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Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜 ( No.7 )
日時: 2011/03/17 00:54
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

俺は今、とても憂鬱だ。
何だろうな、とてもムカムカする。
その原因は——

「うめぇーっ! お前も買えばよかったのによっ!」
「黙れ、腐れ、埋まれ。早く食べて冥土に行けっ!」
「ひどっ! 連発して言うなよなっ!」

連発じゃなかったらいいのかよ。
つまりはその、原因は俺の隣でガツガツと結構大きなアメリカンドックを食しているこのアホ槻児のせいだ。
——ムカムカする原因といったらこいつしか最早、いないだろ。
それにだ。最近オープンしたせいかは知らないが、妙に小洒落ている。そのためかカップルのような連中がやたら多い。
その中で俺は槻児と——考えただけでこの野郎をぶん殴りたくなってくる。

俺も何故アメリカンドックを食べないかというと、ここは人気も多い場所であって二人食べてるところを他に見られたくないからだ。
今も早く帰りたくてウズウズしてる最中だ。あぁーこいつコレ食って食中毒起こして倒れないかなぁー。
——何週間かは寝ていて欲しいな。土の中で。

「にしても綺麗なところだなーっ!」
「お前がいつも行ってる店はトイレで食わないとダメだもんな」
「そんな店ねぇよっ! ていうかそれ、店とは呼ばねぇよっ!」

まともな回答してくるところも、またウザく感じてしまう。
俺、こいつのせいですぐにウザく感じてしまう性にでもなったのか? ——いや、こいつ一人にだけか。
それから俺は何度か逃げ出そうとしたが、槻児に鬱陶しいほど捕まえられてここにいるハメになっていた。

(勘弁してくれよ……)

俺はそんなことを思いながら早くでかいアメリカンドック——あ、そうそう。槻児のクソ野郎はこのでかいのを5本も買いやがった。
どれだけ食うんだよこのバカは。その栄養を頭に使え。そしてそのウザさ改善にも使え。

「はぁ……俺も暇だから、何か買ってくる」
「アメリカンドック食うのかっ!?」
「食わねぇよ。お前みたいなバカじゃあるまいし」
「香佑。とりあえずお前、今アメリカンドック食ってる皆に謝れ」

槻児の戯言を余裕でスルーし、カウンターへと向かう。
何を購入するかというと、飲み物さ。さっきからあの野郎の顔見てたら喉が渇いたし、潤そうと思ってな。
んーそうだな……デスサイズとかいう恐ろしいネーミングを持つ炭酸飲料はやめておいて……フレッシュ・マ・マンにしよう。
——ん? マ・マン? あれ? ママン?

「230円になります!」

え、そんな高いの? 量的にペットボトルより少ない可能性高いのに? ——これだから小洒落た店は嫌なんだ。何でも高い。
渋々、俺は財布から300円を取り出し、お釣とフレッシュ・マ・マンを受け取ると槻児の元へと——帰りたくはない。
そのまま逃亡を図ろうとすると、肩をガッチリと掴まれた。——槻児の奴か?

「——見つけました」
「え?」

機械が喋ったような無感情の声で淡々と告げたものが、後方から聞こえた。
振り返ると、そこには綺麗な女の子がいた。あー何か最近綺麗な女の子を見るのが多くなった気がするなぁ。
——それも、右手に物騒なものを装備している綺麗な女の子を、だ。
そしていきなり、物騒なものを持っていない左手でぶん殴られた。——ちょ、この怪力想像できてなかったぞ。
まさかの空を舞ってそのまま勢いよく地面へとたたきつけられた。

「目標、確認。英雄の取扱説明書の持ち主である嶋野 香佑を確認。これより——抹殺します」
「あ、え? 何か言いまし——!?」

殴られて頭がボンヤリと朦朧する中、機械口調で喋られたので何を言ったのか聞き取り辛かったが、突如として物騒なものを構えて俺の元へと直進してきた。それと共に俺の第五感覚がその気迫が何かを回答する。——これは、殺気だと。

「いぃっ!?」

辛うじて横へ飛び去り、何とか物騒な刀の形状をし、赤い光を放っているそれを避けた。
椅子やテーブルが砕け散り、地面へとばら撒いた。のと同時にフレッシュ・マ・マンも——あぁ! 俺の230円っ!

