ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か? ( No.92 )
日時: 2011/06/03 22:36
名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
参照: 更新遅くなってすみません;

結局、特に何事もなかったかのように授業を終えて昼飯時になる。
あぁ、ここ最近落ち着いていなかったせいか、やたらと嬉しさがこみ上げてきて仕方がないな。

「ん? どうしたぁ? そんな嬉しそうな顔して」
「いや、何でも……槻児、アホさが浮き出てるぞ」
「どういうことだよっ!?」

いつも通り槻児はアホさ全開なわけで。俺はそのことを確かめると自然に笑みが零れた。
家の環境とか、俺自身が変わってもこいつらは変わっていない。それが嬉しい。

「おうー! 一緒に食おうぜー!」

と、どこからともなくやってきたのは中里だった。笑顔で弁当を持ちながらやってくる。——てか、弁当持ってきてるのに何で食堂来るかね?
確か槻児が中里と仲が良かったはずだ。多分そのおかげでもあるだろう。
ちなみに今まで寄って来なかったのは文化祭のことで話し合いが長引いたりしたからだそうだ。
やっとお暇がもらえたとかなんとかで……お前は会社員かとつっこんでやりたいね。
いかにも自家製という感じのする弁当箱を俺たちのおいてある食い物の横に置いた。

「弁当箱作らなくても、食堂なんだから何か買えばいいんじゃないか?」
「いやーそれがいらないって言ってるのに作ってくれるんだよねー」

何とも羨ましいことか。俺なんて——前にユキノに頼んだ時とか、弁当の中に豆腐しかなかった。ポン酢かけて食べたから美味かったけどな?
その時ほど白飯を求めた時はない。以降、あまりユキノに頼まなくなった。
そういえば結鶴は料理できそうだな……。でも前にそれらしきことを言ったら——

「クレープですか?」
「いや、普通のごは——」
「パフェとクレープにマシュマロ。そしてチョコレートのビターのソースをかけたパンナコッタですね?」
「……いや、やっぱいいや……」

ということになったんだった。何で甘いものオンリーなんだよ……。剣客なのに和風じゃないというところが何ともいえない。
そういう残念な出来事があったために、結鶴もダメだな。お菓子類を作ることに関しては神がかってるが。

「どうした? 顔が青いぞ?」
「い、いや……ちょっと色々思い出していた」
「? 変な奴だなー」

中里は気楽に笑いながら槻児の隣の席についた。俺と槻児は向かい合わせに座っていたので、俺が二人と向かい合う形になっている。

「そういえば、神庭さんが嶋野のこと呼んでたぞ?」
「へ? 神庭が俺を?」
「あぁ。何か話があるとかなんとか」

弁当を早速開けておかずを口に運ぼうと箸でつつきながら、中里は俺に教えてくれた。
すると何故か槻児が「な……!」と声をあげた。——食べてる途中に口を開けるな。メロンパンがグロテスクだろうが。

「お前っ! いつからそんな仲にっ!?」
「変な勘違いするな、気持ち悪い。神庭が何の用かは知らないけど、別に何も仲がどうこうしてるわけじゃねぇよ」
「嘘だぁああっ!!」

ダメだ。このアホは食堂で膝をついて涙を流してやがる。あぁ、別に神庭が好きとか、というわけではないと思う。単に美少女で狙い目をつけていた、という話だろう。
いつものことながらウザいと感じつつも、俺は食器を食堂に返し、そこから離れようとする。

「教えてくれてありがとな、中里」

中里は何も言い返さず、ただ苦笑しながら俺に向けて手を振っていた。

それで、だ。神庭が呼んでいたとは聞いたが、どこにいるかだな。まだ昼休み。食堂で食べてないとすれば、屋上か?
俺はせっせと屋上へと足を進めた。そして、辿り着く。
屋上へと通ずるドアを開いてみると、風がほのかに俺の頬をくすぐる。適当に人は居る中、俺は神庭の姿を見つけた。よかった、予測が当たったようだな。
俺が声をかけるより先に、神庭は俺のことを見つけて微笑んだ。——今更のことだが、神庭ってやっぱり美人な方なんだと思った。
風で長めの髪が揺れて、それを左手で抑えながら俺に近づいてくる。ったく、少しドキドキしてきやがった。健全な男子高校生にはちと、刺激が強いな。

「中里君から聞いた?」
「あ、あぁ。聞いた」

聞いた、というのは神庭が俺を呼んでいるとかいうのだろう。

「此処に居るって、よく分かったね?」
「飯といえば、神庭は此処にいる気がしてな」
「何それっ! まあ、確かにいること多いんだけどね」

神庭は小さく笑うと、場所を移そうと言い出した。そんな重要な話なのか? と、俺は胸の高鳴りを抑え切れない。
屋上から離れて、人気の無い場所に行くと、神庭は話し始めた。

