このバカ、迷惑かけすぎだろっ!
俺は、そこでふと、槻児のもう一つの細工を思い出したのだった。
(やるしか、ない!)
それは、更衣室にそれぞれ兼ね備えられた非難経路。そこに顔をバレずに逃げるために考案された、細工。
そう——ぬいぐるみたるもの。そして、槻児特製の煙玉。
俺は槻児の手から煙玉を入手し、こんなこともあろうかとあらかじめ、ぬいぐるみに着替えておいた俺は煙玉を投げた。
途端に煙が室内を覆う。
「な、何なのよっ! これ!」
そんなポニーテールの女の子の言葉を残して、俺は非難経路を急いで駆け抜けた。
煙玉、少々凄くてだ。避難経路のドアを開ける音が聞こえるのを防ぐためだとか。俺のために、ありがとうな、槻児。
俺は一気に避難経路を駆けていった。——槻児をその場に残して。
結果、俺は全く利害は無く免れたが——その後、顔が何十倍と膨れ上がった槻児から散々恨まれた挙句、飯を奢らされたのは言うまでもない。
「ったく! 本当クソな奴よね!」
ポニーテルの女の子が、怒った口調で文句を述べる。
その姿に、苦笑する神庭。
「湊ちゃんはどうしてそんなに怒らないの!? 裸見られそうになったのに!」
「いや……ふふ、ちょっと、ね」
「?」
ポニーテールの女の子は、神庭の笑う姿を見て困惑の表情をしていた。
神庭は、その後ポツリと呟いた。
「たいした、英雄だな。——香佑は」
そうして、クスっと、また笑う神庭であった。
「俺は諦めないぞっ!」
まだ言うか。そんな一言が漏れそうになる言葉だ。
何度この言葉を聞いて、何度試して失敗したかは数え切れない。
それが、まあ、この槻児という男なんだろう。
「俺は、女子が大好きなんだぁぁぁぁっ!!」
——槻児、どうしてお前はそんなにスケベなんだ
END