「お前、人がいたら——!」

そして気付いたことがある。
それは、いつの間にか人がいないのだ。先ほどまでカウンターで話したあの受付ガールすらもいない。
槻児のアホの姿も探すがどこにもいなかった。まるで、世界に俺とこの襲ってきた美女しかいないようだった。

「変革世界にログイン成功。この世界より、嶋野 香佑の存在を抹殺します」
「は!? 抹殺!?」

今度はちゃんと聞き取れた。——目がマジだよこの子。俺を殺る気満々か? 冗談じゃねぇぞ。
謎の美女は二、三歩その場でリズムよく足踏みしたかと思えば、瞬間的に俺の目の前まで迫っていた。

「このやろっ!」

必死に俺は、テーブルを破壊されたがために出来た長くて太い木の棒でバッターの如く——振りかぶって打った。
顔面直撃——と、思った。確かに顔面には直撃した。だが——木の棒が逆に木っ端微塵☆
美女の顔はかすり傷一つもついていない。どうなってんですか、貴方の顔は。

「えぇぇぇぇっ!?」

右手の刀を美女は俺を目標に、袈裟切りで斬りかかった。
——終わった。俺の人生。そう確信したね。
わけのわからないことだらけの中、俺は死ぬのか、と。
半ば、走馬灯が走った気がしたが——ダメだ。フレッシュ・マ・マンの味を味わってから死にたいとだけ思うばかりだ。
最期まで、俺はバカだったなぁ。あばよ、世界。あばよ、俺の寛大な人生っ!


「はぁぁぁぁっ!!」
「ッ!?」


いきなり世界が煙と化したみたいになった。
周りが白い煙で覆われて、俺は、何をしていて何がどうなってどんな状態なのか全く持って分からない。
ただ……ん? 何か、柔らかい? でも何かボリュームが足りないような……。
俺はゆっくりと状況を考えてみる。そして白い煙が空けた後、俺はきっと天国に——!

「冥土まで飛んでいけぇぇぇぇっ!!」
「ぐはぁぁっ!!」

俺は、本日二度目の空を舞っていた。——鼻から血を多量に噴出して。
ぶっ飛ばされたのは、あの淡々と話す機械口調の美女ではないことは確かだ。
そして、何か元気の良いロリ声が聞こえたのも、また確かだ。

「いてて……一体何がどうなって——!?」

俺の目の前に繰り広げられた光景は、とりあえず機械口調の美女は冷静な顔で少し遠くの方に立っており——もう一人、俺と機械口調の美女との間に立っている人物がいた。
巫女服、といえば分かりやすいか。着物と言っても分かりやすいのかもしれない。
まあ、そんな感じの服を着て、右耳に小さな鈴がついている。他には……ヘアピンとか留めてて、だ。顔は——めちゃくちゃ可愛い。
身長は小さめだが、スタイルは良いほうだろう。——胸の膨らみを除けばな。
そして最後に、右手に——ゲームでしか見たことがないような機械仕掛けの大太刀が握られていた。
そして何故だか顔を真っ赤にしてツルペタ少女は俺に指を差す。

「お前っ! いきなり胸触りやがって! この変態がっ! 男のクズッ!」
「え、えぇっ!? あ、じゃあ、あの柔らかいのって——」
「黙れぇぇぇぇっ!!」

だから顔が真っ赤なわけだったのか。あれはあの凹凸の全然ない胸だったのか……。
成り行きだから、もう許してくれとは思うが。
それに、そんなイベントでもなかっただろ。必死だったからな。——あぁーでも何か惜しいことしたような気が。

「外部の敵、出現。これより敵を除去する」

美女は透き通るような機械口調で淡々と告げた後、右手に持っている刀を構えた。

「アンドロイドか。面倒臭いなー。この世界に入ってくることさえ、だるかったのにな」

ツルペタ少女が何か呟いているが、何一つ理解できない。ていうかここは一体どこで何なんだ。
色々な疑問が浮かんだが、とりあえず知りたいことがあった。

「お前、名前は?」
「黙れっ! 変態がっ!」

——畜生っ! 槻児の方が変態だろうがよっ!
結局教えてもらえずに、機械仕掛けの剣を構え、ツルペタ少女は美女と向き合った。

「こいつを倒したら教えてやるよ。——それまで死んでろよ」

え? 俺を守ってくれるか何かしてくれるんじゃね? なのに死んでろって矛盾起こりまくりだよ。
とりあえず、物陰の方まで移動して成り行きを見守ることにした。


「こんな雑魚、一瞬で倒してやるよ。——この美少女パーフェクト勇者様がなっ!」


え? 何? 美少女パーフェクト……じゃなくて、勇者って言った? あの子。