「えっとね?」
「あ、あぁ」

告白なんてことされたらどうしよう! なんて自惚れたことは思わない。何せ、神庭と俺の仲だからそんなことは無いだろう。

「一日だけ、彼氏を演じて欲しい」
「あぁ、何だそんなこと——って、えぇっ!?」

驚愕のあまり、俺は腰を抜かしそうになった。神庭は「お願いだよっ! 香佑!」と、懇願してくる。
どうしてまた俺なんだ。他の奴でもいいというのに。俺は息をゆっくりと吐いて落ち着いた後から口を開いた。

「何でそんなこと?」
「いやー……それがー……」

神庭は頭を気まずそうに掻いた後、説明をし始めた。
何でも家庭の事情とか、友達からのこととか色々あるらしい。

「ダメ、かな……?」

上目遣いで見てくる神庭の姿を見て、俺は不甲斐無くもドキッとしてしまった。どういう状況だよ……。てか——断る理由、なくね?

「そういうことなら……一日だけなんだろ? 別に構わないけど……」
「あぁ、よかった! それじゃあ、今週の土曜日の朝からいけるかな?」

すぐさま元気良く返事を返してきた神庭。土曜日の朝、というとー……数日後だな。

「大丈夫だが……俺でいいのか? 神庭なら他にいくらでも——」
「別にいいって。それに、香佑が一番頼みやすかったし!」

無邪気に笑ってくれてはいるが、いまいち掴めないままでいる俺。まぁいいか、と割り切ることにする。

「槻児は?」
「あぁ、頼みごとをするなら別にいいと思うけど……こういうこととなると、あいつ変態じゃん?」

なるほど。一瞬で理解した。つまり、振舞うだけだというのにあいつは本気でデレたり何なりするわけだから——簡単に言うと、面倒臭いというわけだ。

「あ、そろそろ行かないと……! ごめんね、香佑。呼び出したりして」
「いや、いいけど……」
「それじゃあね!」

神庭は元気よく階段を下りて行った。俺はその場でため息を吐いて、近くにあった自動販売機でカフェオレを購入してから教室へと向かっていった。
——その時だった。
もの凄い勢いで壁が粉砕され、何かが俺の目の前にぶっ飛んできた。

「ッ!?」

煙が凄い勢いで視界を奪う。だが、段々とそれも薄れて行き、そして——

「嶋野様、ですよね?」

この可愛らしい声。そして嶋野様と呼ぶ唯一の存在。

「お前……! レミシアか?」

煙の中から出てきたのは最初に会った時のようなゴスロリに似た服を着たレミシアだった。右手には、最初同様に物騒な長剣が握られている。

「お久しぶり? ですか? 実はお話したいことがあるんです☆」
「話したいこと?」
「はい☆」

レミシアはニッコリと笑って俺を見つめた。そして、何故だが俺は思ってしまったんだ。この笑顔を見て
——レミシアは、何か嘘を吐いている、と。




「う……!」
「あ、気付いた?」
「こ、ここは……?」

佐藤はベットから身を起こし、周りを見渡す。部屋の中にいつぞやの勇者、ユキノの姿と見知らぬ女の子二人の姿があったことに驚く。

「ふぁあっ!! だ、誰ですかぁっ!? って、勇者のっ!!」
「ユキノだっ! 僕の名前ぐらい覚えておけよっ!」
「す、すすすすみません!!」

えらく動揺しているのと、ユキノの顔を見るだけで驚愕と困惑の表情を入れ替えたりしている姿にふっ、と燐は笑ってしまう。

「え、えっと……? こ、この方々は……?」

佐藤はユキノに燐と葵の紹介を頼む。ユキノが口を開いて自己紹介する前に燐が先に口を開いて、話し出した。

「私は燐。そしてこちらが姫様……葵様、です」

渋々、といった感じで燐は葵の紹介をした。ペコリ、と葵は頭を下げて小さく「よろしく」と言った気がする。

「て、ていうか! ここ、どこですかっ!」

急に佐藤は思い出したようにして声をあげて居場所をユキノに聞く。

「あぁ、ここは香佑の家だよ」
「こ、香佑って……! 英雄の家ですかっ!!」

先ほどとは比べ物にならないぐらいの驚愕ぶりに、さすがのユキノも少し引いた。

「ちょ……! 落ち着けって! 佐藤 友里、だっけ? 何であんなボロボロだったんだよ?」
「へ……?」

と、そこで佐藤の同様が一瞬にして消える。そして沈黙。どういう状況なのか飲み込めずに、思わず燐は口を開いた。

「つまり、傷だらけで倒れていたところをユキノが助け、ここに連れて来た。その傷だらけの理由を教えて欲しいというわけです」

初対面の人には大抵、敬語の燐は佐藤に問いただしている内容を軽く説明した。
その説明を聞いた佐藤は、表情を深刻な顔つきに変えて黙り込む。

「な、何かあったのか?」

ユキノが少し躊躇いがちに聞いてみる。すると、重苦しそうに佐藤は言葉を発した。


「私は……救世主メシアの魔力を備えている、オリジナルの佐藤なんです」


救世主。その言葉に、一同は騒然とした。
それはどこの異世界でも共通に伝えられている——伝説の職種なのだから。